ビールのあのウマイ味と香りは、もう作れなくなるかもしれない……
地球温暖化と聞いて何を思い浮かべるだろうか。氷河の融解か、異常気象か、それともコアラの絶滅危機か……そこに、ビールを加えてみよう。
ビール?と思うのも無理はないが、この事実を知ってほしい。
古代から受け継がれてきた、ドイツの伝統的なビール作り。その素材たる貴重なホップが、地球温暖化の影響で脅かされているのである。
世界的なビール大国として知られるドイツが古代から受け継いできたホップは、その品質を維持するために重要な役割を果たしている。太陽の光が降り注ぐシュパルトの緑の丘は、ホップ栽培の伝統に彩られた豊かな歴史を誇っており、何世紀にもわたって誇りを持ってホップを栽培してきた。
しかし、気候変動がこうした長年の慣習に深刻な脅威をもたらしている。
ホップは一定の気候条件下でこそ最良の品質を保つことができるのだが、過酷な気候変動が進む中で、その条件を整えるのが難しくなってきているのだ。
近年の猛暑や長期の干ばつ、猛烈な嵐といった気候を経て、ドイツでは大戦以来最もホップの収穫量が減少した。その影響は、シュパルターのようなホップの在来品種にも深く及んでいる。
そしてもちろん、この問題はホップに限らず、他の農作物やあらゆる植物にとって甚大なもの。ホップと気候変動、その両者が交わる点こそが、我々が直面する環境問題の核心とも言えるわけだ。
そこで、我々は新たな価値観を持つべきではないか?
温暖化を食い止めるための努力は必須だが、それだけでは十分でない。それぞれの地域が持つ伝統や文化、そして生物多様性を維持しつつ、持続可能な社会を築いていくことが求められている。
例えば、ビールの製造においては、伝統的なホップだけでなく、新たな品種や育成法を開発し、絶え間ない研究と試行錯誤を重ねていく。また消費者としては、地元のビールブランドを選択することで、地域の経済と環境を支えることができる。
小さな選択が、大きな力となるのである。
ただ同時に、農家が気候変動に強いホップ品種に移行するかどうか、醸造業者がこれらの新品種を採用するかどうかという問題も迫ってくる。
とはいえ、「スパルターホップの“本物の味”に代わるものはない」と多くの人が信じているのも確か。気候的な問題やコスト的な問題に直面しながらも、伝統のホップを守ろうとする農家の姿勢は揺るがないだろう。
気候変動は、こうしてビール農家やビール愛好家にとって直接的に影響を及ぼすまで進んできている。そう思えば、自然と環境への意識も変わってくるのではないだろうか。
今度ビールを飲むときは、ホップ農業の豊かな歴史と、どんな困難にも負けずに伝統を守ろうと努力する、スパルトのような地域社会の「不滅の精神」に感謝する──そんなひとときを過ごしてみてはいかがだろうか。
ビールをこよなく愛する筆者にとって、気候変動によって伝統的なホップの味が失われつつあるというのはかなりの死活問題です。ドイツはビールに関する法律もあるくらいビールガチ勢だからこそ、日本人の筆者よりも頭を抱えているのは想像に容易い。
しかしこれはビールだけでなく、伝統的な日本酒やお茶にも当てはまる問題になるはず。他人事ではすませられない問題だと捉えています。