大英博物館が所蔵品の全デジタル化に踏み切る。その裏には職員による窃盗事件が……

23年10月、大英博物館が8万点を超える常設コレクション全体をデジタル化する計画を発表した。

インターネットを通じて世界中の人々が容易にコレクションにアクセスできるようになるほか、この計画には展示室のセキュリティ強化も含まれているようだ。

コレクションのデジタル化とは

一般的に、博物館や美術館における「デジタル化」とは収蔵品を写真・動画・3Dデータ・文字データ・音声データなどで記録し保管することを指す。

今回の大英博物館の計画では、主に以下の情報をインターネット上で閲覧できるようになる。

  • 説明文
  • 作者
  • 製作時期
  • 材料
  • キュレーターのコメント

展示品のデジタルカタログには、すでに約450万点が登録・公開されており、今後5年間で130万点が追加される予定だ。

『The New York Times』によると、プロジェクトの完了には約5年の期間と、およそ1000万ポンドの費用が必要になると予想されている。

デジタル化の背景には

なぜ、莫大な予算と労力をかけてまで、大英博物館はコレクションのデジタル化に踏み切ったのか。

この計画の背景には、博物館職員による窃盗被害がある。

30年間館に務めていた上級学芸員が、長期に渡って繰り返しコレクションを盗んでいたことが発覚。23年8月に解雇が発表された。

盗難に遭ったのは紀元前15世紀〜西暦19世紀までの宝飾品などで、被害点数は2000点にも及ぶ。これらのアイテムは考古学的な価値が比較的低く、詳細なデータが登録されていなかったという。

正規の目録が存在せず、ひとりの学芸員に管理が委ねられていたために、盗難が容易だったと指摘されているのだ。

事件を受け、大英博物館は全ての所蔵品を細かく記録し、一般公開して監視する「デジタル化」に乗り出したのだ。

なお、館はウェブサイトで盗難品の情報提供が呼びかけており、これまでに約350点を回収したとのこと。

『artnet』が掲載したコメントでは、暫定所長のマーク・ジョーンズ氏は以下のように述べている。

「コレクションを閉じ込めることは、セキュリティの強化にはならない。アクセスを広げ、認知度やアクセス性を向上させることが、異変にすぐ気がつき、安全性を高める上で最も重要な対策なのだ。」

「だからこそ、我々はこのデジタル化を通じて、館のコレクションを世界で最も楽しまれ、利用され、閲覧されるものにしたいと考えている。」

人々がよりコレクションにアクセスしやすくなるのは喜ばしいことだが、このような事件によってデジタル化が進んでいくことに、複雑な気持ちを抱く人も少なくないのではないだろうか。

Top image: © iStock.com/Starcevic
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