ワールドツアー決定!「過去一サステイナブルで行くんで、よろしく!」
今月17日、ビリー・アイリッシュによる3年ぶり3枚目のアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』が、満を持して全世界に解き放たれた。
全体のストーリーやテーマを強調する目的で、リードシングルの公開を一切行わなかったり、Instagramの「親しい友達」機能に彼女のフォロワー全員を追加するなど、ビリーならではのプロモーションによって、発売以前からファンの熱量は爆発寸前だったことは言うまでもない。
アルバムの発売に伴って今年9月より、81日間にわたるワールド・ツアーを開始のアナウンスも。なにやら、「過去もっともサステイナブルなツアー」を施策中だという……。
これでもか!なほど
サステイナブルづくめなツアー
ご存知の方も多いはずだが、ビリーは世界的なアーティストの傍ら、気候変動運動家としての顔を持っていることでも有名。
以前、音楽プラットフォーム「bilboard」の取材に対して、9月からのツアーは音楽業界の持続可能性の推進に取り組む非営利団体「REVERB」と協力したものになると示唆していた。
「REVERB」といえば、2023年にグラミー賞における新たな部門「ユニバーサルミュージック×REVERBアンプリファイア賞」が追加されたことでも知られており、音楽×環境をつなぐ架け橋的存在として注目されている。
では、“過去もっともサステイナブルなツアー”とは、一体どれほどのものか。取組み事例があまりにも多すぎるため、目新しいものを筆頭にピックアップしてみた。
◉ライブ会場やバックステージに、無料の給水ステーションを設置
→ペットボトルの使用を11万7000本以上回避
◉全ライブ会場にて、通常メニューと同価格の植物由来フードを提供
→スタッフへの食事も、すべて植物由来に
◉全販売グッズに、100%オーガニックコットンブランクを使用
→プラスチックの持ち帰り袋は使用不可
◉舞台裏の機材は、充電式電池の使用を徹底
→セットの一部の電力は、太陽光発電を供給
といった具合に隅から隅まで、余すことなくサステイナブルを徹底する様子が伺える。ビリーほどの絶大な影響力を持つアーティストが、ここまで会場の細部に工夫を凝らしている例は珍しいのではないか。
「私の音楽のあらゆる面で無駄を最小限に抑えるために、全力を尽くしている」と本人が強調するように、自身のレーベルもそれを全面的に支援する形で、最善の方法を模索しているとのこと。
また「見て見ぬふりをして自分のビジネスやキャリアに取り組み、何もしないというわけにはいかない。それは私の育ってきた生き方でも、望む生き方でもない」とも。22歳とは思えぬ達観したコメントに、奇しくも同い年である筆者は心おののくばかり。
多彩な才能とその影響力を、世の中を正しい方向へ導く“トーチ”として人々の眼前を照らし続けるビリー。これこそが現代ポップスのアイコンではないだろうか。
求めるのは「音楽の質」のみにあらず
環境にとって最善の方法を追求するビリー・アイリッシュ。アナログ(CD・カセット・レコード)における素材にも追求する。以前、彼女が売上枚数を伸ばすために複数形態のパッケージCDを発売している業界システムの現状に対し、「浪費的」「苛立ちを覚える」と非難したことは記憶に新しい。
前作『Happier Than Ever』において、リリースした8形態すべてにリサイクル材料を用いたが、もちろん今回も。今作は同じく8形態でリリースされ、標準のブラック盤は100%リサイクルされたブラックヴァイナルから、残り7つのカラーヴァイナルはエコミックスまたはバイオヴァイナルが原料になっているらしい。
また、レコードを包むシュリックラップまでも100%リサイクル可能なモノに置き換わっており、こうした細かな部分ひとつとっても妥協を許さない姿勢が伺える。
エコー・ウィスパーが世界を変える
10代半ばから絶大な影響力を手にしたことにより、ティーンエイジャーと世界的アーティストという、二足の草鞋を履きながら苦しみや葛藤を抱いてきたであろうビリー。いま22歳にしてそうした迷いを捨て去り、歩むべき未来がはっきりと彼女のなかに見えている、とファンの一人として思わざるを得ない。
その証拠に、REVERBの創設者であるAdam Gardner氏は「彼女のチームは特に音楽業界のビジネスのやり方に関して、現状を揺るがし、疑問を投げかけることを恐れていないようだ」と分析する。
目まぐるしい環境問題に加えて、音楽業界では一部のファンによるモノ投げ行為の被害も多発している昨今、結局若者の心に刺さりやすいのは、ビリーのようなアーティスト側からの“啓蒙”なのかもしれない。今回のワールド・ツアーが世界各地にどのようなシナジーをもたらしていくのか、今から楽しみでならない。
そうそう、ツアー日程に日本公演はまだ追加されていないものの、日本のファンに向けてこんなメッセージを送るビリー。
「もうすぐ行くから、マジで」
もうコレって、そういうことだよね……?