最高の自己啓発本は、「ドラァグ・クィーン」の写真集だ!
セルフラブやセルフコンフィデンスを題材にしたコンテンツは、ここ数年でかなり見かけるようになりました。そのなかでお決まりのフレーズとなっているのが、「Be Yourself」という言葉ではないでしょうか。
「自分らしくいるべき」ということは何度も諭されている。その方が楽でいられることも知っている。でも、本当の自分をさらけ出す勇気は、どんな本を読んでも、動画を観ても得られない。そんな人はきっと多いのでは?
そんなあなたに
はい、ドラァグ・クィーン
『WHY DRAG?』は、英国人写真家マグナス・ヘイスティングスによる、ドラァグ・クイーン135名の写真集&インタビュー集。2016年にアメリカで発売され、日本語版は2020年に発売されました。
内容は至ってシンプル。個性豊かでファビュラスなクィーンの写真とともに、タイトルにもなっている質問「Why drag?(なぜドラァグをするの?)」に対するクィーンたちの回答が収録されています。
ドラァグが叶える、自分らしいジブン
「自分らしくいるために、ドラァグ・クィーンの写真集?」
確かに、ドラァグ・クィーンというと、素顔がわからないようなメイクや装いが印象的かもしれません。しかし、これこそがクィーンたちがありたい姿。男/女という二元論では収まらない本来の自分を、どぎついメイク、バカでかいウィッグで表現します。
「これでもか!」というくらいに着飾るクィーンたちは、たしかに“ありのまま”とはいえないし、いわゆる社会の美の基準からは外れているかもしれません。けれど、最高に自分らしく、何より目が離せない不思議な魅力があります。
そして、たった2単語の問い──「Why Drag?」へのクィーンたちのアンサーが、また最高にしびれるのです。以下では筆者が心を掴まれた、ソウルフルな回答を少しだけご紹介。
Brooke Lyn Hytes(オーランド)
“なぜドラァグをやるか?私が自分で選んだとおりのものになれるからよ。自分の人生を支配し、誰に答える必要もない。それは自由。”
Johnny Rockitt(サンフランシスコ)
“……ドラァグは私に立ち上がって(ヒールでね)「あなたは誰にだって、何にだって好きなものになれる、街中で誇らしくそれをやりなさい!」というチャンスをくれる。あなたはアーティスティックにもクリエイティヴにもなれる。ただ、手放す勇気を持て、そして楽しめ、ってね。…‥"
Delta Work(ロサンゼルス)
“ドラァグは二重性を受け入れる究極の方法。思考、観察、多様な感情を肉体的な形に移し替えること。ドラァグはジェンダーに融通が効くところ。仮面の背後には隠されている本物の自由がある。”
Boulet rothers(ロサンゼルス)
“自分の本当の形の決定へと向かう自然な進化”
ありのままの自分 < ありたい自分
ドラァグは社会を解放する生き様
日本のドラァグ界で長きにわたって活躍するクィーン、エス厶ラルダさんは、本書のあとがきでこう綴ります。
“……ドラァグ・クィーンのメイクも衣装も仕草も、「女性に近づくこと」を目的としたものではなく、世の中で「女性らしい」と言われている要素をパロディ化したものであり、ドラァグ・クィーンというのは、「女性らしさ」「男性らしさ」などに縛られて生きることのバカバカしさを笑い飛ばす試みであるともいわれています。……”
そう、ドラァグが解放するのはクィーン自身にとどまりません。オーディエンスである私たちに、自分らしくいることの美しさ、楽しさを身を持って体現し、己を解放する勇気を与えてくれます。
自分らしくいたい。でも、社会が提示する「らしさ」に囚われてなかなか解放できない。そんなあなたを縛る「らしさ」を解体するのが、ドラァグ・クィーンなのです。
ありのまま、ではなく、ありたい私の姿で、常識やルールを吹き飛ばす。『WHY DRAG』に登場するクィーンたち、そしてその生き方は、あなたにこの上ない自信と自由を授けてくれるかもしれません。
背中を押されたくば、NOW, WHY DON’T YOU DRAG?
『WHY DRAG? 』
【出版社】国書刊行会
【発売日】2020/2/25
【写真】マグナス・ヘイスティングス
【序文】ボーイ・ジョージ
【日本語版オリジナル解説】エスムラルダ