「ホームスワップ(Home Swap)」とは?:マッチングアプリのように人と繋がりながら旅先の宿を確保できる革新的プラットフォーム【2024年最先端旅行トレンド】

パンデミックの後、「旅」は多くの人にとってさらに特別なものになりました。単にホテルやツアーを予約して決められたコースを歩むのではなく、もっとパーソナライズされた「自分だけの旅」を望む傾向が高まっています。

経済や社会、目まぐるしく変わる世界の中で、いま最も“アツい旅”とはどんなものでしょうか。本特集では、時代を先取りする世界の旅行トレンドを紹介し、あなたにフィットした休日を見つけるためのインスピレーションを提供します。

今回は、近年世界でトレンドとなっている、新しい宿泊手段をご紹介。

海外で注目されている旅行トレンド
「ホームスワップ」とは? Airbnbとの違いも

「ホームスワップ(Home Swap)」は、特に欧米圏で注目を集めているキーワードで、別の地域に住む二人のペアがお互いに自宅を貸し借りし、文字通り“家を交換”する宿泊方法のこと。

民泊という意味ではAirbnb(以下エアビ)に近い部分もありますが、これとホームスワップが大きく異なるのは、空き家や貸別荘ではなく「自宅」を利用すること、そして双方が「無償で」貸し借りする点。

エアビの宿は貸し出しのために専用の施設が使われる場合も多いのに対し、ホームスワップは「利用者自身が暮らしている」家や部屋を、そのまま相手と入れ替えます。利用費を支払わない(一方的な金銭的利益が無い)フェアなシステムであることも含め、これらの特徴がZ世代をはじめとする新しい価値観と高いシナジー効果を発揮し、世界的なトレンドとなっているようです。

家の交換というコンセプト自体は何十年も前から存在しており、2006年の映画『ホリデイ』のように、これをモチーフにした作品も公開されています。

しかし、この頃Z世代の注目を集めているのは、従来のものとは一味違う、洗練されたプラットフォームの数々です。

Google Trendsによれば、2021〜22年頃から、これに関する検索の数は着実に増加。特に、22年最初の10日間は『Love Home Swap』の新規トライアルが前年比65%も上昇したのが確認されたとのこと。パンデミックでパブリックな旅行が封じられたことで、プライベートな旅行手段としてホームスワップが注目されるようになったことが分かりますね。

ところで、日本人の我々からすると、「家を貸す」という行為はリスクやデメリットも孕んでいるように感じます。それでは、何がそこまで旅好きの若者を惹き込んでいるのでしょうか。3つのポイントから、トレンド化のワケを紐解いてみます。

© Rotten Tomatoes Classic Trailers/YouTube

トレンドの理由:ホームスワップのメリット3点

その1:ノーコストで「憧れの居住空間」を体験できる

先述したように、ホームスワップの魅力とは「友人の家を借りるような安心感」です。

商業化にあたって設備を整えているエアビやホテルと異なり、そこで待っているのは、(民泊の時に感じるアレのような)自然な生活感が漂うまさに“アットホーム”な宿泊体験。しかも、それは完全に新鮮なものというわけではなく、自分のライフスタイルに適ったものであるのも魅力的と言えます。

また、ホームスワップをする人たちが共有するのは「物件」だけではないというのもポイント。

家の設備に加え、子どものおもちゃから自転車や車などの移動手段、果てはジムの会員権に至るまで、その人が“暮らしに使っているモノ”がそのまま提供されることもあるとか。

マッチングアプリの感覚で「価値観は似ているけれど、自分とちょっと違う」相手を探し、そのホストの生活をそのまま追体験するわけですから、心地よさと新鮮さのバランスが絶妙。

さらに、費用がかからないので、長期滞在するケースが多いようです。

リモートワークができるなら在宅勤務として仕事もできるし、休憩の間にホストが教えてくれたカフェでブランチやコーヒーを楽しむことだってできます。そしてもちろん、週末は観光や買い物へ。

好きな場所で「暮らし」と「旅行」が両立できるのですから、流行らないはずがありません。

その2:多様化するプラットフォームが、パーソナライズされたコミュニティ感覚を実現

『Home Exchange』や『Love Home Swap』のように、こうしたサービスは以前から提供されていましたが、近年は多様なプラットフォームが登場していることも注目すべきポイントです。

例えば、近年大きく勢いを伸ばしている『Kindred』。ここには欧米を中心に50以上の都市で1万件以上の家が登録されていますが、そのほとんどはモダンでスタイリッシュなモデルルームのような部屋です。都市圏をターゲットとした、比較的ラグジュアリー志向のマーケティングであることが伺えます。

また、ホスト・ゲスト共にLinkedInのアカウントと紐付けられており、マッチングの際にお互いの顔や素性も見えるようになっているとのことで、透明性を重視した信頼できるプラットフォームとなっています。

© Gabrielle Stieglitz/LinkedIn

一方で、2022年にローンチされた『Twin City』はかなり方向性が異なっています。ホームページに写るのは、メタリックなフォントで型取られたロゴ、ブラック・イエロー・オレンジを基調とした前衛的なページデザイン……まるでファッションブランドのようなページ(実際にアパレルも展開している模様)です。

年会費の約189ドルを支払えば何回でも利用できる手軽さや、“ツインズ”と呼ばれる相棒を見つけることで「信頼できる人の家で暮らす」感覚をウリにしているだけあり、感度の高い若者を狙ったアプローチですね(公式インスタグラムの投稿からも伝わるかと思います)。

© twincityglobal/Instagram

これらは会員への申請や審査が必要であったりとクローズドな空間ですが、もっとカジュアルな選択肢としては、先述した『Home Exchange』や『Holiday Swap』なども存在しています。

閉ざされたコミュニティで本当に気の通う人と繋がるか、もっと緩やかに世界中の人と繋がるか──個人が趣向に合わせてコミュニティを探せるまでに、ホームスワップのプラットフォームが多様化してきているのです。

その3:ただ貸し借りするだけじゃない、 「深いつながり」と「生のローカル体験」

夢にまで見たパリでの目覚め、ニューヨークからの出勤、ロンドンでのナイトライフ。海を超えて、あらゆる場所があなたの「家」になる──

こう聞くだけで、ホームスワップが多くの人を虜にするのも頷けるかと思います。

しかも、そこ待ち受ける体験は、普通に予約したホテルのサービスやありきたりな観光とは一味違います。ホームスワップの最大の魅力は、マッチング(=友人となった)相手から教わった「地元の楽しみ方」です。

© twincityglobal/Instagram

地産地消や文化尊重など、旅先の地域でしか味わえない体験を求める傾向は年々高まっています。ガイドブックやまとめサイトの情報も有用ではありますが、こうした体験をする上で何よりも参考になるのは、やっぱり「現地の友人からの紹介」ではないでしょうか。

ホームスワップは、ユーザーは誰かとマッチングし、まずは友人としてコミュニティを築くところから始まります。そしてマッチングした両者は、お互いに地元の行きつけやお気に入りスポット等を紹介し「住人ならでは」の地元体験をするわけです。

また、時には家に贈り物ならぬ“忘れ物”が残されていることも。

コンデナスト・トラベルの記事では、「ある家族と家を交換した際、おもちゃを貸してくれたお礼にと、ゲストの子供たちが本を残してくれた」という体験談が紹介されています。心温まるエピソードも、深いつながりを生み出すホームスワップならではの出来事ですね。

そこに住んでいる友人と家を交換し、彼/彼女が送る現地での日常を追体験する──これこそ、ホームスワップでしか味わえない”本当のローカル体験”と言えるのではないでしょうか。

© livekindred/Instagram

流行の背景は、
世界的な「Airbnbの禁止」と「新しい価値観」

さて、ここまで読めば、ホームスワップの新鮮さや魅力は伝わったかと思います。

ところで、以前から概念としては存在していた「家の交換」が、近年に入って世界的なトレンドとなった要因とは何でしょうか。

一つは、先述したようにパンデミックに始まる「社会的な意識変化」にフィットしたという点。

プライベートの感覚は現代的で、一人や少人数での旅に新たな体験を約束してくれます。また、プラットフォームやコミュニティがベースとなっていることから、SNSでの投稿を加速させ、共感を集めやすいことも推察できます。

そしてもう一つ見逃せないのは、世界的な「エアビ排斥」に向けた動向です。

大人気の同サービスですが、騒音やゴミ問題のほか、地域に貸出用の居住スペースが多発することで物件が圧迫され、家賃の上昇や住人の減少を引き起こす原因にもなっているそう。行政からも問題視されているのが現状です。

地域社会にネガティブな影響が出てしまうのは良くない。地域に根ざした体験を求める現代の旅行者には、異なる宿泊手段が必要だったのです。

ホームスワップは、コスパ時代における「旅のNEW STANDARD」になる?

物価上昇も相まってコスパが求められているのは周知の事実ですが、一方で、Z世代の間で「旅行での費用を節約しない傾向」が高まっているとのレポートも散見されます。

例えば、American Expressの『2024 Global Travel Trends Report』によると、近年は人々が旅行に費やすお金の額は増加傾向。

© 2024 American Express

約8割ものZ世代は「より良い旅行体験のためには費用を惜しまない」と回答しており、「そのために日頃の出費を抑えてお金を貯めている」Z世代回答者も70%を超えています。また、そのうちの多くは「旅行体験をさらにアップデートするため、次回はもっと費用をかけたいと思っている」と考えているとの結果も。この傾向は、特にZ世代に顕著なようです。

いまや旅行におけるコスパは「単に安いこと」ではなく、「費用に見合った体験ができるか」を指すと言えるでしょう。

またCritmanのレポートでは、現代はとにかく「パーソナライズ」された体験が求められるとのデータも。

さて、話を戻すと、多くの旅行者にとって高額の費用が苦ではなくなっているが、同時にホームスワップのような極限まで費用をカットするスタイルもトレンド化してきている。一見すると矛盾しているように思えますが、これは旅への嗜好性が多様化している兆しと捉えられるのではないでしょうか。

費用のかかるホテルやツアーを予約する場合は、高額でも“とことんラグジュアリー”な体験を。もっとカジュアルにプライベートな旅をしたいなら、友人とのホームスワップで“究極のローカル体験”を……というような分化が起きている。

昨今の旅行者は、その時々のニーズに合わせ、パーソナルな方法を選んでいるのではないでしょうか。

そう考えると、費用を抑えながらもユニークな体験を満喫できるホームスワップは、時代が求める「新しい旅のカタチ」として今後さらに普及していくでしょう。日本に進出する日も、そう遠くないかもしれません。

Top image: © 2024 NEW STANDARD
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。