流行りの「無計画旅行(Plan-free Travel)」とは?:あえて計画しないことで、セレンディピティに任せて“本場”を楽しむスタイル【2024年最先端旅行トレンド】
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旅行の計画を考えている時ほど楽しい時間はない……そう思う人は少なくないでしょう。実際、旅先を満喫するために念入りな準備をするのは大切なことです。
でも、大抵の場合、すべてが思い通りに行くわけではないのも事実。トラブルで計画が崩れてしまいイライラした経験もあるかと思いますが、考え方を変えてみれば、それこそが「最高にユニーク」な体験に繋がるチャンスかもしれません。
経済や社会、目まぐるしく変わる世界の中で、いま最も“アツい旅”とはどんなものでしょうか。本特集では、時代を先取りする世界の旅行トレンドを紹介し、あなたにフィットした休日を見つけるためのインスピレーションを提供します。
今回は、近年世界でトレンドとなっている、旅行計画の新概念をご紹介。
新たな旅のスタイル
「無計画旅行(Plan-free Travel)」とは?
「プランフリー・トラベル(Plan-free Travel)」とは、その名の通り“あえてプランを立てない”という旅のスタイルです。
この単語は昨年末に『コンデナスト・トラベラー』がトレンド紹介の記事で用いていた造語で、ここでは和訳して「無計画旅行」と表記します。
ポイントは、単にノープランでダラダラするのではなく、意識的に計画を立てないことで「その場で気になったモノや空気の流れを大切にしながら旅をする」ということ。
分かりやすい例としては、現地に着いてから地元の人とコミュニケーションを取ってオススメのお店や名所を教えてもらったり、通り道で目に入った場所を興味のままに探検してみたり。日本人に馴染み深い言葉としては“成り行き”に近いものですね。
SNSでよく見る有名スポットへセルフィーを撮りに行くのではなく、その地域のもっと深い部分を自力で探る……そんな理念の現れとも言えます。
近年に入って世界的なトレンドとなっているようで、英語圏では様々な旅系メディアやブロガーがこぞってオススメしています。
一見すると行き詰まってしまいそうなものですが、“あること”を押さえると、格段に楽しくユニークな旅行体験へと昇華できるらしい。海外旅行者のレビューやブログを参考に、知っておきたい無計画旅行のメリットを3つにまとめて解説します。
トレンドの理由:無計画旅行のメリット3点
その1:必ず「新しい発見」がある
無計画旅行では、すべてがその場の流れ、すなわちセレンディピティによって決まっていきます。
偶然の会話から新しい友人ができるかもしれないし、予定のなかった夜に現地文化を堪能できる食事にありつくかもしれない。目的地のない散歩で、隠れた名所を見つけることもあるでしょう。
事前の計画通りに動いたわけではない、思いもよらぬ感動に出会った瞬間──これこそ「無計画旅行」の醍醐味であり、その体験の魅力は想像に容易いはず。
新しい友人、新しい場所、新しいモノ。こうした発見の数々は、事前に予定したわけではないからこそ、ユニークな旅行体験として記憶に残ります。
そんな宝探しのようなワクワク感を、この旅は与えてくれるのです。
その2:余裕が生まれて「今」を楽しめる
これまでお伝えしたように、無計画旅行は現地での出来事を大切にするのがポイント。
町を行き交う人々に接触して情報を得たり、電車に乗っている間に気になった場所に降りてみたり……すべてはその場で起きます。そして、それらは事前の計画に含まれていません。
想像してみましょう。
予定通り目的地に到着し、そこを満喫している最中。あなたは偶然出会った人から、現在地から少しのところに非常に魅力的なアクティビティがあることを聞きます。でも、もう離れないと予定していた電車に間に合わないし、そうなるとレストランの予約が……!
楽しめないとまでは行かずとも、心残りにはなりますね。
『ニューヨークタイムズ』の旅行部門ベストセラー作家であるNomad Matt氏はこう語っています:「柔軟性がないと、旅程の変更にストレスを感じてしまう。 常に次のことを考える必要があるあまり、その瞬間に集中できなくなる」と。
プランに縛られずにゆったりと旅先で起こる人・モノ・事との出会いに導かれることで、こうした心残りは極力減らせるはず。また、計画通りに通りに行かないストレスからも解放され、精神的な余裕も生まれます。
あえて予定をなくして柔軟性を持たせる無計画旅行では、その時々でしか起こり得ない“今”を楽しめるというわけです。
その3:人として成長する
無計画で旅を続けていれば、もちろんトラブルや失敗も起こるでしょう。行きたい場所までのアクセスが分からなくなったり、気になっていた施設が閉館日だったり。
でも、あらかじめ「流れに身を任せる」心構えをしておくことで、こうした課題をむしろチャンスと捉え、アドリブで新しい楽しみを見つける感性を養うことができます。
現地で他の旅行客や地元住人からオススメを聞くなどコミュニケーション力を培ったり、異国での文化体験を通じて知見を広げるも良し。総合的な人間力が上がります。
また、自分の好奇心を頼りに新しい発見を続けることで、自分自身についての理解も深まるとの見解も。いわゆる“自分探しの旅”ですね。
Matt氏の言葉を借りると「災難は旅の一部にすぎない。最終的にはうまくいく」とのこと。この成長が、その先で待っている新たな発見や思い出深い体験へと繋がるのです。
補足:無計画で旅する上で、気をつけておきたいことは?
これまで無計画旅行の魅力とメリットについてお伝えしてきましたが、いくつか注意しておくべきこともあります。
まずは、旅先が自国と大きく異なる文化圏である場合。言語や為替、凡その交通手段の把握、そして言語や感性の違いを理解しておくこと。また、地域によっては治安の把握も重要です。
特に、初めて無計画旅行に飛び込む場合は、ある程度目的地周辺について調べておくと快適でしょう。あまりにも考えなしに異国へ入ってしまうと、早々に行き詰まってしまうかもしれません。
Matt氏はブログでこうアドバイスしています。
「大まかな道筋を考え、最初の数泊分の宿は押さえておく。そこから旅を展開させれば、多少気が変わっても動き続けることができるから。あとは流れに身を任せるんだ。」
そんな彼がオススメする、外さない旅の計画方法を紹介します。
ステップ1:いったん、好きなだけ詳細に計画を立てる
ステップ2:そのうちの半分をカットする
ステップ3:残った半分のうち、特にやりたいことのトップ5をリストアップする
ステップ4:そのリストを頼りに、あとはセレンディピティに任せる
流行の背景は、コロナ後の「一人・少人数旅の流行」と「自分らしさの追求」
さて、世界で広がりを見せる無計画旅行ですが、近年トレンド化した理由を考えてみます。
まず一つは、国内外を問わず若い世代に顕著な一人・または少人数での旅行の普及でしょう。American Expressのデータによれば、M・Z世代の76%が「2024年に一人旅をする予定がある」と回答したそう。また、2023年のツーリズムEXPOでは「調査データから日本人の一人旅の増加が指摘された」との報告も。
パンデミック頃からセルフケアへの関心が高まったことも含め、一人や気を使わない少人数で気ままな旅行を好む傾向が国内外に広まっているようです。自由気ままに散策する無計画旅行の魅力が、彼らを惹きつけたことが考えられます。
そしてもう一つが、コンデナスト・トラベラーが挙げている「FOMOの衰え」という点。
インターネットにおけるFOMO(=fear of missing out:他人の楽しい体験を見逃し、取り残されてしまうことへの恐れ)が収まり、SNSでバズった有名スポットを巡ってセルフィーを撮るだけの旅は飽きられてしまった。代わりに、人々はもっと豊かで自分らしい旅行を望むようになった、という考察です。
個性や多様性の尊重、映えではなく自然さを重視するSNSの使い方等、他者に流されない“自分らしさ”を追求する昨今のZ世代の傾向とも合致していますね。こうした時代の流れが噛み合ったことで、心豊かに自分だけの体験を探す無計画旅行が注目されているということでしょう。
無計画旅行は、 リアルさが大切な現代における
「旅のNEW STANDARD」になる?
先述した通り、無計画旅行は一種の自己啓発であり、FOMO時代へのアンチテーゼでもあります。
多くの人が、InstagramやTikTokの投稿で溢れた有名ルートを真似るのではなく、もっと自主的・能動的に現地の魅力を探したいと考えるようになりました。旅行で得たいものが、大きく変わってきています。
「SNSに投稿すること」から「その土地の特別さを体験すること」へのシフト。オーセンティックさを尊ぶ現代にふさわしい転換と言えるでしょう。
かつては思い切った決断だった“自分探しの旅”は、考え方一つ変えることで、次の休日にでも実行できる時代になったのです。
私は遅れてなんていないし、何も見逃してなんていない──自分を強く見つめる姿勢が、「人を成長させる」新しい旅の在り方となっていくのかも知れません。