生産量60%減……いま、オレンジの生産現場を襲う「サイレントキラー」の存在

いつもより遅めに起きる週末のルーティン……パンケーキとオレンジジュース。さわやかな朝の象徴のような組み合わせも、あとわずかで過去のものになってしまうかもしれない。 いま、世界中で柑橘類を襲う深刻な危機が、私たちの朝食、そして食卓全体を脅かしている事実をご存知ですか?

サイレントキラー「HLB」
その脅威はすでに世界中に

現在、アジアやアメリカ、アフリカの果樹園で、柑橘類を枯死させる恐ろしい病気が猛威を振るっているそうです。その名はカンキツグリーニング病(HLB)。一度感染してしまうと治療法はなく、果樹園全体を壊滅に追い込むこともあるんだとか。

「THE CONVERSATION」が報じたところによると、HLBの影響でブラジルの柑橘類生産量は20%以上減少、カリブ海に浮かぶフランス領島グアドループでは60%もの壊滅的な被害を受けたとのこと。オレンジの名産地として知られる米フロリダ州にいたっては、その被害は90%以上にものぼっているというのから、ことの深刻さがうかがえます。

また、何より恐ろしいのは感染してもすぐには目に見える症状が現れないという点だそうで、 数年経ってから葉が黄色く変色したり、実が変形したりするさまは、まさしく「サイレントキラー」。これが生産現場を蝕んでいるんだそう。

水面下で進む
食と経済の崩壊

HLBによる被害は、私たちの想像をはるかに超えています。フロリダ州では30億ドルを超える経済損失に加え、関連する就業者の50%が雇用を失う結果に。オレンジジュースの価格は1年で2倍にも跳ね上がり、今も高騰を続けている状態。

ここまで被害が拡大した原因には、グローバル化という波に乗ってHLBを媒介する昆虫が世界中に拡散したことが挙げられます。感染した苗木や、旅行者が持ち込む観葉植物など、私たちの何気ない行動が病気を運んでいる可能性もあるんだそう。加えて、気候変動による温暖化もこの“緑の病魔”の勢力を拡大させている原因のひとつ。地球全体の気温上昇が、皮肉にも私たちの食卓から柑橘類を奪おうとしているのです。

有効な治療法が確立されていない今、HLBに抵抗性をもつ柑橘類の品種開発に期待が寄せられています。 フランス国際農業開発研究センター(CIRAD)は、キャビアライムなどHLBへの耐性をもつ可能性のある柑橘類の研究を進行中。

彼らの研究は治療法の開発だけでなく、農薬に頼らない環境に優しい持続可能な柑橘類生産の実現に繋がるかもしれません。 私たちの食卓、そして地球の未来を守るための挑戦は、すでに始まっているようです。

この話題、対岸の火事ではなく実際に今夏、オレンジジュースが店先から消えたり、大手飲料メーカーが販売休止に追い込まれたりと、“オレンジショック”は日本にも波及してきています。

思えば、オレンジに限らず、キムチ寿司など、TABI LABOではこれまでいろんな「近い将来食べられなくなるもの」を紹介してきましたが、これ以上食べられなくなる食材を紹介することがないように。なんとかして手立てを考えたい!

Top image: © iStock.com / Pablo Escuder Cano
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。