米最古のレコードメーカー復活。なぜ、レコードはデジタル時代に回帰するのか
SpotifyやApple Musicなど、スマホ一つで無数の音楽にアクセスできるのが当たり前の時代。しかし、そんなデジタル全盛期に、復権を果たしたのが「レコード」。懐古主義?単なる流行?いや、そこにはもっと深い理由があるようだ。アメリカ最古のレコードメーカー「United Record Pressing」の軌跡をご紹介。
南部発、老舗メーカーが語る栄枯盛衰
1949年創業のUnited Record Pressingは、ビートルズの米国デビューシングルを皮切りに、数々の名盤を世に送り出してきた。しかし、CDの登場やデジタル配信の台頭など、激動の音楽業界を生き抜くのは容易ではなかったようだ。
2007年、レコード盤が過去の遺物と見なされ始めた時代に、Mark Michaels氏はCEOに就任。従業員38名、先行き不透明な状況下でも、Michaels氏は「ビジネスの安定化」に尽力し、後のレコード盤ブーム到来を予感させるかのように、会社を成長軌道に乗せていったと「Newsweek」は紹介する。
17年連続売上アップ
デジタルネイティブ世代を虜にするLPの魅力
アメリカレコード協会(RIAA)の調べによると、驚くべきことに2023年の米国のレコード売上は、前年比10%増の14億ドル、なんと17年連続で成長を記録しているらしい。デジタルネイティブ世代と呼ばれる若者たちにとって、レコードは生まれたときから存在するものではなく、「新しく、ちょっとレトロでかっこいいもの」として認識されているのかもしれない。
では、レコードの何が彼らを惹きつけるのか。それは、デジタルでは味わえない“体験”にあるのではないか。ジャケットのアートワークを眺め、盤に針を落とす所作は、ただ音楽を聴くだけでなく、音楽に触れる体験を通して所有する喜びを満たしてくれる特別な“モノ”と解釈できる。
所有からアクセスへ、そして再び所有へ。
レコードが映し出す時代の変化
現代は、モノを所有するよりも、必要なときに必要なだけサービスを利用する「サブスクリプション型」の消費が主流になりつつある。が、そのいっぽうで本当に気に入ったもの、愛着のあるものを大切に長く使いたいという気持ちも、私たちの中に存在するのではないだろうか。
United Record Pressingの工場では、レトロな機材と最新鋭の機械が共存しているらしい。「レコードはアートです。アーティストもファンも、形あるものを求めているんです」とMichaels氏。
利便性や効率性を追求するデジタル時代だからこそ、私たちはレコードを通して、“モノ”と丁寧に向き合うことの豊かさ、音楽と心を通わせる温かさを再認識しているのかもしれない。
👀GenZ's Eye👀
筆者も母が学生時代集めていたビートルズのレコードを聴くため、レコードプレイヤー購入をちょうど検討中。誰かのものだった音楽を聴くというコト消費と若者たちの「エモい」感覚がリンクしていると感じる。シャッフルで音楽を聴いたり、自分だけのプレイリストを作ったりという利便性とは逆に、アーティストの思惑だけに縛られてアルバムを楽しむというのも醍醐味。
今、中古ではなく新品のレコードが製造されていくというのは、ステイホームからの快適な家づくりの流れもあるのだろうか。