時間の流れはコントロールできる。スタンフォード大学が「神経相対性理論」を提唱
あなたは、10年前の夏休みの記憶を鮮明に思い出せるだろうか?では、昨年の夏の思い出は?多くの人が、遠い昔の記憶の方が鮮明に思い出せるのではないだろうか。これは、私たちが年を重ねるにつれて、時間の流れを早く感じるようになる現象の一例だ。
しかし、最新の脳科学はこの時間に対する感覚が、実は「経験」によってコントロールできる可能性を示唆している。
時間の流れを変えるには
「新しい経験」が不可欠に
米科学雑誌「Popular Mechanics」によると、スタンフォード大学のDavid Eagleman氏が、時間の流れ方が相対的なものであるという「神経相対性理論」を提唱している。
同氏の実験では、被験者に150フィート(45.72メートル)の高さからの落下体験という強烈な体験をさせた。その結果、彼らの脳は多くの情報を処理し、実際よりも時間を長く感じたという。
Eagleman氏は「新しい経験」こそが時間の流れを変化させる鍵だと述べている。ルーティンワークのように刺激が少ない活動では、脳への情報量が少なく、記憶にも残りづらい。いっぽう旅行や新しい趣味など、新鮮な体験は脳に多くの情報を送り込み、記憶の密度を高める。
結果として、主観的な時間が拡張され、人生がより長く、豊かに感じられるというわけだ。
時間の感じ方をハックする
具体的なアクションプラン
では、どのようにすれば「新しい経験」を積み重ね、時間の流れをコントロールできるのだろうか。ポイントは、非日常的な体験や、感情を揺さぶられるような出来事を積極的に生活に取り入れることだ。
たとえば、週末にいつもと違う場所へ出かけてみる、新しい言語やスキルを学ぶ、夢中になれるような趣味を見つける、といったアクションが考えられる。最近では、VR技術の発展により、自宅にいながらにして非日常的な体験をすることも可能になっている。
重要なのは、自身の快適ゾーンから一歩踏み出し、脳に刺激を与えるような挑戦を続けることだ。慣れ親しんだルーティンから脱却し、意識的に「新しい経験」を求めることで、時間の流れをコントロールし、より充実した人生を送ることができるかもしれない。
時間感覚のアップデートが
アンチエイジングの鍵に
さらに興味深いことに、この「時間感覚のハック」は、アンチエイジングにも繋がる可能性を秘めている。
2024年に「Frontiers in Aging Neuroscience」誌に掲載された研究によると、年齢を重ねるにつれてドーパミンレベルと神経タイミングメカニズムが変化し、時間経験の仕方に影響を与えるだけでなく、認知機能の低下にもつながる可能性が示唆されている。
裏を返せば、新しい経験を通して脳を活性化し、時間感覚を拡張することで、老化のプロセスを遅らせることができるかもしれないのだ。1979年にEllen Langer氏が実施した「Counterclockwise study」では、70代の男性8名を対象に、1959年当時の環境を再現したリトリートで1週間過ごさせたところ、視力、筋力、柔軟性、姿勢といった身体機能が向上したという。
時間に対する意識が、人間の老化プロセスに影響を与える可能性を示すこの研究は、私たちに多くの示唆を与えてくれる。時間感覚をアップデートすることで、人生をより濃密に体験することができ、さらにはアンチエイジングにも繋がる可能性を秘めている。ぜひ、今日からでも「新しい経験」に挑戦してみていただきたい。