地球を“再生”させる新潮流、「リジェネラティブ」について
目次
SDGsやエシカル消費など、“地球に優しい選択”が当たり前になりつつあります。そのなかで、Z世代を中心に注目を集めているのが「リジェネラティブ」という考え方。
単に環境への負荷を減らしていくだけではもう遅い(足りない)ことを、みなが理解している現在。積極的に自然を回復させ、より良い未来を創造していこうというリジェネラティブの概念をご紹介。
地球を「再生」するってどういうこと?
リジェネラティブの概念
◎リジェネラティブとは?
そもそも、リジェネラティブ(Regenerative)とは、「再生させる」「回復する」という意味。 ビジネスシーンでは、環境を回復させながら経済・社会システムをも発展させていくことを目指す概念です。これまでの環境保護は現状維持を目標としていましたが、リジェネラティブは自然の力を活用し、より良い状態へと“再生”させることを目指した考え方といえます。
◎サステナビリティとの違い
「サステナビリティ」と「リジェネラティブ」。 どちらも環境問題への意識の高まりから生まれた考え方ですが、そのアプローチには違いがあります。
たとえば、ファッション業界で考えてみましょう。サステナビリティの考え方では、オーガニックコットンを使用したり、生産過程での水使用量を削減することで、環境負荷を低減しようとします。 いっぽう、リジェネラティブの考え方では、古着を回収して新しい服に生まれ変わらせるアップサイクルや、土壌を改善しながら綿花を栽培するなど、資源を循環させながら環境を再生していくことを目指します。
◎なぜ今、リジェネラティブが注目されているのか?
世界でリジェネラティブが注目される背景には、地球環境問題の深刻化が挙げられます。 気候変動による異常気象の増加や、生物多様性の損失は、私たちの生活や経済活動に大きな影響を与え始めています。このままでは、地球全体のシステムが崩壊してしまうかもしれない、そんな危機感が、リジェネラティブへの注目を高めているのではないでしょうか。
地球規模で進む「再生」へのシフト
リジェネラティブが変える世界
◎サステナビリティからリジェネラティブへ
世界では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)やESG投資(社会的責任投資)など、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速しています。 そのなかで、リジェネラティブは従来のサステナビリティの枠組みを超え、地球環境を積極的に回復させながら、経済成長や社会発展を実現できる可能性を秘めた、次世代の考え方として注目されています。
◎リジェネラティブがもたらす価値
企業がリジェネラティブなビジネスモデルを導入することで、経済的な利益だけでなく、環境保全、社会貢献、そして企業自身の持続可能性を高めることができるはずです。これは、企業にとって、単なるコストではなく、長期的な視点に立った“投資”と捉えることもできるでしょう。
具体的には、以下のようなメリットが考えられています。
- ブランドイメージの向上: 環境意識の高い消費者からの支持獲得や、企業のブランドイメージ向上。
- 新規顧客の獲得: リジェネラティブな商品やサービスを求める顧客層の獲得。
- 従業員のモチベーション向上: 社会貢献性の高い事業に携わることで、従業員のモチベーション向上や人材獲得。
- リスクの軽減: 環境規制の強化や資源の枯渇といったリスクの軽減。
- イノベーションの促進: 新しい技術やビジネスモデルの開発促進。
リジェネラティブは今や企業、社会、そして地球全体にとって、持続可能な未来を創造するための重要なキーワードとなっています。
具体的な取り組み事例
多様な分野での「再生」
リジェネラティブは、農業や製造業といった産業分野だけでなく、観光や建築、ファッションなど、幅広い分野で導入が進んでいます。 いくつかの具体的な事例を見ていきましょう。
◎農業:土壌を蘇らせる、未来への種まき
農業分野では、土壌の健康を重視した「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」が注目されています。 化学肥料や農薬の使用を最小限に抑え、土壌の微生物の活性化を促すことで、持続可能な農業を実現しようという取り組みです。
たとえば、京都府京丹後市に本社を置く農業ベンチャー「株式会社坂ノ途中」は、農薬や化学肥料に頼らず、環境への負荷を最小限にして作られた野菜や果物を中心に販売。、「100年先も続く、農業を」をビジョンに掲げ、農家の担い手不足や耕作放棄地といった農業の課題解決に積極的に取り組み注目を集めています。
海外に目を向けると、アメリカのアパレルブランド「Patagonia」が展開する食品事業「Patagonia Provisions」も、注目すべき事例。環境負荷の高い食料システムを変革するため、リジェネラティブ・オーガニック認証を取得した食材を積極的に使用し、土壌の健康、動物福祉、社会的な公平さに配慮した食品を提供しています。
環境問題に関心の高いZ世代は、商品だけでなく、企業姿勢にも共感して購入する傾向があり、Patagonia Provisionsのような倫理的な調達や製造過程の透明性を重視する企業は、Z世代からの支持を集めています。
◎ファッション:人にも地球にも優しい、これからのオシャレ
ファッション業界では、大量生産・大量消費・大量廃棄といった従来のビジネスモデルを見直し、環境負荷の低い「サステナブルファッション」が台頭。 そのなかでも、リジェネラティブの考え方を導入したブランドは、さらに一歩進んだ取り組みとして注目されています。
たとえば、イギリスの「Ellen MacArthur Foundation」は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進に取り組む国際的な非営利団体。 ファッション業界における廃棄物問題の解決に向けて、リサイクル素材の使用や、製品寿命を延ばすためのデザインを推奨するなど、リジェネラティブな取り組みを推進しています。
ファストファッションの流行により、大量生産・大量廃棄が問題視されているなかで、環境負荷の少ないサステナブルファッションに関心を寄せるZ世代は少なくありません。 Ellen MacArthur Foundationの活動は、ファッション業界全体を持続可能な方向へ導くための取り組みとして、Z世代からの注目を集めています。
◎建築:自然と共生する、未来の街づくり
建築分野においては、自然の力を取り込み、環境負荷を低減するだけでなく、生物多様性の向上や地域社会への貢献も目指す「リジェネラティブ・デザイン」の導入が進んでいます。 建物自体がエネルギーを生み出したり、雨水を活用したりするだけでなく、周辺の生態系との調和も考慮した設計が求められています。
たとえば、2018年9月開業の「渋谷ストリーム」(東京都渋谷区)は、大規模な再開発でありながら、リジェネラティブ・デザインを取り入れた先進的な複合施設。屋上と低層階の壁面を緑化し、渋谷川沿いの桜並木との調和を図る設計が施されたり、自然と共生し、地域コミュニティを活性化させる工夫が凝らされています。
海外に目を向けると、2016年にオランダで始まった次世代型のサステイナブルな街づくりプロジェクト「ReGen Villages」が挙げられます。エネルギー、水、食料などを自給自足できる、持続可能な住宅コミュニティを開発する同プロジェクト。 再生可能エネルギーの利用、水資源の循環、有機農業など、リジェネラティブな技術を統合することで、環境負荷を最小限に抑えた暮らしを実現しようとしています。
テクノロジーを活用して社会問題の解決を目指すZ世代にとって、ReGen Villagesのように、先進的な技術とサステナビリティを融合させた取り組みは、未来の理想的な暮らし方として、高い関心を集めています。
◎ツーリズム:旅を通して地域を活性化
観光分野では、地域資源を活かしながら環境保全にも貢献する「リジェネラティブ・ツーリズム」が注目されています。従来の大量消費型の観光ではなく、地域住民との交流を通して、その土地の文化や自然を深く理解し、持続可能な観光のあり方を模索する動きが世界的に広がっているようです。
一例として挙げるならば、ニュージーランド観光局による「Tiaki Promise(ティアキの誓い)」。ティアキとは、マオリ語で「人々と場所を守る」という意。ニュージーランドを訪れるすべての観光客へと呼びかけるもので、同国の土地や文化、自然、海、そして人々に愛情や配慮の念をもって接することを誓うもの。ニュージーランドに暮らす人も、訪れる人も、ともに貴重な環境を未来へと守る責任があるという考え方から始まったものだそうです。
また、サウジアラビアでは、大小さまざまな島が点在する紅海においてリジェネラティブ・ツーリズムの大規模プロジェクトが展開中。プロジェクトの中心となるシュライラ島のリゾート施設「Coral Bloom」は、マリンスポーツやレジャー施設、ホテルなどを含む大型観光施設ながら、島の自然環境強化、自然との共生を前提に建築設計がなされている点に注目が集まっています。生物多様性を高める施策や、2040年までに希少種保全効果30%アップを目標とするなど、観光をリジェネラティブの機会と捉えた新しいツーリズムのあり方を示している点がZ世代のニーズにもマッチしていると言えるでしょう。
◎経済:持続可能な成長モデルへの転換
経済活動においても、リジェネラティブの考え方が重要視されています。 従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムから脱却し、資源を循環させながら、経済成長と環境保全を両立させる「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への移行が進んでいます。
サーキュラーエコノミーでは、製品の設計段階から廃棄物が出ないように工夫したり、使用済みの製品を回収して再利用したりすることで、資源の有効活用を図ります。 また、シェアリングエコノミーやリペア(修理)といったサービスも、サーキュラーエコノミーの一環として注目されています。
リジェネラティブが描く未来
Z世代がつくる、希望あふれる世界
◎Z世代の価値観とリジェネラティブ
デジタルネイティブとして生まれ育ったZ世代は、インターネットやSNSを通じて、地球規模で起こっている環境問題や社会問題をリアルタイムに体感してきました。 彼らは、従来の世代よりも、環境問題や社会問題への意識が高く、自分たちの行動を通して、より良い世界を実現したいという強い想いを持っています。
2022年、世界1万3,000人の大学生を対象にしたある調査でZ世代の社会的懸念が分析されました。その結果、最大の懸念事項として彼らが挙げたのが気候変動。じつに60%が非常に懸念、または懸念していると回答したそうです。それから2年後の2024年、ドイツとイギリスに本拠をおく学術出版企業「Springer Nature」のレポートによると、同じ質問への最新の回答では、数字は81%にまで上昇していたそうです。
リジェネラティブは、まさにこうしたZ世代の価値観と合致する考え方。 地球環境を回復させながら、経済成長や社会発展を実現していくというビジョンは、Z世代にとって、未来への希望を与えるものとも言えるでしょう。
◎イノベーションが拓く未来
テクノロジーにも精通するZ世代は、AI、IoT、ビッグデータといった先端技術を駆使して、社会課題の解決に貢献しようと試みています。 リジェネラティブにおいても、テクノロジーは、大きな役割を果たすことが期待されます。
たとえば、AIを活用した農業では、土壌の状態や作物の生育状況をリアルタイムに分析することで、最適な肥料や水の量を判断することができます。 また、ドローンを活用した森林管理では、広範囲の森林を効率的に監視し、病害虫の発生や違法伐採を早期に発見することが可能となるなど、テクノロジーとリジェネラティブの融合は、持続可能な社会の実現に向けて、大きな可能性を秘めています。
◎日本におけるリジェネラティブの展望と課題
日本は、資源の乏しい島国であり、古くから自然と共生する文化を育んできました。リジェネラティブは、日本の伝統的な価値観とも親和性が高く、今後の社会発展において、重要な役割を果たすことが期待されます。しかし、日本国内でリジェネラティブを推進していくためには、いくつかの課題を克服する必要も。
- 認知度向上: 言葉や概念の認知度向上、一般消費者や企業への理解拡大。
- 法整備・政策支援: リジェネラティブな取り組みを促進するための法整備や政策支援。
- 人材育成: 事業推進のための専門知識やスキルを持った人材育成。
- 資金調達: 長期的な視点を持った資金調達。
これらの課題を克服し、リジェネラティブを社会全体に普及させていくためには、政府、企業、個人がそれぞれの役割を果たし、連携していくことが重要でしょう。