サーキュラーエコノミーの最前線:「捨てる」から「めぐらせる」へ

廃棄物ゼロを目指すサーキュラーエコノミーが、日本企業の持続可能な成長の鍵になっている!従来の「作って、使って、捨てる」というリニアな経済モデルではなく、資源を循環させ続けるこの新しい経済システムは、環境負荷を減らすだけでなく、ビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めています。

実際に、日本国内では既に多くの先進企業がサーキュラーエコノミーを取り入れ、成果を上げています。ユニクロの衣料品回収・再生プロジェクト、ブリヂストンのタイヤリサイクル技術、また小田急電鉄と座間市の地域連携モデルなど、様々な業界で革新的な取り組みが進んでいるのです。

しかし、多くの企業はまだ具体的な実践方法がわからず、一歩を踏み出せずにいます。本記事では、日本企業の成功事例から学ぶサーキュラーエコノミーの具体的な実践手法を解説し、特に資源循環の仕組み構築に役立つ5つの方法を紹介します。これらの事例や手法は、あなたの会社がサーキュラーエコノミーへ移行する際の貴重なヒントになるでしょう。

持続可能な未来のためのビジネスモデル変革...その最前線をのぞいてみましょう。

サーキュラーエコノミーの基本構造と日本の現状

サーキュラーエコノミーの世界では、廃棄物は「設計上のミス」と考えられています。この考え方は、従来のビジネスモデルとは根本的に異なる新しい経済システムを提案しています。資源の再利用と循環を通じて、環境保全と経済成長の両立を目指すこのモデルについて、基本構造と日本の現状を詳しく見ていきましょう。

リニアエコノミーとの違いと移行の必要性

リニアエコノミー(線形経済)とは、「資源の採掘に始まり、大量生産を経て、最後には大量に廃棄する」という一方通行的な経済活動です。この仕組みでは、企業は製品を大量に生産・販売して利益を得ようとし、消費者も常に新しい製品を購入して古いものを捨てていきます。

一方、サーキュラーエコノミーは、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を目指す社会経済システムです。単なる環境規制ではなく、経済の仕組み自体を変える政策として各国が推進しています。

リニアエコノミーを継続すると、2030年には地球2個分の資源が必要になると試算されています。また、日本の温室効果ガス全排出量のうち36%を廃棄物関係が占めていることから、資源循環は環境問題解決のためにも不可欠です。

そのため、環境にやさしいだけでなく、新たな雇用創出など持続可能な経済活動を見据えたサーキュラーエコノミーへの移行が世界的な潮流となっています。

日本における循環経済ビジョン2020の概要

日本では2020年に経済産業省が「循環経済ビジョン2020」を策定しました。これは約21年ぶりの改訂となる重要な政策文書です。

このビジョンの特徴は、「環境活動としての3R」から「経済活動としての循環経済」への転換を図る点にあります。現在、日本の循環利用率は15.4%(2016年)とEUの11.7%(2017年)を上回り、PETボトルの回収率も93%と欧州の57.5%よりも高い実績を持っています。

しかし、日本の「廃棄物処理・資源有効利用」市場は約26%の拡大にとどまり、付加価値を生み出す産業となりきれていません。つまり、環境活動として3Rを実施することには限界があり、資源循環を基軸とした経済活動への転換が必要です。

このビジョンでは、資源産出国ではない日本が外国からの資源供給途絶リスクに備えるための「成長志向型の資源自立経済」を提唱しています。また、サーキュラーエコノミーの国内市場は2050年に120兆円、国際市場は同年に25兆ドルに達すると試算されており、大きな経済機会があります。

バタフライダイアグラムに見る技術・生物サイクル

サーキュラーエコノミーの概念を説明する際によく用いられるのが「バタフライダイアグラム」です。左側に生物的サイクル、右側に技術的サイクルが描かれており、蝶のような形に見えることからその名がついています。

生物的サイクルは、木材・綿・食品など再生可能な資源の循環を示します。これらは消費されても微生物による自然の分解などを経て再生され、また元のサイクルに戻ります。例えば、木材は建材として使用した後、家具、紙チップと段階的に利用され(カスケード利用)、最終的にバイオマスエネルギーとして活用されます。

技術的サイクルでは、自動車・プラスチック・化学物質など自然界で分解・再生不可能な資源の循環を示します。このサイクルでは「維持・長寿命化」「シェアリング」「再利用・再配分」「改修・再製造」「リサイクル」というように、ループを何重にも構築し、資源の廃棄を最小限にします。

両方のサイクルにおいて、内側の円ほど優先度が高く、生物資源のカスケード利用や技術資源の維持・長寿命化が推奨されています。リサイクルは最後の手段として位置づけられており、その手前の段階でいかに価値を保持しながら小さくループを回せるかが重要です。

成功事例1:ユニクロのRE.UNIQLOプロジェクト

日本企業のサーキュラーエコノミー推進事例として注目すべきは、アパレル業界からの改革です。ユニクロを運営する株式会社ファーストリテイリングは2020年に「RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)」プロジェクトを立ち上げ、不要になった衣料品を回収し再び服を作る循環型ビジネスモデルを確立しました。このプロジェクトは単なる環境活動ではなく、新たな価値創造と廃棄物削減を両立させる先進的な取り組みです。

回収型サプライチェーンの構築

RE.UNIQLOの基盤となるのは、全国のユニクロ、ジーユー、プラステ店舗に設置された「回収ボックス」です。ここで集められた衣類は厳密に選別され、そのまま服として再利用できるものと、素材としてリサイクルされるものに分類されます。実はユニクロは2001年からフリース回収を始め、2006年には全商品へと回収対象を拡大していました。このような長年の取り組みを進化させ、現在では回収した衣類を81の国と地域へ寄贈するなど、グローバルな循環の輪を広げています。

特筆すべきは、一枚も無駄にしない徹底した資源活用です。再利用できない服も断熱材や防音材として活用され、衣類の価値を最大限に引き出しています。

リサイクルダウンジャケットの製造プロセス

RE.UNIQLOの第一弾商品として2020年11月に発売された「リサイクルダウンジャケット」は、日本国内で回収した62万着のダウン商品から再生・再利用された画期的な製品です。この実現のため、ユニクロは戦略パートナーである東レと共同で、世界初となる自動羽毛分離装置を開発しました。

この技術開発は2017年に着手され、約2年の試行錯誤の末に確立されました。従来は手作業でしか行えなかったダウンの分離を全自動化することで、月に約8万着という大量処理が可能になり、回収率も90%以上という高い効率を実現しています。

さらに、この循環型製造プロセスでは、通常の生産と比較してCO2排出量を20%削減できるという環境面での優位性も証明されました。価格も7,990円と一般的なダウンジャケットと同水準に抑えられており、コスト面でも持続可能なビジネスモデルを確立しています。

消費者参加型の循環モデル

RE.UNIQLOの大きな特徴は、消費者が循環の一部となる参加型の仕組みです。消費者は不要になった衣類を店舗に持ち込むことで、サーキュラーエコノミーに直接貢献できます。また、ユニクロは回収促進のためのキャンペーンとして、ダウン製品を持参するとデジタルクーポン500円分をプレゼントする取り組みも行っています。

さらに、服のリペアやリメイクサービスを提供する「RE.UNIQLO STUDIO」を設置し、製品寿命の延長にも注力しています。回収された衣類の中から状態の良いものは、プロによる洗濯や染め直しなどの加工を施した上で、「古着プロジェクト」として再販されます。

このように、製品設計から回収、再生、販売までの一貫した循環システムを構築することで、ユニクロは「単なる生活インフラではなく、社会インフラブランド」としての地位を確立しようとしています。

成功事例2:ブリヂストンの100%サステナブルマテリアル化

タイヤ製造業界からのサーキュラーエコノミー推進では、ブリヂストンの取り組みが注目されています。同社は「100%サステナブルマテリアル化」という大胆な環境長期目標を掲げ、使用済みタイヤを廃棄物ではなく貴重な「資源」として捉え直す取り組みを進めています。

タイヤのリユース・リサイクル技術

ブリヂストンは「EVERTIRE INITIATIVE」という構想のもと、使用済みタイヤを新たなタイヤに生まれ変わらせる水平リサイクル技術の開発に力を入れています。特に注目すべきは、ENEOS株式会社と共同で取り組む使用済みタイヤの精密熱分解技術です。2023年には小平市のBridgestone Innovation Parkに実証機を導入し、タイヤを熱分解して得られる分解油から合成ゴムの素原料であるブタジエンを製造する技術開発を進めています。さらに、2025年には岐阜県関市の工場敷地内に使用済タイヤの精密熱分解パイロット実証プラントの建設を決定し、2027年中の稼働開始を予定しています。

もう一つの主要な技術は「リトレッド」です。すり減ったタイヤのトレッド部分(路面と接する部分)を貼り替えて再利用するこの技術により、新品タイヤに比べて原材料使用量を3分の1未満に削減できます。米国ではトラック・バス用タイヤの約5割、欧州では約4割をリトレッドが占める一方、日本ではまだ15%程度にとどまっているものの、普及が進んでいます。

レンタルモデルによる資源効率化

ブリヂストンは2021年4月から「Mobox(モボックス)」というタイヤのサブスクリプションサービスを開始しました。月額定額でタイヤの提供、組替・脱着、パンク補償、定期点検などのサービスを受けられるこのモデルは、タイヤを「所有」ではなく「利用」するという新たな価値提供を実現しています。

このサブスクリプションモデルは、タイヤの適正空気圧維持によるCO2排出量削減や、タイヤの有効利用による製造量抑制効果があり、資源の循環利用に貢献しています。また、メンテナンスを通じてタイヤの状態を常に良好に保つことで、リトレッド可能回数を増やし廃棄率の低減にもつながります。

2050年目標に向けたロードマップ

ブリヂストンは2050年に向けた「100%サステナブルマテリアル化」という環境長期目標達成のため、以下3つのアクションを進めています。

  1. 原材料使用量の削減(軽量化技術、耐久性向上・長寿命化技術など)

  2. 資源の循環・効率的活用(リトレッド技術、再生ゴム、再生カーボンブラック)

  3. 再生可能資源の拡充・多様化(天然ゴム生産性向上技術、天然ゴム供給源の多様化など)

具体的なマイルストーンとして、2030年までに再生資源または再生可能資源に由来する原材料の比率を40%に向上させる目標を設定しています。既に2023年時点で39.6%を達成しており、2023年5月には再生資源または再生可能資源を50%使用した電気自動車用タイヤTuranza EVを北米で発売するなど、着実に前進しています。

成功事例3:小田急電鉄と座間市の自治体連携

鉄道事業者が地域と連携してサーキュラーエコノミーを推進する取り組みにも注目が集まっています。小田急電鉄と神奈川県座間市の連携事例は、企業と自治体が協力することで生まれる循環型社会モデルの好例です。

スマート収集によるCO2削減

小田急電鉄は2020年7月から、米国ルビコン・グローバル社のテクノロジーを活用した資源物・ごみ収集業務のスマート化実証実験を座間市と共同で開始しました。具体的には、収集車両に専用スマートフォンを設置し、収集状況をリアルタイムでモニタリングする仕組みを構築。このシステムにより最適な収集ルートを設計したことで、CO2排出量の削減を実現しています。

また、収集車両が市内を巡回する際に道路や街路樹といった市域内インフラの状態も同時にチェックする仕組みを確立し、都市機能の効率的な維持管理も可能にしました。この取り組みにより生まれた余力を活用し、これまで可燃ごみとしていた剪定枝を新たに資源として回収できるようになりました。

自治体との協定による地域循環モデル

小田急電鉄は2019年6月、神奈川県座間市と「サーキュラー・エコノミー推進に係る連携と協力に関する協定」を締結しました。この協定は、小田急沿線地域におけるサーキュラーエコノミーの実現を通じた持続可能で暮らしやすいまちづくりを目指すものです。

同社はこの協定以前から、2015年度に座間駅前に立地していた築後約半世紀の社宅を「ホシノタニ団地」としてリノベーションする取り組みを行っていました。既存施設を生かし、施設間に広場や貸農園を配置することで居住者同士のコミュニティを創出するとともに、一般開放やイベント開催による地域活性化も実現しています。

また、2021年7月には藤沢市とも同様の連携協定を締結し、取り組みを拡大しています。

市民参加型の資源循環設計

座間市との協定に基づく取り組みとして、2019年10月には座間市立立野台小学校の4年生約120人を対象に、サーキュラーエコノミーの実現に不可欠な「ごみの問題解決」に関する授業を開催しました。「ごみゼロゲーム」を通じて、楽しみながらごみ減量について学ぶ機会を提供しています。

さらに、「フードサイクルプロジェクト」として、座間市内の約600世帯に専用コンポストバッグを配布し、家庭から出る生ごみを堆肥化する取り組みも行っています。収集車が各家庭で作られた堆肥を回収し畑へと運ぶことで、地域内での資源循環を実現しました。2020年3月には、市内イベントで使用する使い捨て食器削減のため、リユース可能な食器1,000個を座間市へ提供するなど、具体的な資源循環の仕組みづくりも進めています

成功事例から導く5つの実践手法

これまでの成功事例を分析すると、企業がサーキュラーエコノミーを実践するための共通点が浮かび上がります。以下の5つの手法は、日本企業の実践から導き出された具体的なアプローチです。

1. 製品設計段階での循環性の確保

サーキュラーエコノミーの根幹は製品設計にあります。環境省は2018年に「第四次循環型社会形成推進基本計画」を策定し、2020年には「循環型社会形成推進基本法」を制定しました。これらに基づき、製品の設計段階から循環性を確保するための取り組みが進んでいます。具体的には、単一素材化や分解・分別の容易化、長寿命化設計などが重要です。経済産業省は繊維製品における環境配慮設計ガイドラインも策定し、サプライチェーンの各事業者が取り組むべき項目を明確化しています。

2. 回収・再利用のインフラ整備

回収システムの整備は循環型経済の基盤です。「POOL PROJECT TOKYO」では、東京都内の商業施設から発生した廃プラを自主回収し、トレーサビリティを確保した再生材「POOL樹脂」としてリサイクルする仕組みを構築しています。また、小型家電などレアメタル含有率の高い製品の回収と再資源化も推進されています。低コストで広域的な回収を実現するためには、AI回収の推進やナッジの活用も効果的です。

3. 顧客との接点を活かした循環促進

顧客との繋がりを活用した循環モデルの構築も重要です。アマゾンの「顧客基点の循環型マーケティングモデル」では、デジタルを活用した独自の顧客接点を持ち、顧客とのつながりを築くことで循環型サービスを提供しています。ブリヂストンの「Mobox」のようなサブスクリプションモデルも、タイヤを「所有」から「利用」へと転換し、資源循環に貢献しています。

4. サプライチェーン全体の可視化

サプライチェーン全体の透明性確保は信頼性向上の鍵です。レコテック社が開発したプラットフォームでは、廃棄物の種類、量、排出源などの情報を見える化し、資源循環の透明性を高めています。情報流通プラットフォームの構築は、LCA評価やカーボンフットプリント測定、素材情報等の共有を可能にし、サプライチェーン全体での循環性向上に寄与します。

5. 自治体・他企業との連携強化

サーキュラーエコノミーは単独企業の取り組みだけでは限界があります。小田急電鉄は座間市と「サーキュラー・エコノミー推進に係る連携と協力に関する協定」を締結し、地域内での資源循環を促進しています。また、資生堂、積水化学工業、住友化学の3社協業による化粧品容器の循環モデル構築のように、異業種間連携も重要です。政府は「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」を通じて、全国3地域での対話の場を設け、連携促進に取り組んでいます。

まとめ

本記事で紹介した成功事例から明らかなように、サーキュラーエコノミーへの移行は単なる環境対策ではなく、新たな経済価値創出の機会となっています。ユニクロ、ブリヂストン、小田急電鉄の事例は、異なる業界でも循環型ビジネスモデルが実現可能であることを証明しました。

これらの先進企業から学ぶべき点として、製品設計段階からの循環性確保、効率的な回収システムの構築、顧客との継続的な関係構築が挙げられます。さらに、サプライチェーン全体の可視化や他企業・自治体との連携も成功の鍵となっています。

確かに、サーキュラーエコノミーへの転換には初期投資や業務プロセスの見直しが必要です。しかし、長期的には資源効率の向上、廃棄コストの削減、顧客との信頼関係強化など、多面的な利益をもたらします。

日本政府も「循環経済ビジョン2020」を通じて、この動きを後押ししています。世界的に見ても、サーキュラーエコノミー市場は2050年には120兆円規模に達すると予測されており、早期参入企業ほど競争優位性を獲得できるでしょう。

したがって、企業規模や業種を問わず、今こそサーキュラーエコノミーの実践に着手すべき時です。本記事で紹介した5つの手法を出発点として、自社の強みを活かした循環型ビジネスモデルの構築に取り組んでみてはいかがでしょうか。資源の循環利用は、持続可能な社会の実現と企業成長の両立を可能にする、未来への投資なのです。

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