コカコーラ、Z世代に向けて「夏のリアルな楽しさ」を伝えるCM公開。大手メーカーのデジタルデトックス促進の動きに同調か
スマートフォンが手放せないZ世代に向けて、コカ・コーラがこの夏、異色のメッセージを発信し始めた。
それは、「デジタルノイズから離れ、現実の瞬間を楽しもう」という呼びかけ。
グラミー賞受賞ミュージシャンTylaを起用した北米での新キャンペーンは、この世代のスクリーンタイムへの強い執着を意識し、リアルな夏の体験へと誘う試みだ。
音楽と映像で誘う「現実世界の魅力」
コカ・コーラのサマーキャンペーン
『Enjoy the moment with a Coca-Cola』の口火を切ったのは、「Road Trip」と題された30秒のテレビCM。
引越しの段ボールに囲まれ自室にこもる大学4年生の女性が、ラジオから流れるTylaの新曲「Bliss」とコカ・コーラの栓を開ける音をきっかけに、友人たちとのオープンカーでのドライブという現実の楽しい瞬間に引き戻される。
そして、その道中でTyla本人と遭遇するというサプライズも描かれる。このCMは、テレビだけでなく、デジタル、ストリーミング、ソーシャルメディアといった多様なプラットフォームで展開中。
さらに、広告にはQRコードが仕込まれており、スキャンするとデジタルくじに参加できる。
賞品にはAMCの映画チケットや航空券、リゾート旅行などが用意され、CMで描かれるようなリアルな体験への動線を具体的に示しているのが特徴だ。
コカ・コーラ北米のマーケティング担当副社長であるSue Lynne Cha氏は、「この新しいキャンペーンで、私たちは新世代に、この夏、ペースを落として本当に瞬間を楽しむことを奨励しています。コカ・コーラを分かち合うというようなシンプルなことが、忘れられないものになり得るのです」と『Marketing Dive』に述べている。
音楽というコカ・コーラのマーケティングにおける伝統的な要素と、デジタルデトックスという現代的なテーマを巧みに組み合わせた戦略と言えそうだ。
スクリーンタイムからの解放、大手ブランド共通の潮流か
若年層にスクリーンタイムからの解放を促すマーケティングは、コカ・コーラに限った動きではない。
例えば、ビールブランドのハイネケンも最近、グローバルキャンペーン「Social off Socials」を開始。このCMでは、ミュージシャンのJoe Jonasが登場し、オンラインプラットフォームが機能しなくなった世界で、人々がバーで活気あるリアルな交流を楽しむ様子を描き、「1873年創業のソーシャルネットワーキング」というタグラインで締めくくっている。
これらの動きの背景には、スマートフォン依存やSNS疲れといった現代的な課題に対する企業側の意識の高まりがあると考えられる。特にZ世代は、生まれた時からデジタル環境に囲まれて育ったため、オンラインでの繋がりが生活の中心になりやすい。
しかし、その一方で、リアルな体験や人との直接的なコミュニケーションの価値を再認識する動きも出てきている。企業がこうした消費者インサイトを捉え、ブランドメッセージに反映させるのは自然な流れなのかもしれない。
今回のコカ・コーラのキャンペーンは、WPP傘下のOpen XがOgilvyを中心にVMLのサポートを得て制作。
メディアとデータに関しては、3月に北米アカウントを獲得したPublicisも関与しているとのこと。WPP Open Xは先週、コカ・コーラ社のクリエイティブ事業を継続することを確認したとMarketing Diveは報じている。
同社の声明には、「コカ・コーラ社がWPP Open Xとのパートナーシップを更新したことを喜んで確認します。そして、彼らのグローバルマーケティングネットワークエージェンシーパートナーとしての勢いを継続することを楽しみにしています」と記されていたという。
コカ・コーラがZ世代に投げかける「Enjoy the moment」というメッセージは、夏の解放感と共に、デジタル一辺倒の生活を見つめ直すきっかけを与えるかもしれない。ブランドが消費者のウェルビーイング(心身ともに良好な状態)にまで踏み込んだコミュニケーションを展開する事例として、今後の反響が注目されるところだ。