Z世代はなぜ「注目」から距離を取るのか。「アテンション・デトックス」と消費行動の変化
情報が秒速で飛び交い、常に誰かの視線にさらされる現代社会。Z世代は今、その“注目され続ける状態”そのものに、静かな疲労を覚えているようだ。
若者マーケティング研究機関・SHIBUYA109 lab.が発表した「SHIBUYA109 lab.トレンド予測2026」は、そんなZ世代の感覚を端的に言語化したレポート。2026年の全体キーワードとして掲げられたのは、「アテンション・デトックス」。
これは、情報量やコミュニケーション過多による疲弊、そして不特定多数からの視線や評価から一時的に距離を取ろうとする行動傾向を指している。デジタルネイティブ世代が、あえてデジタルから離れようとしている現状。その逆説的な動きこそが、今のZ世代のリアルではないだろうか。
なぜZ世代は「注目」から
距離を取ろうとするのか

SNSは本来、つながりや自己表現の場だったはず。しかし現在のZ世代にとって、それは必ずしも安らぎの空間ではない。
投稿後に可視化される「いいね」の数、グループチャットで発言した直後に会話が止まる既読の空気感。言葉にならない評価や反応が、常に背後に存在している。
SHIBUYA109 lab.のリリース内でも示されているように、若者の間では「情報・コミュニケーション量への疲れ」が継続的に観測されている。その結果として生まれたのが、不特定多数からのアテンションを避けるという選択だ。Z世代は「見られない自由」「反応されない安心感」を、新たな価値として捉え始めている。
「アテンション・デトックス」が導く
少人数エンゲージメント
この価値観の変化をもっとも象徴しているのが、「モノ・コト部門」で多く挙げられたトレンド群だ。
たとえば「スマホなし旅行」。これは単なるデジタルデトックスではなく、物理的にスマホから距離を取ることで、目の前の体験や人との会話に集中するための行動。また、クローズドSNSアプリ「yope」が注目されている背景にも、同じ構造がある。
限られた友人だけと、飾らない日常を共有する。誰に見られるかを意識せずに済む空間だからこそ、発信のハードルは下がり、関係性は深まる。Z世代にとって重要なのは、どれだけ多くの人とつながるかではなく、誰とつながるかということだろう。
「うま確」と「平成女児コア」に共通する
“失敗しない消費”


こうした心理は、消費行動にも明確に表れている。
(1)食のキーワードは「うま確フード」
カフェ・グルメ部門の中心概念は「うま確フード」。「おいしいことが確実に分かる」ことが、強く求められている。
中国発の「MIXUE」に代表されるデカドリンク、ビジュアルも味も想像しやすい韓国ベーグル。これらは、視覚的満足と味の安心感がセットになった存在だ。
タコスやせいろ蒸しのように、自分で具材を選びカスタムできるフードが支持されている点も重要。失敗はしたくない。でも、画一的な体験にも満足できない。「確実さ」と「自分らしさ」を両立させる消費が、選ばれている。
(2)ファッションは「自己満足パーソナライゼーション」へ
ファッション・ビューティー部門では、Y2Kブームが「ギャル」から「平成女児」へと移行している。少女漫画コア、おもちゃコスメ、缶バッジ。これらは他人にどう見られるかよりも、幼少期に自分が好きだった感覚を呼び起こすアイテムだ。
パッチワークTシャツや3Dプリンターキーホルダーといった“自分で手を加える”トレンドも同様で、完成度よりも「自分が納得できること」が価値基準になっている。
「推し活」から「界隈」へ
クローズドな創造性

Z世代の消費や行動は、「推し」や「テーマ」を軸とした“界隈”によっても駆動されている。お薬手帳界隈、魔法少女界隈といった動きは、既存アイテムを自分なりに解釈し、
世界観に没入する行為そのものを楽しむ文化。
ここでは、「買う」ことよりも「作る」「仕上げる」ことに意味がある。多様な活動形態を持つアーティストが支持されている背景にも、こうしたコミュニティ志向の価値観が重なっている。Z世代は、自分が安心できる範囲の中で、創造性を発揮できる場所を選び取っている。
「いいね」から離れた先にある
新しい幸福の形
SHIBUYA109 lab.のトレンド予測2026が示しているのは、Z世代の“逃避”ではない。それは、情報過多な社会を生き抜くための、極めて合理的な適応戦略とも言えよう。
不特定多数の評価から距離を取り、確実に満足できるものを選び、信頼できる少人数とだけ共感する。Z世代は今、「他人のいいね」では測れない価値を基準に、デジタル時代の幸福を再定義し始めているのかもしれない。






