静かなブーム到来、「フローズンヨーグルト」新しい魅力の深層
フローズンヨーグルト。その言葉に、一抹の懐かしさを覚える人もいるかもしれない。かつて一世を風靡したものの、いつしか日常の風景から少し遠ざかっていたフローズンヨーグルトに、再びスポットライトが当たる兆しが見え始めている。
16 Handles復活、ドバイ発の流行
数字で見る市場のリアルな胎動
フローズンヨーグルト人気の再燃を象徴する動きが、ニューヨークで見られる。食マガジン「Grub Street」によれば、フローズンヨーグルトチェーン「16 Handles」が新たなオーナーシップのもと、力強い復活を遂げているらしい。
同記事によると、CEOのNeil Hershman氏は、ブランド再構築の一環として、期間限定で「ドバイチョコレート」やインドの伝統的なアイスクリーム「クルフィ」、さらに「マンゴーラッシー」といったエキゾチックなフレーバーを次々と導入。この戦略が、消費者の探究心をくすぐり、グローバルな味覚への関心の高まりに反応したようだ。
フローズンヨーグルト再来の現象は、一都市に留まらない。たとえば、オーストラリアではZ世代を中心に、週末の夜の過ごし方として、従来のパーティーではなくフローズンヨーグルト店「Yo-Chi」などに集うことが新たなトレンドになっていると、「The Sydney Morning Herald」は報じている。健康志向の高まりや、SNSでの写真映えを意識した消費行動も、このムーブメントを静かに後押ししているようだ。
市場の数値も、この静かな熱気を裏付けている。市場調査会社「360iResearch」の報告によれば、世界のフローズンヨーグルト市場規模は、2023年に108億7000万米ドルと推定され、24年には117億1000万米ドルに。さらに、年平均成長率(CAGR)7.62%で成長を続け、2030年には181億8000万米ドルに達すると予測されている。これらは、フローズンヨーグルト市場が単なる一過性のブームではなく、持続的な成長の可能性を秘めていることを力強く示唆している。
心を掴む“アーティザナル”な味と
「自分で創る」体験価値
では、なぜ今、再びフローズンヨーグルトが私たちの心を掴もうとしているのか。その答えは、単に「ヘルシーなデザートだから」というだけでは説明がつかない。そこには、進化したクオリティとパーソナルな体験価値という、現代の消費者が求める二つの大きな魅力が潜んでいるようだ。
前述「Grub Street」の記事では、「アーティザナル(職人技の)なフローズンヨーグルト」という言葉が印象的に使われている。素材選びから製法に至るまで、職人のようなこだわりを持って作られた高品質なフローズンヨーグルトへの関心が高まっていることの証左ではないだろうか。
低カロリーであることはもちろん、植物性ミルクを使用したヴィーガン対応の商品や、腸内環境を整えるプロバイオティクスを豊富に含んだものなど、より健康的で、多様な食のスタイルに寄り添う選択肢が次々と登場。まさに、味も質も進化したフローズンヨーグルトと言えるだろう。
「16 Handles」のNeil Hershman氏は、同誌の取材に対し、「私たちのブランドは常に革新を目指しています」と語る。その言葉を体現するように、斬新なフレーバー開発や、これまでのフローズンヨーグルト店のイメージを覆すような洗練された店舗デザインなど、ブランド側も消費者を惹きつけるための努力を惜しまない。国際的なハブ都市ドバイでは、新しい食のトレンドセッターとしてフローズンヨーグルトが注目され、ユニークなトッピングや提供スタイルが生まれているという。「Dubai drizzles」といったキーワードは、現地の活気ある最新情報を彷彿とさせる。
いっぽうで、自分でトッピングを選び、世界に一つだけのフローズンヨーグルトを創り上げるセルフサービスの楽しさは、今も変わらぬ魅力。グローバルフローズンヨーグルト協会によれば、世界のフローズンヨーグルト専門店の実に3分の2以上が、このセルフサービスモデルを採用しているという。
この「自分で創る」という能動的な体験は、SNS文化とも極めて相性が良く、特にオリジナリティを重視する若い世代にとっては、抗いがたい魅力だろう。
一過性のブームで終わらない?
フローズンヨーグルトへの再注目の動きは、単に昔流行ったものが巡り巡って戻ってきた、という単純な話ではないのかもしれない。健康やウェルネスへの意識の高まり、モノ消費からコト消費へのシフト、そしてSNSを通じた共感や体験の共有といった、現代社会を特徴づける価値観と深く結びつくことで、フローズンヨーグルトは新しいデザートカルチャーとしての地位を確立しつつある。
それは、過去のブームを知る世代にとっては、懐かしさと新鮮さが交差する魅力的な再会であり、フローズンヨーグルトを初めて本格的に知る世代にとっては、発見に満ちた新しい楽しみとなるに違いない。