恐怖の対象から、身近な存在へ。世界中で「ドッペルゲンガー」現象がブームに
街中で、あるいはSNSのタイムラインで、自分にそっくりな誰かと遭遇したことはないだろうか? それは単なる偶然なのか、それとも……。
近年、世界中で「ドッペルゲンガー」現象がブームとなりつつある。2024年は、特にその傾向が顕著に表れていたようだ。
ハリウッド俳優まで!
「ドッペルゲンガー」が席巻する世界
「BBC」が報じたところによれば、今年、ニューヨークやダブリンをはじめ世界各地で、俳優のティモシー・シャラメやハリー・スタイルズ、ゼンデイヤなど、数々の著名人の「そっくりさん」を決めるコンテストが開催され、大きな話題となった。
これらのコンテストは、単なる「お祭り騒ぎ」としての一面だけでなく、SNSでの拡散を通じて爆発的な広がりを見せる、現代的な側面も持ち合わせている。
こうした現象は、はたして"一過性のブーム"として片付けてしまっていいのだろうか?なぜなら「ドッペルゲンガー」は、常に歓迎される存在だったわけではない。むしろ、文学作品や民間伝承においては死の予兆や不吉な影として描かれることが多かったのである。
オーストラリアの心理学者ジークムント・フロイトは、1917年のエッセイ『uncann』のなかで「私たちが抑圧すべき何かの象徴」であり「不吉なもの」と論じている。また、同じく心理学者のアヌーシュカ・グロース氏も取材に対して「自分のアイデンティティを奪おうとする存在」と語っている。
しかし、近年ドッペルゲンガーに対する人々の意識は変化しているようだ。特にデジタルネイティブ世代にとっては、彼らは恐怖の対象ではなく、むしろ「親しみ」や「繋がり」を感じさせる、より身近な存在として認識されつつある。
心理学者のアヌーシュカ・グローズ氏は、SNSの普及により人々が孤立感を深める現代において「自分と全く同じような人間が、どこかで違う人生を送っている」という考えは、ある種の癒しや希望を与えるのではないかと分析している。
AI時代における
「ドッペルゲンガー」の在り方
インターネットの普及により、私たちは手軽に「もう一人の自分」を探せるようになった。 たとえば、世界中のそっくりさんを探し出し、撮影するプロジェクトを長年続けているカナダの写真家フランソワ・ブルネル氏。彼の写真集には、まるで双子のように見える赤の他人たちが数多く収められており、人間という存在の不思議さ、面白さを私たちに改めて突きつけてくる。
また、韓国ではK-POPアイドルと瓜二つの顔立ちの人々が、コンテストで競い合う文化も生まれている。熱狂的なファンのなかには、アイドル本人ではなくその「コピー」を求める人さえいるという。これは、現代人が抱える承認欲求やアイデンティティの揺らぎを反映していると言えるかもしれない。
そして、AI技術の発展によりディープフェイクと呼ばれる、本物と見分けがつかないほど精巧な偽動画が簡単に作成できるようになった。これは、ドッペルゲンガー現象が新たな段階に突入したことを意味しているだろう。
彼らは、もはやフィクションの世界だけの存在ではない。テクノロジーの進化とともに、現実と虚構の境界線がますます曖昧になっていく現代社会において、ドッペルゲンガー現象は、私たち自身のアイデンティティや人間関係について、より深く考えさせる重要なテーマと言えるだろう。
街で見かけたあの人のことを、今日は話しかけてみようかな。そう思わせてくれる、不思議な魅力が、ドッペルゲンガーにはあるのかもしれない。