AIチャットボットで気候変動懐疑論者の考えは変わるか?ある科学者の挑戦

オーストラリアで著名な科学コミュニケーターであるKarl Kruszelnicki博士が、気候危機に関する質問に答えるAIチャットボットをリリースする計画だと、『The Guardian』が報じている。

この取り組みは、気候変動が人間によって引き起こされ、緊急の課題であるという事実を、信頼できる情報源に基づいて伝えることを目的としている。

AI版「Dr. Karl」開発

77歳になるKruszelnicki博士は、40年以上にわたり科学に関する質問に答える活動を続けてきた。

しかし近年、特にX(旧Twitter)などのSNSでは、1日に300件もの気候変動に関する質問が寄せられることもあるという。

博士は、気候危機が現実である、あるいは緊急であると信じていないユーザーとも頻繁にやり取りをしてきた。

そうした人々の考えを変える方法はないかと考え、テクノロジージャーナリストのLeigh Stark氏と共に、AIを活用した「Digital Dr Karl」というアイデアに至ったとのこと。

40年分の研究データを学習したAI

「Digital Dr Karl」は、フランスのAI企業Mistralが開発したオープンソースの大規模言語モデル(LLM)をベースにしている。

Stark氏は、Kruszelnicki博士が自身の著書や執筆活動のために収集した、40年にわたる気候科学に関するリソースをAIに学習させているという。

そのデータには、学術論文や『The New York Times』、『The Guardian』などの記事も含まれるとのことだ。

博士はこのプロジェクトに、2025年2月からすでに私財2万ドルを投じている。「これは完全に慈善活動だ」と博士は語っている。

100日間の社会実験

『The Guardian』がデモンストレーションを体験したところによると、インターフェースはChatGPTに似ており、ユーザーが質問を入力すると会話が始まる形式。

しかし、AIが生成した音声は不自然で、一部のデータについては誤った情報を生成する「ハルシネーション(幻覚)」も見られたようだ。

Stark氏は、これがまだ初期段階のベータ版であることを強調しており、2025年10月のリリースに向けて改善を進めているとのこと。

計画では、このチャットボットを100日間限定で運用する。Kruszelnicki博士は、この期間中、毎日TikTokに動画を投稿し、デジタル版の自身へのアクセスを促すという。100日後、AIを停止し、その結果を分析する予定だ。

LLMが人の信念に与える影響

大規模言語モデル(LLM)が人の感情や意見、信念に影響を与える可能性を示唆する研究は増えつつある。

『The Guardian』の記事によると、2024年9月に学術誌『Science』に掲載された研究では、チャットボットとの対話によって、陰謀論に対する参加者の信念が平均で約20%減少したことが示されたという。

研究の筆頭著者であるThomas Costello氏は、AIが対話の中で情報を迅速かつ戦略的に展開できる点が、その説得力の源泉だと分析している。

一方で、AIの倫理的な使用や環境への影響といった課題も残る。

Kruszelnicki博士とStark氏は、チャットボットを太陽光発電で稼働させることで、環境負荷の懸念に対応したい考えを示している。

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