半世紀後、地球は「太陽を敵に回す」ことになる可能性【気候変動】

南極大陸が、地球の「熱の根源」に変わる?

南極の異変は止まらない。

続く温暖化の影響は、本格的に“最悪の段階”に突入しはじめている。最新の研究結果から、強い警鐘が鳴らされた。

研究の発端は、英国政府の要望を受けてのことだった。南極大陸にある巨大な氷山がかつてない頻度で割れていく現象が観測され、政府が緊急の調査を依頼したのだ。

結果は深刻で、研究者の一人は「南極で起きている現象は、南極にとどまらず世界中に波及するだろう。それは世界中に影響を及ぼすため、南極の状況への認識を高めることが重要だ」と語る。

特に懸念されているのは「地球環境における南極の機能が停止し、真逆の振る舞いをし始める危険性」だ。

南極は、地球の気象にとって重要な役割を担っている。温度を下げたり、海水を調整したりしているのだが、これらの機能が停止する恐れがあるのだそう。

指摘されたのは、以下の3つの現象だ。

01.
凄まじく強力な熱波

昨年の3月、南極東部を観測史上最強の熱波が襲い、氷河の表面温度が通常より38.5°Cも上昇する現象が起こった。本来-50°Cほどである南極の気温が、-10°Cにまで上昇。

もし夏にこれが起きていたら、気温上昇は継続し、氷の大陸の表面が溶解しはじめていただろう、と研究者は述べている。この熱波は平均を凌駕しただけでなく、かつての最高記録を遥かに上回るものだった。

現段階では確実ではないが、この熱波と気温上昇が、後述する異変を引き起こした可能性も指摘されている。

02.
海氷面積の急落

温暖化により氷山が消失する現象は、昨年発表されたアルプス山脈消失の懸念からも明らかだった。もちろん、南極もその例外ではない。

海氷面積は2016年頃から急落し続け、今年までの7年間で3回も過去最低を記録している。なお、過去最低とまではいかなかった年も、それまでの数十年と比較すれば明らかに異常な数字であったという。

南極大陸の夏にあたる2023年初頭の海氷面積はすでに記録的な低さだったが、その後の減少率も科学者の想定を大きく超えるものだったそう。

「現在の南極は、もはや新しい世界です」研究者の一人、ホームズ博士は付け加えた。

この現象が危険なのは、「アルベド効果」と呼ばれる機能が停滞すること。本来の南極は、白い海氷が太陽の放射エネルギーを反射して地球の温度上昇を抑える、地球の“冷蔵庫”のような役割を担っているのだが、これが溶解して暗い海面が露出することで、熱を吸収して地球の温暖化が進んでしまうのだ。

温暖化によって海氷が溶け、更に温暖化が進む──という負のスパイラル。しかも、太陽のエネルギーを敵に回して。このまま進めば、最終的に待ち受けるのは地獄の業火かもしれない。

03.
棚氷の劇的な崩壊

昨年3月に起こった、東南極のコンガー氷棚の崩壊についても強く警戒されている。というか、英政府が調査を依頼した発端はこれ。

棚氷(または氷棚)とは、氷河や氷床が海に押し出されて浮いている塊のことで、南極やグリーンランド等の極地でのみ観測されるもの。同じく海に浮く海氷と異なるのは、棚氷は氷河と連結しており、それらを押し留めて支える働きがあるという点だ。

そして、東京23区2つ分もの大きさを誇っていたコンガー氷棚が崩壊したということは、その背後にある巨大な氷床を支える力が失われ、海洋への流出が早まることを意味する。

この崩壊が先述した温度上昇と関連しているかは不明確であるものの、ペースの速さを踏まえると、無関係とは考えにくい。

グリーンランドと南極の氷床は溶け続け、1990年代から現在までに海面は1.8cm上昇した。「1.8cm」だと余り大事に感じないが、これは気候変動における“最悪のシナリオ”と一致しているという。

このペースが続けば、21世紀が終わるまでに海面は17cmも上昇し、1600万の人々が洪水によって住処を失うことが見込まれるのだ。

© CapComCatWalk/Twitter

「最悪のシナリオ」への警鐘

このままでは、南極は太陽のエネルギーを跳ね返す地球の”冷蔵庫”から、放熱して世界中で温暖化を連鎖的に引き起こす“放熱器”になってしまうかもしれない。

南極は環境の要だが、遠隔地で厳しい環境であるため、こういった事象と人間の活動とを結びつけるデータは少ないという。

現状、本研究は南極で起きた異常気象の関連性を明らかにするものではない。

今回の要点は、これらの異常が南極だけでなく、世界中へ波及する可能性に言及していること。社会的にも学会的にも、より南極の状態へ関心を集めるきっかけとなるはずだ。

今回の研究に携わったエクセター大学のジーガート教授は「このデータは、化石燃料による地球温暖化への影響のようなものだ。この起因関係は、合理的に推定できる」と述べた。

実は、先述した東部での事象は気候変動との関連性が明らかになっておらず、人間活動による影響も曖昧だった。ジーガート教授が述べた「化石燃料による温暖化への影響とほぼ等しい」という発言は現段階では真偽不明だが、予想される世界への影響を考えれば、何かしらの策を講じる必要はあるだろう。

異常が発生したのは東部だから、日本も他人事では済まなそうだ。まして、その被害があと80年以内にやって来るなら。

Top image: © iStock.com/Vadim Sadovski
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