【ネオ和菓子の最前線】あんこを「飲む」新体験

あんこをこよなく愛する者にとって、常識を揺るがすニュースかも。伝統的な和菓子に欠かせない、あの優しい甘さとほのかな塩気を兼ね備えた「あんこ」が、なんと“飲む”ものとして登場するという。しかも、単なるぜんざいではない。「あんこ」「バター」「トーストの香ばしさ」という三位一体のフレーバーを、手軽なインスタントで実現したというのだから、思わず前のめりになる他ない。

2023年頃から注目を集める「ネオ和菓子」のトレンドは、ついにここまで進化を遂げたのか。

日本緑茶センター株式会社が数量限定で発売する「インスタント のむあんバタートースト」の登場を切り口に、和洋の境界を軽やかに飛び越え、多様化する日本の食のトレンドを牽引する「あんこ」の無限の可能性を探ってみよう。

和洋折衷を極めた「飲むあんバター」の衝撃

©日本緑茶センター株式会社

ハーブティーやスパイスなどの輸入食品を手がける同社が、あんこの新しい楽しみ方を提案する「インスタント のむあんバタートースト」を25年12月5日より数量限定で発売。

同製品は、伝統的なあんこの優しい甘さに、バター風味の塩気とトーストのような香ばしさという、洋の要素を融合させたインスタントドリンク。開発の着想源は、「ネオ和菓子」のトレンド、そして洋素材との組み合わせで人気が拡大している「あんこ」の多様な楽しみ方だという。

特筆すべきはその利便性の高さ。乾燥あんを使用しているため、ホットミルクまたは熱湯に溶かすだけで、本格的なあんこの味わいが瞬時に楽しめるらしい。バターパウダーによる濃厚な香りと程よい塩気が加わることで、甘じょっぱい「あんバター」の絶妙なハーモニーが実現されているんだそう。

さらに、名古屋のご当地名物「小倉トースト」からインスピレーションを得たという、トーストのような香ばしさが加わることで、単なるドリンクを超えた満足感が得られるみたい。

この製品は、時間や場所を選ばず、手軽に新しい和洋折衷の味覚を提供するという点で、まさに現代の食のスタイルを体現している。同社は、クリームチーズと混ぜて食パンに塗る「あんバターウェーブトースト」や、インスタントコーヒーと牛乳で割る「あんバタートースト カフェラテ」といったアレンジも提案しており、家庭での楽しみ方をさらに広げようとしている。

「ネオ和菓子」が拓くあんこの新境地

この「インスタント のむあんバタートースト」の登場は、一過性ではない「ネオ和菓子」という大きな流れの必然的な進化と言えるのではないだろうか。

ネオ和菓子とは、伝統的な和菓子の技術や素材を守りつつも、洋風の素材や現代的なビジュアルを取り入れ、再構築された新しい和菓子のことである。そのブームの背景には、SNS映えする見た目の華やかさや、健康志向、そして多様な食のニーズに応えようとする作り手の挑戦がある。

たとえば、バラの形をしたおはぎのように、パッケージまで洋菓子のチョコレートボンボンの箱のように仕立てるなど、芸術的な要素を取り入れた「映える」和菓子の事例が確認されている。また、フルーツ大福専門店によるケーキのような盛り付けの大福、ドライフルーツやナッツを組み合わせた羊羹など、「あんこ」が伝統の枠を超えて多様な洋素材とタッグを組む事例は枚挙にいとまがない。

伝統的な老舗でさえも、この流れを牽引している。京都の老舗では、すべて手作業で、ドライフルーツやナッツを組み合わせた薄い正方形の羊羹「果の彩」を販売し、伝統的な技術を活かしつつ、新たな味の調和を追求していることが報じられている。

さらに、食感の意外な組み合わせも魅力の一つ。たとえば、過去には神奈川県の老舗が、ぜんざいに餅や白玉の代わりに、香ばしいサクサク食感の「おかき」を入れるという、新しい食感の組み合わせを期間限定で提案していた事例がある。

これらの事例は、「あんこ」が固定的な「菓子」の概念から解放され、柔軟に進化する素材として再評価されていることを示していると言えるだろう。

あんこは「エナジーチャージ」へ進化する

「あんこ」の可能性は、スイーツの多様化に留まらない。単なる嗜好品から、より実用的な「エネルギーチャージ食品」へと価値が再定義されつつある。

あんこは単なる菓子という概念を超え、手軽にエネルギーチャージできる食品としても利用が広がり、既存の和菓子客層とは異なる新しい顧客層、たとえばスポーツや健康志向層への浸透が見られる。実際、スパウトパウチ包装の「飲むあんこ」が既に製品化されており、この事実は、あんこがもつ高い栄養価と手軽な摂取のしやすさが注目されていることの証左と言えるのでは?

さらに、健康志向は製品の構成要素にも及んでいる。あるあんこスイーツの製品では、デコレーションに用いられるあんこの下のスポンジ生地を、卵やバターを使用しないグルテンフリーで製造している事例も。これは、あんこ自体がもともとヘルシーな素材であることに加え、洋素材と組み合わせる際にも、健康志向や多様な食のニーズに応えるべく、進化を続けていることを示している。

そして、「インスタント のむあんバタートースト」が着想を得た「あんバター」の組み合わせも、今や定番化から商品ジャンルの拡大へと向かっている。「あんトースト」が一般的に見られるようになっただけでなく、その派生として、トーストに乗せて手軽に小倉トーストを楽しめる「スライスようかん」など、あんことバター(または乳製品)の組み合わせが、手軽な製品としても拡大していることが確認されている。

こうした流れの中で、ハーブティーやスパイスといった洋風の食品を手がけてきた日本緑茶センターが、あえて和の素材である「あんこ」を使ったインスタント製品で新市場を開拓しようとする戦略は、非常におもしろい。和洋の境界線が曖昧になる現代において、同社の持つ「インスタント」や「風味の再現」に関する技術が、「あんこ」という日本の伝統素材に新たな光を当て、消費者体験を革新しようとしているのではないだろうか。

境界なき食文化の未来

「インスタント のむあんバタートースト」の登場は、単なる新製品の発売にとどまらず、日本の食文化における和洋折衷と利便性の追求が、新たな次元に突入したことを示している。

ネオ和菓子が牽引する「あんこ」の進化は、伝統を軽んじるものではなく、むしろ伝統的な素材の可能性を最大限に引き出し、現代社会の多様なニーズに応えるための挑戦だ。インスタ映えを意識した華やかなビジュアル、グルテンフリーやエナジーチャージといった健康・実用性、そして「インスタント」という利便性。これらすべての要素を取り込みながら、「あんこ」は日本の食のトレンドを力強く牽引している。

今後、和と洋、そして伝統と革新の境界はさらに曖昧になり、私たちの食卓はより自由で、創造性に富んだものになっていくだろう。この「飲むあんバター」が、その未来を象徴する一杯となるかもしれない。

©日本緑茶センター株式会社
Top image: © 日本緑茶センター株式会社
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