スポーツ科学の「女性不在」にゲータレードが本気で挑む

ペプシコ傘下のスポーツ飲料ブランド・ゲータレードが、女性の水分補給と栄養に関する科学的知見の空白を埋めるべく、複数年にわたるグローバル研究プロジェクト「Body of Science」を始動させました。月経、妊娠、更年期前期——これまで科学が正面から向き合ってこなかった女性の身体に、ようやく光が当たろうとしています。

研究の「たった6%」が意味すること

世界のスポーツ科学研究のうち、女性のみを対象としたものはわずか6%——。2021年に学術誌『Women in Sport and Physical Activity Journal』に掲載されたCowleyらの論文が示したこの数字は、私たちが日常的に触れている「科学的根拠」の多くが、実は男性の身体データを基盤にしていることを物語っています。

ゲータレードの発表によれば、何十年もの間、研究は女性の生理機能が男性と同じであると仮定してきた結果、「人口の半分のために設計された科学」がすべての人に適用されてきたとのこと。つまり、女性アスリートが飲んでいるスポーツドリンクの推奨量も、トレーニング後のリカバリー戦略も、その多くが男性被験者のデータから導き出されたものだった可能性があるわけです。

この構造的な偏りは、スポーツの世界に限った話ではありません。近年、医療分野でも「ジェンダー・データ・ギャップ」への問題意識が急速に高まっています。薬の臨床試験から心臓発作の症状認知まで、男性を「標準」とした知見が女性の健康を見落としてきた事例は枚挙にいとまがないでしょう。ゲータレードの今回の動きは、こうした大きなうねりの中に位置づけて捉えると、その意義がより鮮明に見えてきます。

月経・妊娠・更年期前期を研究対象に

「Body of Science」を主導するのは、同社の研究機関であるゲータレード・スポーツサイエンス・インスティテュート(GSSI)。40年以上にわたりヒューマンパフォーマンスに関する水分補給・栄養研究を行い、数百本の査読付き論文を発表してきた実績を持つ組織です。

同プロジェクトが注目に値するのは、研究対象を「スポーツ中のパフォーマンス」だけに閉じていない点でしょう。月経周期、妊娠、そしてペリメノポーズ(更年期前期)——女性の身体が大きく変化するライフステージごとの水分補給・栄養ニーズを、競技の内外を問わず包括的に調査するとしています。

GSSIのシニア・プリンシパル・サイエンティストであるキンバリー・スタイン博士は、「Body of Scienceは、研究における重大なギャップを認識し対処するという、GSSIのミッションの極めて重要な進化を表している」と述べ、査読付き研究の実施・公表を通じて女性が科学的根拠に基づく知識を得られるようにすると語りました。すでに500人の女性が初期研究に参加しているとのことです。

また、Murphy Research社が2026年3月に実施した調査によれば、6,500万人の女性が脱水症状による健康・気分・集中力・エネルギーへの悪影響を感じていると報告しています。水分補給という一見シンプルなテーマが、実は女性の日常的なウェルビーイングと深く結びついていることを示唆するデータではないでしょうか。

ヴィーナス・ウィリアムズが初代アンバサダーに

初代アンバサダーには、テニスチャンピオンであり起業家・作家でもあるヴィーナス・ウィリアムズが就任しました。ウィリアムズは「何十年もの間、私たちは男性向けに設計された研究に基づいて身体を限界まで追い込んできた。ゲータレードが正しい問いを投げかけ、女性に欠けていた知識を提供する研究を行うことに興奮している」とコメントしています。

20年以上にわたるプロキャリアの中で、身体の変化と向き合い続けてきたウィリアムズの起用は象徴的です。ローンチフィルムにはWNBAスターのアジャ・ウィルソンや陸上のシドニー・マクラフリン=レブロンが出演し、ペイジ・ブッカーズ、ケイトリン・クラーク、キャンデス・パーカーら多数のアスリートも支持を表明しています。

興味深いのは、米国在住の女性であれば「GSSI Labs」アプリを通じて研究に参加できる仕組みが用意されている点。参加者にはポイントベースの報酬も設計されており、研究を「専門家だけの閉じた営み」から「生活者が参加できるオープンな取り組み」へと開こうとする姿勢がうかがえます。

「知らなかった」を減らす科学へ

企業主導の研究プロジェクトには、当然ながらブランド戦略としての側面もあります。女性スポーツ市場の急成長を背景に、ゲータレードが新たな顧客層へのアプローチを強化していることは間違いないでしょう。

しかし、それでもなお、この動きには注目する価値があると感じます。なぜなら、「女性の身体は男性とは違う」という当たり前の事実に、スポーツ科学がようやく本腰を入れて向き合い始めたことの意味は大きいからです。

私たちの身体に関する「常識」は、思っている以上に偏ったデータの上に成り立っているのかもしれません。「Body of Science」が生み出す知見が、アスリートだけでなく、すべてのライフステージを生きる女性にとっての「知らなかった」を一つでも減らしていくことを期待したいところです。

Top image: © The Gatorade Company
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。