狩猟体験ツアー「PRIMAL」和歌山で始動。命と食を結ぶ原体

株式会社Spinelが2026年5月6日に始動させた原体験プラットフォーム「PRIMAL(プライマル)」。「文明が忘れたものを発掘する」という骨太なコンセプトのもと、第一弾として和歌山県の山深い集落で狩猟体験ツアーの販売を開始しました。都市と地方、消費と命──私たちが日常で見えなくなっていたものに、身体ごと向き合う試みです。

「不可視化」された食の裏側

©株式会社Spinel

スーパーに並ぶパック詰めの精肉や、きれいに切り分けられた魚の切り身。私たちの食卓は、驚くほど「プロセス」が見えない状態で成り立っています。かつては多くの家庭で、鶏を絞めたり魚をさばいたりする光景が日常の一部でした。しかし流通と加工技術の発達により、「命をいただく」という行為は生活の表舞台からほぼ完全に姿を消しています。

一方で近年、食育やエシカル消費への関心が高まるなかで、「自分が食べているものの出自を知りたい」「命との距離を縮めたい」という欲求を持つ人が増えてきました。PRIMALが掲げる「原体験」という言葉には、レジャーやアクティビティとは一線を画す、もっと根源的な問いかけが込められているように感じます。

同社の発表によると、PRIMALは「狩りをし、火を起こし、命をいただき、土を耕す」という人間本来の営みを発掘し、体験として届けることを目的としているとのこと。対象は日本の原風景から世界の失われた村々にまで広がる構想で、単なる観光事業ではなく、現代人の感覚そのものを揺さぶるプラットフォームを目指しているようです。

猟師と歩く1泊2日の狩猟体験

©株式会社Spinel

第一弾の舞台は、和歌山県東牟婁郡那智勝浦町の色川地区。人口約330人、住民のおよそ4割を移住者が占めるという、小さくも独自の活力を持つ集落です。急峻な山々と棚田が織りなす風景のなかで、参加者は猟師ユニット「だものみち」の案内のもと、罠の見回りから獣道の解説、止め刺しへの立ち会い、解体作業の見学・補助、そしてジビエ料理までを一貫して体験します。

料金は1人40,000円(税込、交通費・宿泊費別)、定員は1回あたり2〜8名。少人数制だからこそ、猟師の息遣いや山の空気を間近に感じられる設計になっているのでしょう。

「だものみち」代表の原裕氏は、鹿児島大学で畜産学を学び、卒業論文ではイノシシの獣害対策を研究した人物です。22歳で生まれ育った色川に戻り、「獣害を害のまま終わらせず、地域の資源に変える」という信念で活動を続けてきました。現在は色川鳥獣害対策協議会の会長も務め、地域全体の課題解決に取り組んでいるとのことです。

獣害と消費をつなぐ回路

この事業が興味深いのは、都市側と地方側、双方の課題を一つの体験で接続しようとしている点ではないでしょうか。

地方ではイノシシやシカによる農作物への被害が年々深刻化しています。農林水産省の統計でも鳥獣被害額は依然として高い水準にあり、捕獲された動物の多くが食肉などに資源化されないまま処分されているのが実情です。一方、都市では食の過程がブラックボックス化し、「命をいただいている」という実感が薄れ続けている。PRIMALは、この二つの距離を縮めるために生まれた事業だと同社は説明しています。

体験型観光の市場は拡大傾向にありますが、その多くは「非日常を楽しむ」ことに主眼が置かれています。PRIMALが提案しているのは、楽しさや癒しとは少し違う、ある種の「覚悟」を伴う体験です。止め刺しに立ち会い、解体を目の当たりにすることは、決して気軽なレジャーではありません。それでも、その重みこそが「原体験」たるゆえんなのだと思います。

体験の先にある「問い」

PRIMAL | 人間本来の営みを体験できるプラットフォーム / YouTube

同社は今後、地域の生産者と連携した体験プログラムを順次拡大していく方針を示しています。さらに、参加者や関係者の協力のもと、狩猟と食の現場を映像化したドキュメンタリーをYouTubeやSNSで継続的に公開していくとのこと。実際に足を運べない人にも「命の過程」を届けるメディア機能を持たせようとしている点は、プラットフォームとしての射程の広さを感じさせます。

私たちは日々、誰かが命を扱ってくれているおかげで食事ができています。その事実を「知っている」ことと「身体で理解している」ことの間には、想像以上に大きな隔たりがあるのかもしれません。PRIMALという名前が示す通り、これは原初的で、だからこそ今の時代に切実な体験の提案です。食卓に並ぶ一切れの肉の向こう側に何があるのか──その問いを持ち帰ることが、この旅の本当の価値なのではないでしょうか。

Top image: © 株式会社Spinel
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。