下水管を塞ぐ「油の塊」がバスの燃料に。ロンドンの循環経済、地下から始動
排水口に流した油の行き先を、想像したことはあるでしょうか。ロンドンでは、その油が固まって下水管を塞ぐ巨大な塊になり、やがて精製されて、街を走るバスの燃料に変わっています。「厄介な詰まり」が「走る資源」に反転する、ちょっと痛快な話です。
19世紀の下水道が、
21世紀の食文化を消化できない
ロンドンの下水道は、ヴィクトリア朝——19世紀半ばに設計されたものです。当時の人口をもとにつくられた管は、870万人が暮らす現在の排出量をとうてい想定していません。
テイクアウト食品の残り油やウェットシートが下水管の中で冷えて固まり、非生分解性の製品と絡み合う。こうしてできる巨大な固形物がファットバーグ、直訳すれば「脂肪の氷山」です。
2017年9月、ロンドン東部ホワイトチャペルの地下で見つかったファットバーグは全長250メートル、重さ約130トン。コンクリートのように硬化していました。
水道事業会社テムズ・ウォーターの作業員が、高さ約1メートルのレンガ造りトンネルの中で高圧ジェットを使い、撤去に9週間を費やしたと「SpaceDaily」が報じています。
「腐った脂肪」を琥珀色の燃料に
変える6日間
従来、回収されたファットバーグは埋め立てるか、砕いて下水処理に戻すしかありませんでした。コストがかかるうえ、有用なものは何も生まれない。
転機は、再生可能燃料を手がける英国企業アージェント・エナジーとの提携でした。ロンドンからタンクローリーで約4時間、チェシャー州エルズミア・ポートの精製所に運ばれたファットバーグは、固形物を除去したあと沸点まで加熱。
エステル交換反応という化学処理——油脂の分子構造を組み替え、エンジンで燃やせる形に変換する工程——にかけられます。1回の処理に最大6日。完成品は透明な琥珀色の液体です。
ただし収率は投入量の40%未満。同社の広報担当ディレクター、ディコン・ポズネット氏は原料を「かなり質の悪い、腐敗した脂肪」と表現しています。
「見ないふり」をやめたら、
資源だった
日本でも、飲食店の油脂分離装置の管理や、家庭の排水口に流す油の問題は身近なテーマです。けれど「排水口の向こう側」を想像する機会は、ふだんほとんどありません。
ロンドンの事例が示しているのは、循環経済の入り口が必ずしも「きれいなリサイクル」ではないということ。嫌悪の対象を見つめ直したら、そこに燃料があった——その逆転は、都市が自分の「消化不良」とどう向き合うかという問いを静かに投げかけています。






