オレンジの皮でリチウムイオン電池をリサイクル。シンガポール発の新技術

スマホやEVに使われるリチウムイオン電池。使い終わったあと、どうなるか考えたことはありますか。世界全体で見ても、リサイクルされているのはわずか5%未満。しかもその処理には強い酸性の薬品が必要で、有毒なガスが出る。そんな厄介者を、まさかの素材で分解する技術がシンガポールで動き始めています。

「生ゴミ」が強酸の代わりに

シンガポールの南洋理工大学(NTU)と、現地のバッテリーリサイクル企業Se-cure Waste Managementが共同で、果物の皮を使って使用済み電池から金属を取り出す実証プラントを稼働させています。

場所はシンガポール西部のNeythal Road。砕いた電池と、果物の皮から作った溶剤を混ぜ合わせ、コバルト、リチウム、ニッケル、マンガンといった貴重な金属を抽出します。

なぜ果物の皮なのか。皮には糖分や有機酸、フラボノイドやフェノール酸といった天然の抗酸化物質が豊富に含まれています。これらの成分が、電池に閉じ込められた金属を溶かし出す働きをするのだそうです。

NTUの研究チームは2020年、オレンジの皮を使った実験で重量比90%以上の金属回収に成功。その後、パイナップルや梨、レモンの皮でも同様の結果を確認しています。NTUはこの手法を、水と有機物を組み合わせた冶金技術という意味で「hydro-organic-metallurgy」と名付けました。

二つの廃棄物が「閉じた輪」に

この技術が面白いのは、ゴミを処理しているのではなく、ゴミ同士を掛け合わせて資源を生んでいる点です。

NTU材料科学・工学部のDalton Tay准教授は、「食品廃棄物と電子廃棄物という世界の主要な二つの廃棄物を同時に削減できる」と語っています。回収した金属塩は新しい電池の製造にそのまま使えるため、資源が捨てられることなく循環し続ける仕組みが成り立ちます。

使用済みリチウムイオン電池の量は、2030年までに世界で1,100万トンに達するとの予測もあります。一方で、日本を含む多くの国では食品ロスも深刻な課題です。

キッチンの三角コーナーから
始まる想像力

私たちが毎日のように捨てているみかんやレモンの皮。それが、スマホの中に眠る希少金属を取り戻す鍵になりうる。そう聞くと、三角コーナーの中身を見る目が少しだけ変わりませんか。

もちろん、家庭の生ゴミをそのまま電池に混ぜればいいという話ではありません。実証プラントでは商業化に向けた技術的・経済的な評価が続いている段階です。

それでも、廃棄物の価値は単体では決まらないという発想は、私たちの暮らしにも通じるものがあります。捨てるしかないと思っていたもの同士が出会って、まったく新しい意味を持つ。ゴミの足し算が資源になる未来は、すでにシンガポールの一角で回り始めています。

Top image: © iStock.com / Mariia Skovpen
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