宇宙で白内障手術はできる?NASAがISSで眼内レンズ135種類の耐久実験

宇宙開発と聞くと、ロケットエンジンやAI制御を思い浮かべるかもしれません。でも、いま国際宇宙ステーション(ISS)の外壁で試されていたのは、白内障手術に使う小さなレンズでした。

地球で最もありふれた手術が、
宇宙の「盲点」に

白内障は、加齢によって眼の水晶体が濁り、視力が落ちていく疾患です。治療では濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを入れます。

地球上では年間を通じて膨大な件数が行われており、最も身近な外科手術のひとつといえます。

ところが、この「ありふれた手術」を宇宙で行えるかどうかは、誰も検証していませんでした。ユタ大学モラン・アイセンターの研究所と、テキサス州ヒューストンのバークレー・アイセンターの外科医モーガン・ミケレッティ医師が立ち上げた共同プロジェクト「JAMES」は、まさにその空白を埋める試みです。

NASAおよびスペースセンター・ヒューストンの材料試験プログラムと提携し、135種類の眼内レンズを専用カプセルに収めてISSの外部に設置。6カ月間、強烈な紫外線、マイナスからプラスへ激しく振れる温度、そして地上にはほとんど存在しない原子状酸素にさらしました。

「敷石」「気泡緩衝材」、
地球では見ない損傷

帰還したレンズを電子顕微鏡で調べたのは、眼内レンズ材料の世界的権威として知られるリリアナ・ヴェルナー博士です。

初期観察の結果、一部のレンズには「敷石のような凹凸」「気泡緩衝材のような膨らみ」「火傷の痕のような変色」が見つかりました。ヴェルナー博士はユタ大学の公式サイトで「地球上では起こらない損傷だ」と語っています。

ただし、すべてのレンズが傷ついたわけではありません。ISS上での設置位置や保管方法の違いが影響した可能性があるとのこと。どの素材が宇宙に耐え、どの条件が劣化を招くのか。その解明はこれからです。

「老い」は宇宙にも持ち越される

ミケレッティ医師は「私が生きている間に、誰かが地球の外で白内障手術を受けるだろう」と話しています。

火星への有人飛行が現実味を帯びるなか、移住先で人は当然、歳を重ねます。視力が衰え、手術が必要になる人も出てくるでしょう。

ロケットの推進力や居住モジュールの気密性だけでなく、「人間が老いること」にどう備えるかも、宇宙開発の重要なピースだったわけです。

白内障は日本でも多くの人が経験する身近な疾患です。その手術に使う数ミリのレンズが、宇宙の過酷な環境でどう変質するのかを調べるところから、人類の「地球外で暮らす未来」は始まっている。

壮大な話のようでいて、出発点はとても小さく、とても日常的なものでした。

Top image: © iStock.com / dima_zel
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