幸せになる部屋の使い方「8つのヒント」 リビング・キッチン・ダイニング
八納啓創株式会社川本建築設計事務所代表取締役。1級建築士。広島と東京を拠点に「快適で幸せな建築空間づくり」を専門にする建築家。設計活動を行う傍ら、全国的に講演活動や執筆活動を行っている。
家にはいろいろな部屋があり、それぞれが役割を持っています。自分のライフスタイルと合わせて使いこなすことで、もっと幸せな生活を送ることができます。ここでは、家族を幸せにする家の使い方のヒントを場所別にまとめました。
01.
社会経験の場になる
リビングルーム
リビングルームの役割は、家族が集って会話したり、テレビを見たり、くつろぎながらコミュニケーションをとるための場所です。しかし、それだけにはとどまりません。
家族は社会の最小単位であるとはよくいわれますが、家族のメンバーは社会の縮図です。子供たちが大人になるまでの限られた時間の中で、最初に出会う社会経験の場として、リビングルームは何よりも大切な空間だと考えてみましょう。
また一歩進んで、人を招く際にもリビングルームは大切です。家族で話し合って「うちに人を招くなら、ここは入ってもいい場所」と決めておけば、いつも片付けていようという約束ができます。こうした工夫の積み重ねで、人を招く心理的なハードルをぐっと下げることができるはずです。
02.
身近なコミュニケーション
ダイニングルーム
食事をしながら人とよい関係性を築くことで、コミュニケーションの原型を作り上げる場所がダイニングルームです。リビングルームが社会の象徴だとしたら、ダイニングルームには身近な人間関係が象徴されています。つまり、身近な人間関係の中で心を開いて話し合うことを学ぶ場所なのです。
ですから、ダイニングルームでほとんど家族間の会話がないまま食事をした後、子供が部屋にすぐ引きとってこもりがちという状態になっていたとしたら、子供にとって家庭で心を開いて会話をするという状態になっていないというシグナルです。
ダイニングルームは、本音を身近な人たちの間で融合するような場所なのです。
03.
生きるリアリティを学ぶ
キッチン
キッチンは子供にとって、生活を営む基本を学ぶ場所としての機能も持っています。食事のための料理をするのは前提としてありますが、現代の家では、生きていくことに対するリアリティを学ぶ唯一の場所なのです。
魚がさばかれ形が変わって料理になる過程を見て、子供自身も手伝いという形で参加していくと、料理は単に皿に盛られた食べ物ではなくなります。人は他の命を糧として生きていることを学びます。
キッチンの効用は大人にも存在します。人間は炎を見ることで、脳の刺激を受けるとされています。炎のゆらぎに心を落ち着ける効果があったり、インスピレーションが湧くという人もいるのです。ガスコンロを設置していない住まいの方は、ぜひろうそくの炎を見るなど、家の中で炎が見られる工夫をしてみてください。
04.
夫婦と子供を自然な形にする
寝室
子供も大人も、家に住まう上での大切な要素は、「ストレスを感じない生活」ですから、寝室をどのようにするかは、家族のライフスタイルと照らし合わせる必要があります。
私の個人的な意見としては、大人にはできるだけ夫婦単位の主寝室を持ってもらいたいと思っています。父親が仕事を終えて遅く帰ってくると、母親と子供は先に寝ているので、父親は自然と別の部屋でひとりで寝るようになっていった、というパターンはよく耳にします。
これは夫婦の形態として少々不自然であるばかりでなく、子供の自立の側面からもあまりいいことだとはいえません。母と子が自然に離れるきっかけを作るためにも、子供のプライバシーが守られる個室というのは作った方がいいのではないでしょうか。
05.
自分のテリトリーの使い方を磨く
子供室
子供室、つまり子供部屋は、「子供が自分のテリトリーを持って、そこをコントロールする能力を磨く場所」です。自分で部屋を居心地よく整えることで、さまざまな能力が引き出されます。
所有=自己責任の発生という感覚は社会に出たらとても重要な要素で、そのベースを学べるのが子供部屋です。子供の部屋が散らかっていると親は片付けてしまいがちですが、そこはぐっとこらえて、あくまで子供の自主性を尊重し、サポートに回った方がいいのです。
「子供部屋=勉強部屋」ということでは必ずしもないということは言っておきたいと思います。私は「子供に個室で勉強させるのはいい結果を生まない」という意見を持っています。「勉強はひとりでするもの」という意識が植え付けられると、他の人がいるところではなかなか集中できなくなる恐れがあります。
06.
いちばんの癒しの場所
浴室
体を清潔に保つ場所として、お風呂は家に不可欠です。しかしそれだけではなく、積極的に活用することで、お風呂は家の中でいちばんの癒しの場所にもなります。
お風呂のリラクゼーション効果は、古来から温泉好き・入浴好きの日本人にとっては今さらいうまでもありません。さらに親子で入浴すれば、普段とは違ってリラックスした会話を楽しむこともできます。
男性に特に見られる傾向ですが、疲れたときなどに入浴を面倒くさがったり、入ってもろくに湯船につからずにカラスの行水であわただしくすませてしまったりする人がいます。これは実にもったいないことです。
07.
必要な場所に必要な大きさで
収納
住まいによって、収納の形はさまざまです。まとまったスペースの収納を置く方がいいのか、一部屋ごとに細かくいろんな収納をつけた方がいいのか、迷うこともあるでしょう。
私の意見としては、基本は家の中で適宜収納できる場所をつくって、それを家族共通の認識で管理していくのがいいと思っています。もちろん一箇所にまとめる場合もあっていいと思いますが、それだけに頼ると、必要なときに荷物が引き出せなくなるような事態も起こります。
人は物がある程度近くにないと、「出して、しまう」という行動につながりません。収納に関しては、必要な場所に必要な大きさでつくる方がいいように思います。
08.
家と家族を象徴する
玄関
玄関は、住んでいる人が家の外に出るとき、そして帰ってきたときに必ず通る場所です。風水などでは玄関をきれいにしたほうがいいといいますが、根底に流れる思想は同じだと感じます。外から帰ってきたときに、家族の心境を明るい方向に持っていくきっかけにもなるので、大切にしたい場所です。
また、玄関は家を訪問した人全てが通る場所であり、ここまでしか入らない人も多いという意味で、お客様の家に対する印象を決めてしまう大切な場です。ここではアロマやお香、お花や絵を飾るといった小さな工夫がポイントです。それらを際立たせるためには、実用的なものを剥き出しの状態で置かないようにしましょう。
魅力的な玄関は、家族のケアと訪問客のおもてなし、両者を実現してくれます。まずはパッと見た第一印象に気をつけるといいでしょう。
『住む人が幸せになる家のつくり方』
コンテンツ提供元:サンマーク出版