入院中に出会った「窓際の男」との会話

事故で腰椎を痛めた。おかげさまで、一日中ベッドから起き上がれない。

窓際にはもう一人、入院患者がいた。彼は肺に水が溜まって激痛が走るため、昼間に1時間だけ上半身を起こす。

私たちは、病室でいろいろなことを語り合った。

よく喋る窓際の男

ふたりで話していたのは、お互いの妻や家族、仕事、兵役、休暇のこと。

毎日昼になると、彼が外で起きていることを説明してくれた。よくしゃべる男だが、じつにありがたい。風景を見ることができないけれど、男の言葉から景色を想像できた。

窓からは公園が見えるらしい。美しい湖があり、水面にはアヒルや白鳥がいる。子どもたちがボートを漕いでいる。

若い恋人たちが腕を組んで花畑の中を歩く。街全体がよく見渡せて、地平線だって眺められるみたいだ。

目を閉じて思い描く。パレードがある日もあった。バンドの演奏は聞こえなかったけれど、心の中ではその様子をしっかりと眺めていた。彼の話を聞くだけで、何が起きているのかが十分わかった。

それから数週間後

ある朝、看護士が窓際のベッドを片付けにきた。彼は眠ったまま安らかにこの世を去ったそうだ。

彼女にベッドを移動して欲しいと声をかけた。窓からの眺めを、この目で確かめたくなった。痛みはあったが、肘を立ててゆっくりと上半身を持ち上げた。

窓から外を覗いた。でも、ブロックの壁しか見えなかった。

もう一度看護士に声をかけた。彼は一体どうやって景色を見ていたのだろう? 美しい湖のある公園が見えたはずだ。

 

「きっと、あなたを勇気づけたかったんでしょうね」。

 

窓際の男は盲目だったのだ。彼には公園どころか、壁さえも見えてはいなかった。


 

この話は、「i heart intelligence」が紹介した、Harry Buschman作『The Man by the Window』のショートストーリーを元にしています。インターネットで検索すると、映像化された作品など、いくつかのバージョンが存在しています。いずれにせよ、ルームメイトを楽しませようという“窓際の男”に考えさせられます。

Licensed material used with permission by i heart intelligence
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。