せわしない日常生活の中で「解毒剤」のような映画を見つけた

この物語には、ドラマチックな出来事は何一つ起きない。

パターソンという小さな町で、バスの運転手として生きる主人公パターソンの7日間を淡々と描写しただけのシンプルな物語だ。妻を愛し、バスを走らせ、愛犬と散歩して、バーで1杯のビールを飲むー。

ただ穏やかに、静かに過ぎていく映像なのに、いつの間にか惹き込まれてしまう。それは、僕たちの日常生活は、あまりにもせわしなく、心がかき乱されて、息が詰まって、不安だらけだからに違いない。

忙殺された毎日を送る現代人にとって、解毒剤のような役割を果たしてくれる。そんな不思議な魅力に溢れている作品だ。

詩を愛する監督が
詩人にリクエスト

Photo by MARY CYBULSKI

この作品に深みを与えているのは、全編を通して登場する「詩」だろう。パターソンが口ずさむ詩は、日常そのものを生き生きと描いていて、どこまでも美しく、何気ない毎日を愛おしく思わせてくれる。

ちなみに、劇中で登場する詩は、ロン・バジェットという詩人の作品。ジム・ジャームシュ監督が、ロンに4編の詩を使用したいとリクエストしたところ、快諾。加えて、3編の詩を本作のために書き下ろしたとのことだ。 

その内容は、捉え方によっては、ありふれたものなのかもしれない。しかし、いつもの風景やままある出来事でも言葉にすることで、人生というものが豊かで、実りあるものであることに気づく。それが、自分の人生や自分自身を愛でることにもつながっていくー。ジャームシュは、そんなことを表現したかったのだと思う。

永瀬正敏と
28年ぶりのタッグ

Photo by MARY CYBULSKI

心地よい余韻を残しているのは、永瀬正敏が登場するラストシーン。ジャームッシュと永瀬は『ミステリー・トレイン』以来、じつに28年ぶりにタッグを組むことになった。今回の永瀬の役どころは、日本からやってきた詩人。20世紀アメリカを代表する詩人とされるウィリアム・カーロス・ウィリアムズの詩の舞台となるパターソンを巡礼しにくるといった設定だ。

主人公であるパターソンが、永瀬扮する日本人詩人と交わす会話は、リズムや間によってまるで詩そのものようにも聞こえてくる。そのシーンは、とても人間味を感じられて、印象深いものとなっている。

カンヌ国際映画祭をはじめ
世界中の映画人から絶賛

Photo by MARY CYBULSKI

監督のジム・ジャームッシュは、ニューヨークのインディペンデント・シーンを牽引してきた人物。初期作品の『ストレンジャー・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』といった初期の名作に見られるようなどこにでもいる人々の日常を切り取った手法は、この『パターソン』にどこか通じるものがある。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』以来、4年ぶりとなる本作は、ジャームッシュの原点回帰であり、同時に、集大成的な意味合いを持つ作品として位置づけられる。そんな事情も手伝ってか、カンヌ国際映画祭をはじめとして、各映画祭や映画賞、海外の各雑誌、そして世界中の映画人から賞賛を受けているようだ。

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20世紀に社会が獲得した物質的な豊かさから離れて、精神的な豊かさを追うようになった時代性と、流行に左右されずに孤高のスタイルを守り通してきたジャームッシュの世界観が、美しく溶け合った本作品。存分に癒やされてほしい。

『パターソン』
2017年8月26日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。公式サイトはコチラ

 

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Licensed material used with permission by パターソン
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