誰も知らないエチオピアの「壁画」は、思いのほか親しみやすかった。

フランスのラスコー洞窟の絵画のように、人類は太古から、自分たちの願望や精神世界を壁画として描き出してきた。現代でも、自分たちの家の壁にそれを行う集落がある。と言っても、私たちの知っている「壁画」より、斬新でユニーク、そして楽しそうなものだけれど。

エチオピアの農村で引き継がれてきたこの伝統。いつから始まったかは不明だそうだが、住人は「今回が世界初のFacebook掲載さ!」と語っている。

家の内側も外側も
すべて使って「自分」を表現

首都アディスアベバから車で2時間。観光客がここを訪れることはほとんどないという農村。住民のほとんどがムスリムで、ごくわずかにキリスト教徒が含まれたコミュニティ。どちらの宗教に帰依している人も、独特なスタイルで家の内外の壁を華やかに装飾する。

ペインティングの主な目的は、その家の主がどのような人物であるかを示すこと。この村では、家の壁は人々の人生、宗教観、夢や願いの表れなのだ。

こちらの若い男性はバスをペイント。彼はバスを買って、乗客にチケットを売り、農業者としての収入の足しにしたいと考えているらしい。牛が獲りたくて牛の壁画を描いていた先史時代と比べると、人類の進化をひしひしと感じる。現代感の強い壁画だ。

地元のアーティストが描く
ネットを使ってお手本探しも

壁の絵は村の腕利きアーティストたちが手がけている。住民の一人、Rejevoは17歳だが、すでに有名なペインターだ。天然の塗料のみを使って塗られており、よく使われる色は黒、白、赤。他の色は伝統的ではないけれど、インテリアと色を合わせて楽しむ人も。

何か見たことのないものや、馴染みのないもの(例えばメッカのカーバ神殿)についてペイントを頼まれても、インターネットを使ってそれを調べて、しっかりと描きあげてくれるのでご安心を。

また、壁画のペイントには値段がある。カーバ神殿やキリストの絵など、宗教画は高級品でみんなの憧れ。中には貧しいながらもやりくりし、1ヶ月分の稼ぎを貯めて描いてもらう人もいる。

とはいえ、激しい雨などでペイントは流れてしまうので、何年ももつわけではない。だから特に外側の壁画は、クリスマスや宗教行事、記念日、お祝い事に合わせて描き換えることもあるそう。住民たちもお互いの家の絵で眼福を得ているのだとか。

どんな模様が人気?
十人十色のコーディネート

村のどの家にも見られる、一番人気は花模様。キレイだからというだけの理由じゃない。描きやすいので、依頼料がお手頃なのだ。驚くべきことに、同じくらいよくリクエストされるのが家のイラスト。農民にとって家はもっとも価値ある財産だからなんだそう。

他にも馴染み深い牛やラクダ、力と強さの象徴のライオン、乳搾りの日常風景、コーヒーテーブルや帽子などなど。銃をペイントする家もたくさんあるが、戦争を象徴しているのではなく、「こんなライフルが欲しい」などというアピールなんだそう。彼らが銃を持つのは、家畜を守るためだ。

キリスト教徒は、偶像崇拝禁止で幾何学模様の多いムスリムの家とは対照的に、大きな人物画などによって壁を彩る場合が多い。

一方で、「うちのカミさんは宗教画よりこっちの方が好きなんだ」とハートマークをたくさん施す人も。この村ではみんながペイント・ライフをエンジョイしているようだ。

最近はポスターに押され気味?

壁画や教会への寄付にお金を使うこともあり、多くの人にとって農村の生活は決して裕福なものとは言えない。椅子が唯一の家具なんて家もたくさんある。

そのせいか、ここ数年は壁画の代わりに家の中にポスターを貼る人も増えてきているそう。長持ちするしリーズナブルだけれど、この自由で美しい伝統が失われてしまうと思うと寂しい気もする。

Licensed material used with permission by Eric LAFFORGUE
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。