岡本太郎も心酔した「壁画運動」を知っていますか?

何気ない一日に思えるような日が、世界のどこかでは特別な記念日だったり、大切な一日だったりするものです。

それを知ることが、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。何かを始めるきっかけを与えてくれるかもしれない……。

アナタの何気ない今日という一日に、新しい意味や価値を与えてくれる。そんな世界のどこかの「今日」を探訪してみませんか?

ダビッド・アルファロ・シケイロス
生誕125年

ニューヨーク・ノリータ、ヒューストンストリート沿いの一角に“Legacy”と称される壁があるのをご存知でしょうか?

横幅25メートル、高さ6メートルのこの壁は正式には「バワリーミューラル」と呼ばれ、パブリックアートが描かれる場所として人気を博しています。およそ40年前、最初に壁画を描いたのは、あのキース・ヘリングでした。

もちろんそれは違法なグラフィティ。絵はやがて消されてしまいますが、この壁(ビル)のオーナーである不動産会社社長と、ギャラリー「Jeffrey Deitch」オーナーでキュレーターJeffrey Deitchによるはたらきかけで、2008年、世界中のストリートアーティストにむけてバワリーミューラルは解放されることになりました。

過去にはJR、Renta、John Crash、さらにバンクシーなどアートシーンを牽引する作家たちが作品を発表。ニューヨークのアートシーンを壁画から支えてきました。

ところで、ウォールアートといえばベルリンのイーストサイドギャラリー、ブエノスアイレスのラ・ボカ、ハワイのカカアコ地区など、世界各地に点在していますよね。今日のウォールアートを世に広めることになったのは、メキシコ壁画運動と呼ばれるムーブメントだということを知っていましたか?

その運動を立ち上げたひとりが今日の主役、ダビッド・アルファロ・シケイロスです。

メキシコの社会主義リアリズムの画家であるシケイロスは、キュビズムの影響を受けた作風で知られるディエゴ・リベラ、メキシコ象徴主義の画家ホセ・クレメンテ・オロスコとともに「壁画の三巨匠」と称えられる人物。

1910年代のメキシコ革命動乱を経て、国家の文化政策と連動するかたちで「革命の芸術」としてメキシコを起点にはじまったこの絵画運動は、革命の意義やメキシコ人としてのアイデンティティを民衆に訴えかけることを目的としていました。

芸術は、誰か特定の個人が所有するものではなく、いつでも鑑賞できる開かれたものであるべき。その信念は、彼らにキャンバスを飛び越え、壁に直接描くというアイデアにだどりつ着かせるのです。

表現方法や政治的立場はそれぞれ異なるものの、メキシコではじまった彼らの壁画運動はやがて世界へと飛び火することに。特に影響を受けたのがシュルレアリスムの画家たち。さらには映画監督、写真家、さらにはイサム・ノグチや洋画家の北川民次らもメキシコ壁画運動や革命美術から影響を受けました。

そして、「芸術ば爆発だ!」で知られるあの岡本太郎も。

生前、シケイロスと親交があったという岡本太郎、ご存知『太陽の塔』をはじめとするパブリックアートや渋谷駅構内の巨大壁画『明日の神話』(メキシコで制作)も、メキシコ壁画運動が少なからず影響を与えていたことは言うまでもありません。

抽象表現主義、そしてグラフィティアート、後の世代へと受け継がれていく壁画のルーツをたどるお話でした。

Top image: © Paul Almasy/Corbis/VCG via Getty Images
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