逗子の夫婦出版社「アタシ社」が目指すもの。
夫婦2人の出版社「アタシ社」は、神奈川県逗子市にあります。
ミネシンゴさんは美容文藝誌『髪とアタシ』の編集長、三根かよこさんは30代向け社会文芸誌『たたみかた』の編集長です。
アタシ社には、編集会議がありません。
なぜならば、ひとりの編集長が裁量を持って、企画出しからページ割りまで行なっているから。
「革新的なアイデアは多数決からは生まれない」なんて言われることがありますが、アタシ社では面白い企画が会議のなかで少数派になって埋もれてしまう…なんてこともありません。
今回は、そんな独自の道を築く夫婦出版社の自宅兼オフィスにて、お話を伺ってきました。
ジャンルにくくられないための
「逆張り思考」
流行の髪型ではなく、リーゼントや角刈りまで取り上げた『髪とアタシ』の”BAD HAIR”特集に、『たたみかた』の福島特集。
企画のオリジナルさはもちろんのこと、アタシ社の表紙は、写真の雰囲気で見せる雑誌の多いなかで異彩を放っています。
三根かよこさん(以下かよこ)
「みんながやってることはやりたくないというのがかなり強い。基本的に逆張り思考なんですよね」
ミネシンゴさん(以下シンゴ)
「”XXXXX系”とか”○○○○風”になりたくないんですよ」
かよこ
「”○○○○っぽい”の枠の外にいきたい。世の中にないものを作るのがメディアを作ることの意味だと思っていて。すでにあるものを焼き直したり、自分たちだったらこうするというレベルではなく、どこにセグメントされるかも分からないものを作っていきたいんです」
シンゴ
「基本あまのじゃくだから、人と違うことをしたい。そうやってジャンルにくくられないようにしてたのに、最近インディペンデント系の出版社とかくくられ始めていて(笑)。また違うことやろうと思ってます」
「アタシ」から見る世界
「アタシ社」という名前を考えたのは、シンゴさん。
お二人は以前リクルートで「広告主がやりたいことを形にする」仕事もしていたからこそ、「自身が主体になること」を大切にしています。
シンゴ
「女の子は話すときに”私”って使うけど、飲んでる最中は”アタシアタシ”って言って、”私”と”アタシ”を使い分けてるんですよ。”私”よりは”アタシ”のほうがオフィシャル的じゃなくて、素が出ていて自分らしいなと思ってた。個人のアイデンティティを大切にしたいということと、二人で作っているから自分と向き合う本を作りたいということで、アタシ社がいいんじゃないのかなって」
かよこ
「うちの会社の理念は、”私一人で世界は変わらないけど、アタシがどう見るかで世界は変わるかもしれない”。自分一人では世の中の大きな問題なんて解決できないから、いつも自分をちっぽけだと思うんですけど、自分自身の世界は一瞬で変えることができる。それって自分が主体で見ている世界を信じるということ。自分が見ている世界から着想していくのは一見エゴイスティックですけど、そこから自分の個性や生き様が表れてくる。自分が主体としてどう認識するかで世界がその瞬間に変わるかもしれないっていうのは、希望だなと思ってます」
社員を何百名も抱えている出版社もありますが、アタシ社はたったの二人で、企画の立案から編集、広報、営業まで回していかなければなりません。
シンゴ
「インディーズバンドみたいな感じなんです(笑)。シングル作って、まとまったらアルバム出して、ライブやって、手売りして、ファンが増えたら次はもうちょっと大きい箱でできる。その表現が僕らの場合は、本という中で、文字だったり、写真だったり、デザインでやっているという感じだよね」
2人でやっているとはいえ、「”届く人にだけ届けばいい”と小さくやっていくつもりはない」と、かよこさんは話します。
かよこ
「やっぱり数の力ってありますよね。あまり売れていないけど良い本と、何十万部も売れているブームの本とを比べたとき、どちらの本に価値があるのか? それは、答えのない究極の問いだと思います。私たちは別に小さくマクロにやっていきたいという意識はなくて、良いものを作り、ちゃんと売っていかないといけないし、その結果として社会に対して影響力をもっていきたい。広告に予算はかけられない小さな会社だからこそ、埋もれないように特徴を出して、作っているものをより洗練させて、結果的に売れるのを目指しています」
夫婦で働くということ
仕事のパートナーであり、夫婦でもある二人。
お互いの性格については、口を揃えて「真逆」だと話します。
シンゴさんはカメラマン、かよこさんはデザイナーという技術的な役割がありますが、仕事を進めるうえで精神面の役割分担もあります。
かよこ
「彼はオープンマインドな人だから、人脈や場づくりが得意。私は”穴ネズミ”のように、ひとりの世界に入っている人間。だから商売上の役割でいえば、彼が外交で私が研究というイメージでしょうか」
シンゴ
「そうそう。僕は60%の状態でリリースして、40%はあとから補填すればいいってタイプだけど、彼女は95%まで精度を上げてからやっとリリースするタイプ。だから僕が書いた文章を見せてダメ出しされたり、逆に彼女は一つひとつに時間がかかりすぎてしまうから”早く出せ”ってお尻を叩いたり。それぞれの役割で補填しあえてるよね」
ふたりはマインドについて語るだけでなく、「もっと売れたい」とはっきり言う。
かよこ
「最近そういうこと言うのはダサいみたいな雰囲気があるけど、お金があったらやってみたいことがいっぱいあるから、自分たちのやりたいことをやってちゃんと稼いで、またそのお金で面白いことをやっていきたい」
個人の成長が媒体と会社の成長に直結するため、お二人は常に知識を入れながら、たくさんの人との出会いを大切にしています。
アタシ社の雑誌は「XXXX系」ではなく、「ミネシンゴさんらしさ」「かよこさんらしさ」。
新しいスタイルは、ひとりの主語と主観から生まれていくのです。
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