店員はホスト。いま最も注目すべき書店が、歌舞伎町にある。
全国で12,526店舗あるという書店(2017年5月1日現在)。お酒を飲みながら本を読むことができたり泊まれたりするなど、購入前でも1冊の本と向き合える場所が増えていると感じる。
去る10月7日、大型書店がひしめく新宿に、異色の輝きを放つ書店がオープンした。歌舞伎町のラブホ街のど真ん中。すぐ真下にホストクラブがあるビルの1階部分。これほどまでに本とかけ離れたイメージを持つ場所に、書店が開いたというのは聞いたことがない。
歌舞伎町にオープンしたのは、「LOVE」をテーマにした本が400冊以上置かれている歌舞伎町ブックセンター。外観はグラフィティで彩られていて、味気ない色のビルが立ち並ぶストリートに立つ姿は、コンクリートに一滴だけこぼれた鮮やかなペンキのよう。
店名からは想像できないが、本物のホストが書店員となって接客してくれる店として、オープン前から注目されていた。
ドアがなく通りに面したその場所は、知らずに通りかかったとしてもふらっと立ち寄ってしまいそう。まるで、カフェのような雰囲気があるからだろうか。
薄暗い入り口で「いらっしゃいませ」と声をかけられ、踏み入れたこともない“ホストの世界”へ導かれるのかも…と勝手に想像していた私は、拍子抜け。と同時に、少し安心した。
3種類のLOVEがある本棚で
愛を深掘り
店内に足を踏み入れると、まず壁一面に置かれた本棚が目に入った。「黒」「赤」「ピンク」の3種類にカテゴリー分けされている。
案内してくれたホスト書店員、霖太郎さんの話によると、「黒いLOVE」の棚には、想像通りドロドロとした内容の本が多いという。
「エロスや愛について書いた哲学書もあります」
見渡してみると、他にも又吉直樹著『劇場』や村上春樹著『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』など、広く世に知られた作品も。
次に、情熱や純愛に関する本が並べられているという「赤いLOVE」の本棚を覗いてみた。
青春小説の古典的名作とも言われている『ライ麦畑でつかまえて』や『むずかしい愛』と題された本が目に入る。
愛と聞いて「男女愛」を真っ先に思い浮かべたが、「家族愛」など様々なカタチの愛に触れる本が配列されていていた。どうやら、広い意味での愛について伝える書店のよう。
最後に「ピンクのLOVE」ももちろんチェック。比較的ピュアで爽やかな読み物を集めたというこの棚には、小説以外の漫画や写真集が目立っていた。
どの本を手に取ろうか目移りしていると、「蓋を開けてみたら純愛という作品もあるので、カテゴリーは目安として見ていただければ」という霖太郎さんの声が。
結局、難しいことを考えず手にとったのは、映画にもなった詩集だった。
都会を好きになった瞬間、
自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、
きみの体の内側に探したってみつかりやしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
ー『夜空はいつでも最高密度の青空だ』「青色の詩」より抜粋
ふと、開け放たれた店舗の出入り口の方へ目をやった。あと少しで暗くなろうとしている空が、ビルとビルの隙間から覗いて見える。巷によく聞く、愛や欲望にまみれた歌舞伎町の街。そしてそれを包み込むような空。両方見えるここからの景色も私は好きだ。
「今の自分に必要な本」が
見つかる場所
気になる書店員だが、まずは、立候補した3人のホストとエプロンをつけた“ホステス書店員”が中心となって接客してくれる。
ただ本を薦めるだけではなく、訪れた人のニーズに合った本を紹介してくれる。例えば、悩み事がある人には「似ている境遇を体験している主人公が登場する本」、考えが行き詰まっている人には「その人とは違う見方で愛について語っている本」。
なんと恋愛相談もアリみたい。「いいんですか?」と口走ると、「他の本屋では絶対ありえないので、それもここの付加価値だと思います」と、霖太郎さんが笑顔で返してくれた。
書店にはカフェが併設されていて、食事をしながらゆったり楽しめる。
立ち上げに携わった草彅洋平さん、手塚マキさん、柳下恭平さん。
帰り際、店を出るのが惜しくなった。まだ読みたい本はたくさんあるし、何よりも想像以上に居心地が良かったから。
近日公開予定のインタビュー記事は、本書店についてより深く知れる内容となっている。オーナー手塚マキさんやプロデューサー草彅洋平さんに、立ち上げの裏話などについて語ってもらった。
【店舗情報】
歌舞伎町ブックセンター
・住所:東京都新宿区歌舞伎町2-28-14
・営業時間:11~17時
・定休日:なし