東京の書店員、ニューヨークを歩く。『NY Art Book Fair』で見つけてきたもの。
1 『METROGRAPH』
2 『Cooking With Scorsese and Others』
左上:『METROGRAPH』
デザイナーが手がける映画館「メトログラフ」が配布しているフリーペーパー。上映している映画のことや、自分たちが発信したいことを一冊にまとめている。日本の映画館で配布されるものと比べてしまうと、読みものとしてしっかり成り立っているのに、無料というのがなんとも信じがたい。メトログラフは、今年の3月にオープンしたばかりで、一階は広々としたロビーと映画館、二階はレストランと小さな映画専門ブックショップからなる、倉庫のように大きい複合施設。たくさんの人の目に触れるかどうか分からないような場所にあり、掲載されている作品もそこまでメジャーでない。伝えたい想いは金額で計れないものなのだと痛感してしまう。
右下:『Cooking With Scorsese and Others』
ロンドンのインディペンデントな書籍を発行している「Hato Press(ハトプレス)」社。さまざまな映画に登場する食のシーンを切り取って、ただひたすらにまとめた冊子。何かの料理を作るプロセスで、調理する手元に寄って、動作がしっかり見えるようなシーンを切り取っているページが多い。料理番組のように、作り方を伝えているわけではないのに、読み終えたあと、実際にその映画を見て、作って確かめたくなるから不思議だ。キャプションやレシピがないだけで、こんなにも想像力が掻き立てられるのかと驚かされる。「美味しそう!」という感情が流れつづける、何とも面白い本である。
四角い建物が印象的な「METROGRAPH」。
3 『Record』
廃校を利用したアートスペース「MoMA PS1」にあるブックショップで出会った『Record issue 01』。タイトルにあるように、世界中のDJや音楽プロデューサーなど、音楽を生業とした人物たちのインタビューをまとめた雑誌。日本で発売されているものだと、様々な国のクリエーターの居住空間を紹介する『apartamento(アパルタメント)』を彷彿させる。アパルタメントがインテリアを通じてライフスタイルを紹介しているのに対し、レコードは、音楽を作る人に仕事のことや今後やりたいことなどを尋ね、その考え方を深堀していく。日本で販売されるのが待ち遠しい。
「MoMA PS1」の入り口はこんなに賑やか。
4 『YOYOGI PARK』
ドイツを拠点に活動しているアーティスト・Stefan Marx(ステファン・マークス)が直接販売していた『YOYOGI PARK』。代々木公園という、東京では誰もが知っているであろう場所からインスピレーションを受けたドローイング集である。どの季節に描いたものなのか。どんな天気なのかは分からない。ただ、太い線と細い線で、淡々と切り取った公園の風景が続いていく。二つ折りした厚手の紙をホッチキスでまとめた簡素なつくりで、製本の可能性を広げているようにも見える。大都会の真ん中にあり、馴染みのある公園なのに、気がつかないこともあるものだと、作品から見つめ直すことができる。
裏表紙。
5 『BOOK JACKET』
シルクスクリーンを中心に活動している「Otto Graphic(オットーグラフィック)」社。ポスターかと思い手に取ったら、なんとジャケットの形をした本(?)だったという代物。もちろん紙で出来ているし、折りたたまれた状態で見ると本のようにも見える。「本は読むだけのものじゃない。着てみるのもいいのでは?」なんて、本を定義し直しているようにも見える。(ブックシャツも可能かもしれない。)
広げて着てみるとこんなかんじ。
平日の昼間でも大賑わいだったというニューヨーク。会場以外の書店でも、外のセールブックスを大量買いしている人がいたり、活発に棚の前で問い合わせが行われていたり。こうして、見つけてきた本を眺めていくと、紙と印刷の可能性は無限であり、皆、それぞれに面白い実験を続けているのだなと感心させられる。日本の皆さんにとってもアイデアソースのひとつとなれば嬉しく思う。