「男でもあり女でもある」と公表した歌手サム・スミスが伝えたいこと。
2015年のグラミー賞で4冠を獲得したサム・スミス(Sam Smith)。去る9月、約2年ぶりとなる新曲『Too Good at Goodbyes』をリリースしました。その歌声に、再び心を打たれたファンは少なくないでしょう。
活動再開に合わせ実施された「The Sunday Times」のインタビュー。そこで、サム・スミスが明かした“ジェンダー観”が話題になっています。
取材者からの質問に、ヒールを履くのが好きで、家にたくさん持っていると述べたうえで、サム・スミスはこう続けます。
「みんなはこのことを知らないだろうね。でも、17歳のときは、Boy GeorgeとMarilynにとても興味を持っていたよ。
男性用の服を一着も持っていなかったときもあったほどなんだ。本当だよ。2年半くらい、まつげを付けて、化粧をして学校にだって通った。レギンスにはドクターマーチンを合わせて、大きい毛皮のコートも着ていたね」
「どんな肩書きになるのかは分からない。だけど、自分自身が男であると同時に、女でもあったんじゃないかな」
そう、サム・スミスは自分のジェンダー観について告白したのです。ここで、仄めかされたことを、多くのメディアは「ジェンダーフルイド(Gender Fluid)」と報道。
最近、耳目に触れる機会が多くなったこのワード、日本ではあまり馴染みがありませんよね。いったい、どういったものなのでしょう。
”あえて”ジェンダーを決めない
オックスフォード英英辞典から「ジェンダーフルイド」の意味を意訳すると、1つのジェンダーにとらわれないで、それらを決めない人を指します。
その実態について、LGBTQ推進派Liz Powell氏は、「Refinery29」の記事の一部でこう説明しています。
「彼らの意識の中では、ジェンダーが行ったり来たりするのです。または、男性や女性という2つのアイデンティティが混在している状態」
つまり、彼らは特定の期間、男性であることもあれば、女性であることも。だからこそ、あえてジェンダーを決めない。これがサム・スミスのジェンダー観なのではないでしょうか。
しかし、周りと考えが異なることを理由に、多くのイジメを経験したのだとか…。
勝手にレッテルを貼られるという苦悩
あるときは、道端で知らない人から暴行を受けることも。また、他人からの偏見にも苦しんでいたそうです。
「今でも覚えているのは、デビュー当時に、”ゲイ歌手”と呼ばれていたこと。これは嫌だったね。多くの人がプライベートなことを噂する前に、『歌手』として認めて欲しかった。
だけど、変わったんだ。過去の自分じゃない。どんなレッテルを貼られても気にしない」
と、「The Sunday Times」の同インタビューに答えるサム・スミス。このタイミングで、1つのジェンダーにとらわれない自分の“誇り”を公表した理由も、ここにあるんじゃないでしょうか。
さらに、新曲のミュージックビデオでは、同性カップルを映し出すことで、同じ悩みを抱えるマイノリティの人たちに向けて、ある想いを伝えようとしている印象を受けます。
たくさんのイジメから立ち直れた理由を、サム・スミスは、先の取材に「自分のアイデンティティを尊重してくれる仲間たちがいたから」と返答。
このミュージックビデオで、サム・スミスはマイノリティの姿を映し出すことで、自分と似たような状況に苦しんでいる仲間たちに、心の支えになった同じ行為をしているのではないでしょうか。ひとりじゃないよ、と伝えるために──。