世界の大手企業が期待を寄せる新しい役職「CDO」って何?

「CEO(最高経営責任者)」という役職名はもう一般的。ほかにも、COOやCTOなど、様々な略称があります。

では、CDOは聞いたことがあるでしょうか?「Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)」のことで、近年欧米ではその存在が重要視されているようなのです!

とはいえ、日本ではまだまだ耳馴染みのない言葉。体どんな存在なの?専門家にお話を聞きました。

鍋島 勢理(なべしま せり)

一般社団法人CDO Club Japanの理事兼広報官。ロンドン大学卒業後、鍋島戦略研究所を設立。エネルギー政策や外交、サイバー攻撃について研究。日本のデジタル化への対応が乗り遅れている現状に危機意識を抱き、国内外のCDOと交流をはかりながら、組織へのCDO設置を啓蒙している。

破壊者であり変革者

——CDOとは、どんなポジションなのでしょうか。

鍋島:チーフデジタルオフィサー、チーフデータオフィサーのことで、デジタル化が進む環境のなか、経営の視点で自社のデジタル変革を全社的規模で推進し、事業定義を再創造することがミッションです。重要な意思決定を担う存在ですね。

既存の産業を、新しいテクノロジーを有効活用して革新する、デジタルディスラプター(破壊者・変革者といった意)と言われることもありますが、そういった存在に組織として対抗するための役割を担います。

——具体的にはどんなことを?

鍋島:社内の業務で扱ったデータを収集し、どう活用していくのかを考え、新しくサービスを創出したり、業務プロセスを効率化したり。

よく言われているところでは、AIやロボットを導入して、工場作業やオフィスワークの生産性を高めていくなど、多岐に渡って改革をしていきます。

デジタル化が進むことで、既存の事業が成立しなくなる危機意識を持っている業界があります。たとえば、自動車保険。自動運転が普及し事故が減ったとしましょう。それ自体はとても良いことなのですが、保険事業は衰退するかもしれません。

そのため、10年後には「保険会社だったなんて知らなかった」と言われるくらいの新しい業態やサービスを開発しなければならないと言われています。今求められているものを一から見直し、事業を新たにはじめる。そういった役割をCDOが担っていると言えます。

——「起業家」のようなお仕事でもあるんですね。

鍋島:おっしゃるとおりです。CDOは欧米に約5,000人いると言われ、徐々に国内でも認知されてきています。

日本ではまだ10人ほどしか存在していませんが、近いことをしている人はたくさんいるんですよ。そういう人たちがどういう肩書きでやっているか?というと、やはり新規ビジネス事業とか、イノベーション本部長など。

少しかたいおじさまたちが取り組んでいるイメージがあるかもしれませんが、欧米では大学で音楽を学んでいたり、昔アーティストだったという人もいらっしゃいます。

柔軟な発想を持つ人や、既存の枠組みにとらわれない人が必要とされる役職でもあるため、若者にも注目されています。

憧れのポジションになりつつあるんです。面白い潮流ですよね。

IT化ではなく“デジタル化”

——デジタル化とは、どういうことなのでしょうか?

鍋島:たとえば保険なら、これまで一生をかけてパックで契約する視点だったところを、スマホから3時間だけの保険を選べるようになるということ。

これまでは病気になったあとのサポートしか受けられなかった保険サービスが、スマートウォッチを使ってユーザーの健康状況を管理し、未然に発症を防ぐようになるかもしれません。

コーヒーショップでは、「14時にどこどこの店舗でコーヒーを受け取りにいく」っていうことをアプリから注文できるようになりました。注文にあわせて店員さんが用意をしてくれますよね。

日本でも、アプリで最寄りの店舗を調べ、支払いを全部スマホで済ませられるお店があります。利用者はただ店舗にいって商品を受け取るだけ。そこで得られるのは数分間の業務効率化やコスト削減かもしれませんが、アメリカの大手コーヒーチェーンでは、それを10万店舗にいっせいに導入しました。

——なるほど。

鍋島:それ以外にも、ネットだけだった販売サービスが実店舗を持つようになって、ドリンクや食材を売り始め、コンビニ業界を揺るがしたり。

その際に何が強みになるかというと、どういうお客さんが何時にきて、というデータを持っていること。

それによって、この時間はこういうお客さんが多いから、こういう品揃えにしておいた方が売れる、と客層によって商品の陳列や種類をカスタマイズできるんですね。

——売るモノも、売る方法も、データを元に最適化する。

鍋島:そうなんです。賞味期限を管理してフードロスを減らすことにも繋がるかもしれません。または、お客さんが少ない時間帯に、小売りではない別のサービスをすることもできる。コンビニのATMはひとつの例でしょう。

そうなると、今度は既存の銀行業界にとっての危機が生まれるんです。わざわざ銀行にいってお金をおろしたり、送金することが減ってきている上に、仮想通貨が普及したら手数料からの収入もなくなる可能性があります。

このようにして、場所や時間といったさまざまな制約がなくなるとともに、業界の垣根もなくなってきているんです。

——そこで必要なのが、CDOであると。

鍋島:人の配置や、サービスの提供方法、新しく導入するデバイスの見直しなどによって、業務の効率化を計り、新しい事業を創出する。

そういう意味では、社内のシステム管理などを進めていく、これまでのCIOといわれているポジションとは異なります。顧客接点を広く持ち、会社全体を一から見直していく役割として大切になってくると思います。

“働きやすさ”も改善!

——社内業務の効率化も重要な役割ですよね。どんなシステムが導入されているのでしょうか。

鍋島:離職率が大変高いといわれている介護業界では、「IoT(Internet of Things)」を導入して、居室や浴室での見守りを、人の代わりにセンサーが行うようにしています。

広告代理店では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、PCを使った手作業の自動化を進めていて。

これにより、業務効率化や残業時間の削減など、職場環境の改善や離職の防止に繋がると言われています。

——規模が大きいほど、使うツールによって削減できる作業の時間も大きい。

鍋島:身近なところでいうと、SNSのチャットツールがコミュニケーションツールとして一般的になっていたり、クラウドサービスが膨大な資料の管理共有のためにたいへん役立っていたりします。

名刺管理もクラウド化されて便利になりました。CDO Club Japanは「Sansan」というサービスを導入しました。

——スキャナーにいれるだけで名刺に書かれたデータが入力されますよね。

鍋島:はい。それまでは名刺を1枚1枚手打ちで管理していたので大変でしたが、今は週に一度、社員から集めた名刺をまとめてスキャンするだけ。

電話をする際にも、導入前は名刺の束から連絡先を探して、番号をスマホに直入力することがあり大変でしたが、アプリで、電話番号、メールアドレス、住所がすぐに呼び出せます。イベントで会った方に改めてアポを取って伺うときも、訪問先の住所からGoogleマップで経路検索することもワンタッチでできます。

それに、メール送信も案件さえ作成すれば一斉に送信できる。それだけでも、かなり効率的。役職ごとにタグ付けできる機能もあるので、経営者向け、次世代CDO向け、というように階層別にセミナーや研修を開催する際に、宛先を絞ってメール配信できます。

配信停止を希望されることもなく、届けたい人、必要な人にきちんとメールを届けられるようになったのは、営業のチャンスの広がりにつながっているところです。

CDO Club Japanは、デジタル人材のハブになることが目標なので、違う業界の方とのコミュニケーションの中で生まれる化学反応が大切です。

Sansan」は、同僚が新たに入力した名刺情報も自動的にクラウドに反映されます。チャット機能を使い、全社員と名刺データを元にしてコミュニケーションもとれるので、便利ですね。

——これまでアナログだった人脈情報をデジタルで管理できる。

鍋島:そうですね。関係企業が発表したプレスリリースもニュースとして通知されます。部署が変わったなどの人事異動情報もアップデートされ、最近同僚との間でどんなやり取りがあったのかも把握できます。多岐にわたる業界の企業、自治体、省庁、大学などの方々と日々お会いしていると、活躍されている方は業界が違ってもお知り合いでいらっしゃることが多々あります。

「〇〇でお会いしたAさんが、✕✕社のBさんによろしくと仰っていましたよ」とか「△△会社のCさんが、鍋島さんにまた会いたいと仰っていました」といった会話がSansanのチャット内で生まれるので、貴重な繋がりを可視化できるんです。

仕事内容の異なる社員がそれぞれ離れた場所でリモートで働いていることもあり、同僚の人脈を把握するのに役立っていますね。組織の規模が大きくなるほど、より有効なツールとして機能すると思います。

重要なスキルは“人との繋がり”

——デジタル責任者と聞くと、数字や技術的な分野に特化しているイメージがありましたが、そうではないようですね。

鍋島:自由な発想や柔軟性はもちろん、経営層のひとりとしてサービスを見直し、収益化を拡大する戦略を練るスキルが求められます。

プラスで、企業内の部門に横串で存在しなければならないので、部門間で生じるであろう摩擦や軋轢の中、それぞれと上手にコミュニケーションしながら進めていくしなやかさ、コーディネーション能力も必要で。

デジタル化に大きく関わってくるプログラマーやエンジニアと、共通言語を持ってやりとりをしながら、依頼して調整する。

かつ、マーケットを常に見ている人でないといけないので、社内だけでなく社外とのコミュニケーションもしなければなりません。顧客接点を意識して、どういうサービスによって、状況が変わっていくのかを観察できる感性も大切です。

——かなり高度な能力なのではないかなと

鍋島:そうですね(笑)。ただ、CDOに求められるスキルを、当人たちに聞くと、一番重要なのは「好奇心を持っていること」と言う人が多くて。社内に閉じてしまうのではなく、外に出ていくタイプの人が向いていると。

いろいろな業界、枠を超えて、横の繋がりを持っていくことが重要なので、毎日いろいろな業界の人と会い、トレンドを掴むという作業が多いようです。そういう意味では、デジタルという言葉のイメージとは違うと思いますね。

人と人とのコミュニケーションや関係性の部分になってくるので、じつは名刺交換がとても重要になってきます。

——海外と日本で、名刺交換への意識が違うそうですね。

鍋島:そうなんです。以前、200人規模のフォーラムを開催した際、パネルディスカッションまではみなさん出席してくださるのですが、そのあとのネットワーキングのときに数人しか残っていないことがありました。

海外ではそこが一番盛り上がるんですよ。情報交換をすること、人を知ることが最大の楽しみだと認識されています。

けれども、日本では会社に戻って議事メモを作成するために講演を聞いているのではないかと思うほど、その場で繋がりを持とうとする人が少なくて。工夫が必要だなと感じています。

「業界の垣根がなくなっていく」

——なぜ今、CDOが注目されているのでしょう?

鍋島:新しいデジタルインフラを築くことなどによって、経営資源を自身で持たずに既存産業へ参入してくるデジタルディスラプターは、規制緩和により自由化が進む産業、とくに金融・保険業界やエネルギー業界などでは、大きな脅威になると予想されています。

デジタル化が加速していく中で、既存の組織が既存の事業で収益を成り立たせるということが、難しくなってきているんですね。それに伴い、過去のこれまでの経営層の力だけでは通用しなくなり、新しいポジションを社外からヘッドハンティングすることが重要なんじゃないか?という考えが生まれていると感じます。

海外では、売れっ子タレントのように、組織を超えてCDOをシェアする風潮も見られます。ある組織である程度のデジタル化を実現したら、また別のところに行って、と。

日本には終身雇用の文化があり、他社からの人材に壁をつくってしまう傾向もあるので、まだまだ道は長いのかなと思うのですが、ヘッドハンティングという採用のされ方も、働き方改革にあいまって広まっていくのではないでしょうか。

現段階で、 国内では、企業の中でも“異色”もしくは“新分野への深い洞察をもっている”次世代人材を配置するケースが多いです。

——デジタル化とともに、あらゆる制約が取り払われていく?

鍋島:具体的なことは言えませんが、どこにいても仕事をしながらコミュニケーションできる。ショッピングモールでお金をおろして、物も買えて、保険にも入れる。全部スマホで決済できる。

人が、企業や場所、方法にとらわれなくなっているというのは、ひとつありますよね。

加えて、たとえば「〇〇株式会社は✕✕事業をしている」というような、既成概念が少しずつ変化し、業界の垣根はなくなっていくのではないかと思います。

さきほど説明した「Sansan」のような新しいクラウド名刺管理サービスによって、連絡先の登録、情報の呼び出し、といった業務を効率化するだけでなく、全社員の強みを知れるようになったり、それらを共有して組織全体の営業力を強化できるようになっています。

こうしたデジタル化の恩恵が、これまで個人の資産とも捉えらがちだった「人脈」を、組織全体の共有資産としてより認識しやすくしているのではないかと。そういった業務効率化による考え方の変化も、制約や垣根がなくなってきていることを示す一例と言えるかもしれません。

6,000社で導入されている「Sansan」は、社員が交換した名刺データをクラウドで一元管理できます。取引先の最新情報をいつでも確認し、メールを目的別に一斉送信することも可能です。

企業の最新ニュースや人事異動、社内との最新のやりとりが随時配信され、チャットで社員同士がコミュニケーションをとることもできます。だれがいつ、どこで名刺交換をしたのかも一覧表示。

デジタル化によって個人の活躍できる環境が整うにつれ複雑化する人脈の管理は、社内業務の効率化を考えるときには必要不可欠。

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