現代に生きるすべての人へ。未知なる国「キルギス」からのメッセージ
キルギス共和国。その国の名前を聞いたことはあるだろう。が、はっきりとどこにあるかを答えられる日本人は少ないのではないだろうか。正解は中央アジア、中国の左側に位置する。
この国では、馬は自由のシンボルとして認識されている。子供の頃から馬に乗るのは当たり前で、14歳になると自転車を買ってもらうのと同じ感覚で、馬を与えられるという。キルギスには、次のようなことわざもある。
「馬は人間の翼である」
映画『馬を放つ』では、何か大切なことが忘れ去られようとしているキルギスを危惧して製作されたという。しかし、それは、この国に限ったことではない。グローバリゼーションが進むことで、伝統を忘れてしまいがちな僕たちへの警鐘とも読みとることができる。
キルギスとは?
キルギスは、ソ連崩壊後、26年前に独立した。首都はビシュケク。宗教は主にイスラム教だ。イスラム教徒といえば、中東を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、意外なことに、世界的にみて、ムスリムの居住地域の半数以上を占めるのは、パキスタン、インドネシア、インドをはじめとしたアジアなのである。
本作品の舞台になっているのは、首都から300kmほど離れたトゥラスという村。昔ながらの生活や自然がたくさん残っているそうだ。本作では、牧歌的で異国情緒あふれる美しい映像が登場する。それを観ているとキルギスを旅している気分に浸ることができる。
「己のルーツを確認せよ」
というメッセージ
「ある晩、夢を見た。白馬に姿を変えた馬の守護神カムバルアタが言った。“はるか昔、私たちはお前たち人間を友と信じ、この地に生きてきた。ところが、お前たちは自分を神だと思い込み、自然を壊し、富と権力を手に入れるために…”
これは、主人公のケンタウルスが涙をこぼしながら、自分の思いを吐露するシーンで放たれるセリフ。グローバリゼーションの波によって、様々な変化に襲われていることを象徴している。じつは、このセリフはアドリブだったとのこと。撮影中に興奮して、次々に言葉が溢れてきたようだ。
我々は何者で、どこから来たのかー。自分たちのルーツを見つめ直すことは大切だ。僕は、スクリーンに向かいながら、改めてその重要性にハッとなった。
物語のベースは実話
この作品は、第90回アカデミー賞®外国語映画賞キルギス代表になった他、第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門国際アートシネマ連盟賞、ベルギーMOOOV映画祭2017最優秀作品賞など世界中で受賞を重ねている。
ちなみに、主人公を演じたアクアン・アリム・クバトは本作品の監督でもある。劇中で両手を広げる見事な騎乗を披露しているシーンはかなり印象的だ。
このストーリーは、彼の村で起きた実話に基づくということ。キルギスの現状を危惧して映画化までして伝えたかったのは、果たしてどんな想いなのか。ぜひ、スクリーンで確認を!
『馬を放つ』
2018年3月17日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開。公式サイトはコチラ。