現代社会のすべての闇がつまった映画『ぼくらの亡命』

ホームレス、売春、恐喝、アルコール中毒、窃盗、傷害、詐欺、嘘、裏切り…。この映画は、現代におけるすべての闇の要素で構成されている。

主人公は、引きこもりのホームレスの男と、美人局(つつもたせ)をやらされた末に男に捨てられた女だ。その設定は身も蓋もない。間違っても希望はない。ただそこには、深い絶望しか存在しない。

しかし、何故か、最後までのめり込むように観てしまった。

あまりにもリアリティが
ありすぎるキャスト

ホームレスの男を演じたのは、本作が初主演となる須森隆文。特異な風貌は、本物のホームレスにしか見えない。須森は、役作りのために1年間、シャンプーをしなかったとのことだ。さらに、数ヶ月間は、シャワーさえ浴びなかったほどの入れ込みだったようだ。

対して、美人局をやらされる役どころを演じたのは櫻井亜衣。彼女自身も、本作が初主演となる。階段を転がるように堕落していくという役柄なのだが、シーンよっては、ほぼノーメイク。しかも、基礎化粧品さえ使わなかったという徹底ぶりだったとのこと。

あまりにもリアリティがありすぎるキャスティングは、一瞬、ドキュメンタリーにも思えるほど。

人間が狂っていく過程が
赤裸々に描写

主人公の男女を繋ぎ止めるのは、歪みきった愛。1度は、亡命という名の逃避行で結託するのだが、やがて、愛は狂気へと変化していく。詳しいストーリーは、ネタバレになるので控えるが、2人の歯車が狂い、どちらの精神もが蝕まれていく赤裸々な描写には息を飲んでしまった。

この映画のテーマとなっている「他者への依存」は薬物のようなものではないだろうか。依存が過ぎると、中毒になってそのループから抜け出せなくなってしまうからだ。そして、自分自身のアイデンティティーを失い、人生を他人任せにしている限り、生きている意味などないのかもしれない。

同時に、愛について深く考えさせられてしまった。時に愛というものは、人を狂わせる凶器にもなるのだと。

『ぼくらの亡命』
2017年6月24日(土)より渋谷ユーロスペース都内独占ロードショー ほか順次全国公開。公式サイトはコチラ

Licensed material used with permission by ぼくらの亡命
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。