【藤田一浩×嶌村吉祥丸】インターネットが変えた、写真家という人生
来年(2019年)はインターネットの原型が生まれて50周年の記念すべき年。とくに商用インターネットが台頭し始めた1990年前後以降、人々の生活や生き方はネットの進化とともに凄まじいスピードで変化しました。あらゆることが可能になり、技術的にはこの動画のようなことまで夢ではない、ワクワクした世界になってきました。
インターネットによって新しいビジネスが生まれたり、既存の職業もあらゆる面でその恩恵を受けてきました。今回はその中で、写真家という仕事に注目しました。今も昔も写真という表現手法で人々を魅了する写真家ですが、フィルムの時代を経てデジタルカメラが登場し、そこにインターネットが掛け合わされることで、プロとして活動している彼らにどんなインパクトがもたらされたのでしょうか。今回はインターネット「前」も「今」も知るベテラン写真家・藤田一浩さん、そして対照的にいわゆる「デジタルネイティブ」世代の若手写真家・嶌村吉祥丸さんに、お話を伺いました。
1969年生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、文化出版局写真部、中込一賀氏のアシスタントを経て1997年渡仏、2000年帰国。主にファッション、ポートレイト、風景の撮影を手がける。
東京生まれ。ファッション誌、広告、カタログ、アーティスト写真など幅広く活動。主な個展に"Unusual Usual"(Portland, 2014)、"Inside Out"(Warsaw, 2016)、"about:blank"(Tokyo, 2018)など。
「メールを始めたのが最初」
──おふたりはインターネットに出会った時のことは覚えてらっしゃいますか?
藤田さん(以下敬称略):出会いというと詳しくは覚えていないですが、おそらく2008年に初めてパソコンを買ったのが最初かなと思います。
すでに独立していた時で、時代的に仕事のやり取りをメールで行うってことが必要になり購入しましたね。今ではメールなんて当たり前ですが、当時は電話やFAXが一般的で、ラフのチェックも全てFAXでしたよ(笑)。
なので、メールで資料を添付できるなんて、本当に驚いたのと感動したのを覚えていますね。
吉祥丸さん(以下敬称略):FAXだったんですね(笑)。僕も定かではありませんが中学生くらいの時だったと思います。同級生で携帯電話をもつ人が出てくる中、家族で共有して使っていたパソコンでメールを始めたのが最初だったと思います。
藤田さんとは違い、インターネットは小さい頃から身近だった気もしますが、パソコンなんて、当時は、一家に一台でしたから。
「仕事のスピードが圧倒的に上がり、可能性も広がりました」
──インターネットがない中で仕事をするって、ちょっと想像がつかないですね。
藤田:そうですね。今考えると、スピード感が全然違います。アシスタントとして働いていた頃は、先ほども言ったようにFAXしか使ったことがありませんでしたね。
ラフの話もそうですが、例えば、撮影場所を探す時も、当時はロケーションサービスというのがあって、「こんな場所で、こういう写真を撮りたい」ってお願いすると、実際に写真を撮って来てくれるんです。
もちろんそれをFAXで送ってもらってチェックして、その後自分自身でロケハンに行くという感じで、今の数倍時間がかかっていたのではないでしょうか。
吉祥丸:そうだったのですね。
藤田:そうそう。今なんてインターネットで検索して、ある程度ロケ場所を想像できちゃいますし、今まで知らなかったような撮影場所だって簡単に見つけることができるので、仕事のスピードが圧倒的に上がり、可能性も広がりました。
吉祥丸:インターネットで“調べる”ことができるようになったのは、
僕は独学だったのですが、撮る技術は現場で学べても、専門的なことや機材に関してはネットで調べるのが当たり前になっています。
当時は機材とかどのように調べていたのですか?
藤田:先輩やショップの店員さんに聞いてましたね。もちろん本もありましたが、今のように、いつでもどこでも“調べる”ことはできませんでした。
当時はまだWEBサイトなんてありませんでしたから、基本的に撮影の依頼が来たら、毎回、作品ブックをクライアントに郵送するのが一般的でした。
フランスにいた時、日本から撮影の依頼があると、国際輸送で日本のクライアントにブックを送っていました。今よりも時間とお金がかかっていましたね。
1週間かけて送っていた情報が、今では数秒で送れるなんて、本当便利になったと思います。
ちなみに僕、去年ようやくWEBサイトを作ったんですよ(笑)。
それまでクライアントにはブックを送っていたのですが、そういうのに対応したことがない人が多くなってきたんです。WEBサイトができてからは、ブックを送ってくださいなんて言われることは少なくなりましたね。
吉祥丸:去年!そうだったのですね。僕は、学生時代にファッションが好きになって、それと同時期にカメラにハマりました。
当時ラーメンばかりあげていたSNSに、徐々にスナップ写真を投稿するようになっていきました。周りの友人からだんだん声をかけてもらえるようになって、大学を卒業する前にはWEBサイトも作っていましたね。
昔は展示会や媒体でしか作品を見てもらえなかったと思うのですが、インターネットを通じて、より多くの人に作品を見てもらえるのは、写真家としては嬉しいことです。
「インターネットでいろんな情報が手に入る時代だからこそ、あえて物質的で有限性のあるフィルムで、その場の空気感や関係性を写真に収める」
──なるほど。キャリアのスタートにも随分違いがあるようですね。おふたりともフィルムでの作品が多いですが、なにか理由があるのでしょうか。
藤田:とくにこだわっているという訳ではありません。僕の場合は、学生時代からフィルムで撮っていていたので、僕の中でフィルムの方が自然なんです。
吉祥丸:逆に僕は初めてのカメラは祖父のデジタルカメラでした。
学生時代にポートランドに留学していた時、仲良くなった写真家がフィルムを使っていて、試しに自分の誕生日にフィルムカメラをインターネットで買ってみたんです。それから試行錯誤を繰り返し、今ではほとんどの写真をフィルムで撮っています。
インターネットでいろんな情報が手に入る時代だからこそ、あえて物質的で有限性のあるフィルムで、その場の空気感や関係性を写真に収める感覚が僕は好きなんだと思います。
藤田:その感覚は確かにあると思う。インターネットやデジタルカメラの登場を見てきましたが、フィルムの方が集中できる気がします。
カメラもだけどスタイルも基本的には今と変わっていない。僕は“引き算”するんです。余分なものを削いでいく。
あえていえば、フレンチじゃなくて日本食。素材を切って、塩を振るだけというか、それで被写体の本質を表出するというスタイルは当時も今も変わっていません。
吉祥丸:僕も、ありのままの瞬間を最大限に炙り出すことを大事にしています。
そのため、吉祥丸らしい写真というものを自分から定義しないようにしていて、できるだけ生の感じが伝わるような作品を心がけています。
写真というイメージを扱っている以上、僕自身のイメージが入り込むのは違うと思っていて、SNSでもできるだけ匿名性を保つようにしています。
藤田:なんというか、吉祥丸くんの写真にはファッション性の前に作品性がありますね。文章なんかも得意なんじゃないですか?
吉祥丸:もともと哲学が好きなので、何かについて深く考えることは日常的に行いますが、文章よりも写真を選んだのは、写真には直感的に余白を残しやすいからだと思います。
文章だと解釈の余地がより限定されるけれど、写真は100人が100通りの解釈をする。その余白が僕は好きなんです。だからあえて、写真には余白をできるだけ残すようにしています。
藤田:僕もそれには同感です。今では、インターネットがあることで、世界中と常に繋がれるようになりました。
昔では考えられなかった事ですが、僕の作品を地球の裏側で見ている人がいるわけです。旅先で出会った友人にも、簡単に写真を送れるなんて。僕が学生の頃は手紙でしたから。
吉祥丸:そうですね。今では趣味で写真をやっている人も、プロの写真家と同じように作品をネットに載せることができます。
若手でもベテランでも、違う国籍でも、境界線がなくなり、フラットに同じ土俵に立てるようになったのは、間違いなくインターネットのお陰だと思います。
「自然な流れで巡ってきた問題について、写真とインターネットを通して向き合っていきたい」
──ここ20年のインターネットの進化によって、本当にさまざまなことが可能になりました。これからまた何が変わるのか、とても楽しみですね。最後におふたりの今後の夢を教えてください。
藤田:僕はもう、今までやってきたことをずっと続けていきたいと思っています。WEBサイト開設など、インターネットによって便利になり、感じ
吉祥丸:僕は、社会問題や環境問題にもっとクリエイティブの力を活かして行きたいと思います。
世の中にある全ての問題を解決できるとは思っていませんが、自然な流れで巡ってきた問題について、写真とインターネットを通して向き合っていきたい
インターネットを通じて
生まれる可能性
インターネットの原型が生まれてから約50年。数週間かけて届いていた情報は、数秒で届けられるようになり、本のページをめくりながら調べていたものが、どこにいてもキーワードだけで調べられるようになりました。インターネットの登場で、人々の生活は大きく変わってきました。
しかし、便利になっただけではなく、藤田さんや吉祥丸さんが写真家として体験してきたように、今まで出会えなかった人々とつながることによって、新たな驚きも生まれています。
少し先の未来では、インターネットの力で、誰も想像できないような体験や価値が生まれ、私たちの感性も変わってくるかもしれませんね。
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