「だって、それ以外は嘘じゃないですか」映像作家・写真家、山田智和インタビュー

2020年、東京・渋谷。

ものすごい速さで変わっていく街に生きる、すべての人へ。

去る2月初旬、渋谷の街に100点あまりのモノクロ写真が貼り出された。『BEYOND THE CITY』と題されたそれらは、駅の地下通路に、雑踏から裏路地に入る曲がり角に、コインパーキングの料金表の横に、雑踏にまぎれ込みながら“展示”されていた。

撮影者は、映像作家・写真家の山田智和。

再開発中の渋谷とそこに生きる人々を記録した写真に、彼はある役割を与えていた。そしてそれらを残すことで、彼自身はある運命に抗っていた。

たくさんの人が行き交うある土曜日の午後、大規模工事がおこなわれる桜丘町エリアにて。彼が語ったことをここに記録する。

山田智和(やまだ ともかず)

映像作家・写真家。東京都出身。日本大学芸術学部映画学科映像コース出身。TOKYO FILM主催。Caviar所属。 2013年、映像作品「47seconds」がWIRED主催WIRED CREATIVE HACK AWARD 2013グランプリ受賞、2014年、同作品が国連が共催する世界最大規模の国際コンテスト、ニューヨークフェスティバル2014にて銀賞受賞。 同年、映像作品「A Little Journey」がリコー主催のGR Short Movie Awardにてグランプリ受賞。 MTV VMAJ 2018では「最優秀ビデオ賞 "Best Video of the Year"」を受賞し、 SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2019において、最も優れたミュージックビデオ・ディレクターに授与される「BEST VIDEO DIRECTOR」を受賞。

「渋谷」という街を
想像して、感じてほしかった

©TOMOKAZU YAMADA

──オリンピックを前にして、渋谷の街の変化はさらに加速しています。今、率直にどう思っていますか?

 

けっこう危機感があります。オートマチックに開発が進んで、新しい施設ができて、いつのまにか景色が変わっているけど、「ほんとにこの流れでいいんだっけ?」という問いは街が完成する前に一度、提示したくて。

経済的な理由でビルがどんどん建って、新しいけどあれってほんとにかっこいいかな?いや、べつにかっこよくねえしな......という疑問があるんですよ。アンチテーゼというより、一回立ち止まって「街を想像してほしい」と思うところがあって。それが今の2020年のタイミングなんじゃないかな、と。

 

──2月におこなわれた展示『BEYOND THE CITY』(現在は終了)は、写真の掲示場所がギャラリーなどではなく渋谷の路上でした。さきほど「街を想像してほしい」という言葉がでましたが、その思いと展示方法はどう結びついているのでしょう?

 

とにかく「街を感じる」ということをしてほしかった。閉じられたせまい部屋で、頭の中だけで想像しながら見てもらうんじゃなくて。

ずっと「街」をテーマに作品を撮ってきて自分の中に生まれた問題意識なんですけど、ギャラリーの展示もそれこそオートマチックになってしまっている部分があるなと思っていて。

展示や個展っていうと、オープニングパーティしてレセプションがあって......という流れがあるけど、それってなんか閉じられていますよね。でもそういうのを大々的にやればアーティストとしての格が上がる、みたいな風潮も確かにあって。そんなの意味がわからん、って僕は思う。それならべつにアーティストにならなくていいやって。

もっとひらけた空間で、もっと体感してほしい。そう考えたときに、物理的に街の中をギャラリーにしてしまうのが一番適しているんじゃないかと思いました。

©AYATO OZAWA
©AYATO OZAWA

──実際に「渋谷の路上」に展示をして、街を歩きながら見てもらう方法をとったことで印象深い反応などはありましたか?

 

10人くらいの人たちと歩きながら展示を案内したんですけど、面白いことにみんなが「それぞれの渋谷(の思い出)」を語りたがるんです(笑)。街の中を実際に「歩いてまわる」というフィジカルな行為によって、見てくれた人の中にある「渋谷」のストーリーと僕の作品が結びついていく。

そこには頭だけで想像してもらうよりも、心を動かせるものがあるんじゃないかなと思いました。自分としてはすごくしっくりきた展示方法です。

これは僕の記憶の補完であり、
みんなの記憶の補完である

©TOMOKAZU YAMADA

──『BEYOND THE CITY』では、山田さんが過去10年のあいだに渋谷で撮影したMVや映像作品と、おなじロケーション・人物を再開発中に記録しています。過去の記憶に重ねるような撮影をした意図とは?

 

僕の中で、主に3つのレイヤーがあって。

まずは「僕の記憶の補完」であるということ。街の開発に反対とかいうことはあまり押し出す気はなくて。主語が大きくなると、途端に濁ってふわっとした強度がないものが生まれてきちゃうんですよ。

作品を見た瞬間に「なんか熱があるな、心があるな」と感じるのって、その作家の何かにふれちゃうからじゃないですか。それは作り手のほんとに個人的なストーリーだったりする。だからまずは、主語を「自分」という小さいものにしています。

 

──あくまでも個人的な記憶であり、それを記録したもの。

 

はい。それから、「みんなの記憶の補完」でもあること。

水曜日のカンパネラの「メデューサ」(2015)のMV、ドラマ『トーキョー・ミッドナイト・ラン』(2017)(主演:二階堂ふみ・コムアイ)は、どちらも渋谷の街で撮影していて。

宮下公園とかで撮っていたんだけど、今はもう、そこには何もない。僕らのストーリーの補完として、コムアイにあの時とおなじ場所に立ってもらって撮影して。そしてそれを、おなじ場所に展示しました。

©TOMOKAZU YAMADA

JR線路下のトンネルでは、OKAMOTO'S の「BROTHER」(2016)のMVを撮ったという記憶がある。あそこの駐輪場もすごい好きだったんですけどなくなってしまうから、その前にレイジくんに立ってもらって撮って。この写真は、トンネルの入り口のところに展示しました。

©TOMOKAZU YAMADA

2018年の大晦日にはスクランブル交差点のあたりで、踊ってばかりの国の「ghost」(2019)のMVを撮りました。まさに新年のカウントダウン中。下津氏がシラフじゃ無理やー!」って言いながら、裏路地の王将の前で一升瓶を飲み出したんです。なんかそれがすごくおもしろかった記憶で(笑)。

そんなことをしてふざけていたすぐ下に地下トンネルができるんですけど、今は工事中。そこで下津氏を撮った写真は、例の王将の前に展示を。

©TOMOKAZU YAMADA

それから、フィールドで展示することで「思い出も、撮った場所も、展示する場所も、ぜんぶおなじだったらどうなるか?」を確かめてみたかった。この場所の記録を、僕やみんなのひとつのストーリーとして証明できるんじゃないかなって。

主語を大きくして届くところまで届けたい気持ちもあるけど、出発地点はものすごく小さい。自分の記憶でしかないんです。でもそれが、渋谷を歩きながら作品を見てくれた人たちと何かの瞬間に繋がったら、それはハッピーなことですよね。

追いつづけていきたいのは、
街の中にいる「人間」のストーリー

©TOMOKAZU YAMADA

──残したいのは単に「変わっていく風景」だけではなく、そこに存在していたストーリーそのもの、ということでしょうか?

 

じつは、風景自体にはあまり興味がないんです。何のストーリーを追いかけていきたいのか?っていうと、やっぱり「人」。人が生きている中で感じてきた思いや、その背景だったり。そういうものにふれたり、描くことが好きです。

「街の中にある、誰かの想いを届ける」というのが自分の、そして自分の作品の役割でもあると思っていますね。

変わっていくのはしかたがないこと。
それなら、「変わる先のこと」をちゃんと考えたい

©TOMOKAZU YAMADA

── 一方で、再開発中の街の風景だけの写真も多数見られます。「姿を変えてしまうもの」を写真で残すこと。それは懐古とはまた違うものですか?

 

変わっていくこと自体には全然賛成というか、古いものがなくなっていくことはしかたがないことだと思っています。だったらその変わる先のことをちゃんと考えたい。考えられる人間になりたい。その上で「こういうほうが美しいんじゃない?」っていう提示を続けていきたいんですよね。

 

──ここで言う「美しい」とは?

 

たとえば、裏路地のような場所を僕は「無意識の集積」って呼んでいて。誰かの思い出や、人の思いが集まっている場所だと思っているんです。

そういった記憶の「余情」とか「隙間」って、きっと新しいきれいなビルの中にはなくて。「昔ここのビルの地下に行ったな」とか、一歩踏み入ったところに人の心にふれる何かがある。それって美しいなと思います。

そういうものをいかに残していけるか、残すか。そしてその意識をつくっていけるか。思いやカルチャーが集まった豊かな街にしていくために考えたくて。でも、積み重ねていくことがアップデートでもあるから......難しいですよね。

好きなもの、美しいと思ったものを
「記録したい」という欲望がすごくある

©AYATO OZAWA

──展示に際して、山田さんは「世界は常に破壊と創造を繰り返していくけれど、カメラを向けて観察すれば、その消滅という運命に抗うことができる」(一部のみ抜粋)とコメントしています。山田さんにとって、「抗う」とはどういうことでしょう?

 

まず単純に、自分が好きなものとか美しいものを「記録したい」という欲望がすごくあるんですよね。対象物がなくなってしまっても作品はアーカイブされつづけるし、そのとき自分に見えていたものや誰かが考えていたことを、自分がカメラでとらえることによって後世に残していける。

それを特権のように感じているし、「記録する」ことで抗っているのかもしれません。そしてその行為に自分はエクスタシーを感じていて。なくなっていくものを前に、使命感にかられているのでしょうか。

写真ってたぶんそういうものだと思います。シャッターを切った瞬間に、とらえたものは存在しなくなっていく

椎名林檎の「ギブス」の歌詞でありますよね?(笑)。「写真になっちゃうとわたしが古くなるから撮らないで」みたいな。名言ですよね。それちょっとわかるなって。

 

── 一方で、写真家の森山大道さんの考え方にも強く共感されていると書かれていました。

 

「過去はつねに新しくて、未来はつねに懐かしい」。撮った瞬間から対象が古くなることを強く感じる一方で、この森山大道さんの言葉すごくいいなって。自分なりに紐解いていきたいと思っているんです。

たとえば、初恋の記憶って鮮明じゃないですか。大人になってからの恋愛の細かい瞬間よりも、中学生のときに初めて手を繋いだことのほうが逆にしっかり覚えていたりして。

時間が経つほどに色づいていくというか、強くなっていく。正確に、とかではなくて「強く」なっていく。そういうのが記憶にはある気がします。

その「過去の新しさ」にふれてみたくて、『BEYOND THE CITY』のサイトに載っている写真は、アクセス数が増えるごとに、すこしずつモノクロからカラーになっていく仕掛けにしているんです。記憶の色鮮やかさや、矛盾みたいなものを表現できたらと思っています。

そこに「今」が反映されていないと
意味がない

©AYATO OZAWA

──山田さんの作品は、さまざまなメディアで「時代を切り取っている」と評されることが多いように思います。その感覚はご自身では持たれていますか?

 

どういう意味でそう言われているかは未だによくわからないんですけど、ただ、今を切り取ってなかったらヤバいですよね。だって「今を撮る」ものじゃないですか。そこに何かしらの現在性 ー自分が今、恋愛中とか失恋中とか、経済的な話とかー が反映されていないと僕は意味がないと思う。今を見ていかないとしょうがないというか。

......っていうのが正解だけど、実際は米津玄師とあいみょんのMVを撮ってるからじゃないですかね(笑)。でもそれもとても大事な要素だと思ってますよ。最初に風がどこに吹くか分からない人とそうじゃない人ははっきり分かれますから。

 

──「現在性がないと意味がない」というのは?

 

そもそも作品って、究極つくらなくても良くないですか? だから、つくる必要というか必然性があったほうがいいですよね。「そうせざるを得ない」状況というか。自分はこうしたい、というのがあるほうがいい。そうなるとやっぱり自分自身のストーリーが大事になってくる。

だって、それ以外は嘘じゃないですか。何かをつくったときに「誰かの〇〇っぽいもの」になったりするのって、つまりそういうことですよね? 

 

──やっぱり、すべての出発地点は「自分」からというわけですね。

 

そう考えると、「写真家になりたい」とか「映像監督になりたい」っていう発想はもう弱いと思う。あくまでも自分が伝えたいことの「 “手段” としての写真・映像」として考えたほうがいいというか。それが “目的”になってしまっているものって、見る人が見たらバレちゃいます。

でも、ちゃんと伝えておきたいのは、ご飯を食べるために撮っている、その仕事については僕は素晴らしいと思っています。社会と接触している手段としてカメラやビデオで食べている人たち、自分もそうだからですけど、その状況も「自分の今」という現在性に入ると思うので。たとえば「家族を養うため」という理由だって、その人の「今」ですよね。

何かをとらえようとする気持ちは、
ずっと変わらず持ちつづけていく

©AYATO OZAWA

──目的や残したいものがあったうえで、それを果たすためにどの手段を選ぶのか?山田さんはその選択肢をたくさん持たれていますよね。

 

映像も写真も、雑誌の連載も、いろいろやりすぎてときに揶揄されたりするけど、べつに自分自身は何も変わらない。これを伝えるには展示がいい、これの場合は連載がいい、これだったらスチール、これはムービー、これはドラマ.......と、やりたいことがまずあって、その手段を考えていくのって楽しくないですか?

ひとつの手段を極めている職人的な人たちは、美しいと思います。でも、自分はそれだと飽きてしまう。だからなるべく、方法より先にまず “伝えたいこと”を大事にしています。

 

──では『BEYOND THE CITY』も、あくまでも「このタイミングだったから」モノクロ写真という媒体で路上展示、という方法をとったということでしょうか?

 

あくまでも、そうですね。もちろんこの作品が森山大道展に出展したところからスタートしているからでもありますが。『BEYOND THE CITY』というプロジェクト自体はずっとずっと持っていたくて。自分のライフワークとしてつづけていこうと思っているんです。

「渋谷を撮っていく」ことは変わらないけれど、展示のしかたは変えていくだろうし、もちろん中身も街と一緒に変わっていくし、時代によって展示の意味すらも変わっていくかもしれない。

でも、何かをとらえようとする気持ちはずっと変わらず持ちつづけて、だれかのストーリーを、ずっと追いつづけていきたいです。

©TOMOKAZU YAMADA


ー後記ー

インタビューのあと、桜丘町を歩きながら「ちょうど明日、この再開発地区の敷地内でMVの撮影があるんですよ」と話していた山田。以下のMVが公開されたのは、それからすぐのことだった。

公開に際した山田のコメントを引用する。

「今しか撮影できないであろう現在の日本の中心地と、楽曲の現在性をもって、しっかりと今というものを記録し後世に残したい」

Top image: © AYATO OZAWA
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