彼女は「顔」を武器にして、世界にメッセージを発信する
最近、「アーティビスト」と名乗る人々をよく耳にするようになった。
彼らは精神不安定をメロディーにのせて伝えたり、環境汚染をストリートアートに落とし込んだり、性差別をメイクで表現したりしている。
それぞれメッセージの発信方法は異なるが、共通しているのはアートを駆使して「社会の闇」にスポットライトを当てているということだ。
あまり聞きなれない肩書きを背負う人々は、今、どのように世界を変えようとしているのか。そもそも、いったい何者なのか?
社会を変えられる可能性を
「メイク」は持っていた
第一弾で紹介するのはRand Jarallahさん。彼女は自分の顔をキャンバスとして利用し、SNSを中心に様々な社会問題を訴えている。
Randさんに「アーティビズム」とは何かを聞きつつ、どんなムーブメントを起こしたいのかを質問してみた。
──日本人の僕にとっては、「アーティビスト」という概念にあまり馴染みがありません。少し説明していただいてもいいですか?
アーティビストとは、アーティビズムをする人のこと。これはアートとアクティビズムを組み合わせた言葉です。私たちは社会や政治、経済、環境に変化を起こせるよう常に考えています。簡単に言えば、より良い社会を築くのが最大の目的ですね。
──Randさんが個人的に考えるアーティビズムとはなんでしょうか?
私にとっては、たくさんの人の会話のきっかけを生み出せる手段だと思います。日常生活では話さないようなトピックでも、アートというタッチポイントを作ると、不思議とディスカッションになるんですよね。
例えば、人権問題や国際情勢、精神不安定などの言葉自体はカタいけど、見せ方を変えてあげるだけで多くの人の反応はまったく違うものになります。
大好きなメイクが
「会話」を生み出し始めた
──メッセージを発信するツールとして、なぜ「メイク」を選んだのしょう?
理由はとてもシンプルで、私が大好きだったから。結果的に、常識から外れたアクションだったので、そのまま続けることにしました。
あとはメイクにまとわりつくネガティブなイメージを壊したかったの。
──なるほど。
どの社会にも「美」という漠然とした概念が存在するでしょ?広告のモデルみたいな。その空虚な理想を追い求めるために化粧が使われることもあるし、コンプレックスを隠すために使われることだってある。メイクは人を弱くしてしまうときもある。
だから、私はポジティブな感情を抱いてほしいんです。
──メイクでこの想いは伝えられると思いますか?
すべてではないかもしれないけど、届くと信じています。人によっては、非常に強いメッセージを受け取ってくれるでしょう。
さらに、私は安全な場所を提供したい。自分のストーリーをありのままに話せて、センシティブな社会問題もシェアできるような。
パレスチナで育った経験は
差別と戦う「武器」を与えた
──パレスチナで育った経験は、今もRandさんのアートに生かされてるのでしょうか?
やはり厳しい現実を目の当たりにしているので関係しています。だけど、コンプレックスにはなっていません。
いわゆる紛争地帯での生活経験は、たくさんの大切なことを教えてくれました。ボランティアをする意義や、社会に貢献しなければいけない理由、人の生命の捉え方など。
そして、人道主義を重んじるようになりました。
──だから、パレスチナについてだけでなく、性差別がテーマの作品もあるんですね。
そう、「人」が最重要だと思っているから国だけを取り上げることはありません。
とくに声をあげなければいけないのは「性差別」です。私たちは未だに平等を勝ち取っていないのです。だから、多くの可能性を探さなければいけない。何度もトライをすることで、きっと答えが見つかるはずです。
──大きなソーシャルムーブメントも起きています。
でも、覚えておかなければいけないのは、性差別はカタチを変えていくということ。しかも地域によっても、国によっても違う。だから、色々なアプローチを仕込んでおく必要があると思います。
──アーティビストとして、Randさんができることは?
たくさんの人の会話のきっかけを生み出せることでしょう。まったく視野に入っていなかったテーマに注目を集め、意識をしてもらえるように働きかけます。これに必要になるのがアート。
だから、私はアーティビストと名乗るんです。