長野県・渋温泉のずっと山奥。地獄谷野猿公苑という名のサル天国へ

 

「こらっ、お湯がはねるから遊ばないで入りなさい!」

 

なーんてお風呂の中ではしゃぐ子どもをたしなめる大人。東京の下町にある銭湯で見かけるような光景が、長野県の山奥にある地獄谷野猿公苑のサルたちの間でも見られるというから、驚きました。

 

ここの温泉に入るサルたちは「スノーモンキー」と呼ばれ、今や彼らに会おうと世界中から旅行者がやって来るほどの人気ぶり。渋温泉からはちょっと離れた山奥にあるので、会いに行くとなればそれなりに装備を整えなくてはならないし、体力も時間も使います。でも、その苦労をしてでも行ってみる価値、あり。

 

ただ、最初から残念なお知らせがひとつ。

 

行ってみたらサルがいない!
そんな日もあるよ

©2018 ETSU MORIYAMA

せっかく地獄谷まで行くのであれば、たくさんのサルたちに会える方がいいとは思うのですが、開苑時間内であっても、サルたちは必ずしも公苑内にいるとは限りません。忘れてはいけないのは、彼らは野生動物だということ。

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ここには彼らを囲う柵はありませんし、野生動物はもちろん人間の都合では生きていないから、その全てを人間がコントロールすることはできません。特に秋は山に食べ物がたくさん。恋のシーズンだったりもするので、山の奥にいることが多いんだそうです(半月くらい野猿公苑に姿を見せなかったこともあったとか)。

 

ちなみに渋温泉にある観光案内所の脇には、その日のサルの出勤状況が看板でお知らせされますので、野猿公苑の公式ホームページで見られるライブカメラや、公式フェイスブックの情報などと合わせて参考にするのも一手。運よく彼らに出会えたら、きっと一生の思い出ができるはずです。

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地獄谷のサル全員が
温泉好きなワケじゃないの

©2018 ETSU MORIYAMA

ところで、なにがどうして地獄谷のサルたちは温泉に入るようになったのか? それは、ある子ザルが好奇心からお湯に入ったのがきっかけだそうです。その後、お湯に入るという文化が群れの一部へと広まったのだとか。でも、ここにいるサルたち全員が温泉好きかと言われれば答えはノー。基本的に温泉に入るのはメスと子ザルだけで、母ザルが子ザルを連れて、体を温めるために入るんだそうです。それで子ザルがお湯に慣れていって、大人になっても入るんだとか。母親が入らなければ当然子も入らないので、入る家系、入らない家系が出てくるといいます。

©2018 ETSU MORIYAMA

ちなみに、温泉効果? とも思いたくなるような地獄谷のサルたちの毛並み。実は温泉には入らないオスの方がフカフカなんだとか。寒さが厳しく雪が多い場所なので、雪を弾くためにふわっとした毛になるそうですよ。

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冒頭でも触れましたが、長湯で飽きて遊び出す子ザルを、大人のサルがたしなめることがあるというのもおもしろい話です。特に冬は温泉に入りたいサルで中が混雑しているので、静かに入っていないと怒られます。遊び出しても怒る大人がいない秋の時期の方が、思い思いに遊ぶサルの姿なんかが見られるそうなので、むしろ思わぬ場面に遭遇できるかもしれません。

©2018 ETSU MORIYAMA
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親の七光りでボスになる
「人っぽさ」もおもしろさ

©2018 ETSU MORIYAMA

また、家系といえばボスザルの話。ボスザルって、オーラもあって絶対的存在かのように思われがちですが、実は「ある程度の輪を保つための存在」、言うなれば「町内会長」くらいの立場なんだとか。

オス同士がケンカをしてボスを決めることもほぼなく、基本的に「強い家系」というのがあり、その家系のオスが代々ボスになっていくんだそうです。親の七光りによる出世。これもどこかで聞いたことのあるような話ですね。

©2018 ETSU MORIYAMA

野猿公苑でサルたちを観察していると、私たちとは違う生き物であることを認識しつつも、やはりどことなくあちこちに「人っぽさ」を感じるものです。おもしろくて時間があっという間に過ぎていきますので、是非、時間に余裕を持って来ることをオススメします。

知ったつもりの日本人より
外国人の方がよく見えること

©2018 ETSU MORIYAMA

かつて日本では、サルは馬の守り神と考えられていて、馬小屋などにはサルにまつわる骨や絵を置いたりしていたのだそうです。有名な、栃木県日光東照宮の三猿(見ざる・言わざる・聞かざる)も、神様に使える馬を置いておく場所(=神厩舎)の装飾です。

昔は侍にとっても農民にとっても馬というのは非常に大事な生き物。サルはその守り神だったという歴史もあって、日本人にとっては身近な存在に感じるのかもしれません。でもその感覚が逆に足を引っ張ってか、知った気になった日本人はサルをちゃんと見ようとしないことも多いとか。

©2018 ETSU MORIYAMA

一方の、外国人観光客。ニホンザルは世界で一番北に生息するサルで、北アメリカやヨーロッパにはいないので、彼らにとってはいわばとても珍しい動物。実は地獄谷野猿公苑に来る観光客も、ゴールデンウィーク以外は外国人の割合の方が多いそう。もちろん彼らの大半は「スノーモンキー」の存在を知ってここを訪れるのですが、たとえ温泉に浸かったサルが見られなくても、その時に見られる風景を思い思いに楽しんでいくんだそう(実際、滞在時間の平均も外国人の皆さんの方が長いそうです)。

©2018 ETSU MORIYAMA

地獄谷野猿公苑は年間を通して野生のサルを観察できる場所。頭に雪を積もらせて温泉に浸かる姿を見られるのは確かに冬だけなのですが、春夏は緑、秋の山では紅葉も同時に楽しめます。本来そういった四季を感じる力は日本人が得意としていたものですが、ここではむしろ外国人観光客の方が上。「スノーモンキー」という言葉が一人歩きしてしまい、野猿公苑での楽しみ方を狭めてしまっているのは、私たち日本人のほうなのかもしれません。

ルールを守れば
サルと人はイイ感じ

©2018 ETSU MORIYAMA

野猿公苑に行ったら、サルたちとの距離感にも驚くと思います(本当に近い)。近年、里に降りて来たサルが人のことを襲った、なんて不穏なニュースもよく耳にしますが、どうしてこんなに至近距離で観察しても平気なくらい、ここのサルたちが穏やかなのか、それは、ルールを守っているからです。

 

「食べ物を絶対に見せないこと。あげないこと」

「彼らに必要以上に接近したり、触ったり、驚かせたりしないこと」

 

ここのサルたちが特別穏やかなわけではなくて、スタッフの皆さんの尽力の元、訪れる人たちみんなでこのルールを守っているから、こうして共存が上手くいっており、お互いにいい距離感でいられるのです。

装備を揃えて
いざ、サル天国へ!

©2018 ETSU MORIYAMA

渋温泉から地獄谷野猿公苑へのルートは主に2つ。ひとつ目は渋温泉から路線バスに乗って5分ほど行き、降りたバス停から比較的なだらかな山道を40分ほど(身長155センチの30代女性の足で)歩くルート。

 

もうひとつは渋温泉から車(タクシーも便利)で10分ほどの駐車場まで行き、そこから傾斜のきつい山道を20分ほど進むルート。

©2018 ETSU MORIYAMA

ただしこちらは冬期の閉鎖ルート。雨などでぬかるんでいるなどコンディションがよくない時も、あまりおすすめしません。山奥なので、年間を通してそれなりの装備(山登り仕様)で来る必要がありますが、冬に来る場合は一番覚悟が必要。冬は、険しい雪の山道を進むことになるからです。とまぁ、いずれにせよなかなか大変な道のりですが、がんばって行ってみたら、「温泉に浸かるサル」この光景以上の楽しいものに、きっと出会えるはずです。

©2018 ETSU MORIYAMA

ちなみに、実際のサルたちを触ることはできませんが、資料館にサルの毛皮がありますので、是非とも最後に撫でてみてください。フッカフカ!

©2018 ETSU MORIYAMA

地獄谷野猿公苑

住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏6845
TEL:0269-33-4379
営業時間:夏季8:30頃〜17:00頃(4〜10月頃)/冬季9:00頃〜16:00頃(11〜3月頃)
休苑日:なし
入苑料:大人800円(18歳以上)/子ども400円(小学生〜高校生)
公式ホームページ:http://jigokudani-yaenkoen.co.jp/
公式SNS:facebook, Instagram

※夏季、冬季の期間、および営業時間は概ねの目安です。野猿公苑のニホンザルは野生動物です。天候、季節、ニホンザルの行動等により予告なく変動することもあります(特に秋はサルの行動が活発で不規則になりがちです)。

Top image: © 2018 ETSU MORIYAMA
取材協力:渋温泉旅館組合
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