ビフカツとお母さんに惚れこんだ、神戸の老舗洋食店「もん」
「遠くからお客さんが来てくれたときは、いつもこのお店」
久しぶりに訪れた兵庫の神戸で、学生時代の先輩がそう言って案内してくれた老舗洋食店が忘れられません。
三宮・生田ロードにある「欧風料理 もん」。昭和11年創業の老舗洋食店で、地元の人たちがちょっと贅沢して洋食を食べたいときに、まず思い浮かべるお店なんだそう。
神戸家具の雰囲気も料理も好きなんだけど、迎え入れてくれるヒサ子さんの人あしらいが楽しいんです。80歳だそうですが、頭の回転も身のこなしも、到底そうとは思えないほどハキハキ! テキパキ!
「なにがおいしいって? そんな野暮な質問しないの」
「えっ、はい。すいません」
「どういうの食べたいの。オムライスは大きくて他のが食べれなくなるから半分こしたらいいと思うよ。クリームコロッケやめてビフテキひとつでいいんじゃない?」
「あ、じゃあそれで(笑)」
つまらないことを言うとすかさず指摘されますが、そのやりとりも名物のひとつ。お腹の空き具合や好みを聞いたうえで、最適な料理を提案してくれます。
「ビフカツ」に「ビフテキ」
ミディアムレアの神戸牛に歓喜
やっぱり、神戸牛を使ったお肉料理は食べておきたい。
名物を聞いたところ「昔の人は何でも頭に “名物” ってつけたのよ。だから80年間これが一番ってものはないんだけど、最近はビフカツが人気だねぇ」。すかさずオーダー!
神戸牛のヒレ肉を自家製のパン粉で包んで、サックリ揚げたビフカツ。なかはミディアムレアで、ジュワッと旨味が溢れてきます。本当にカツ? って思うくらいジューシーで、2週間煮込んだデミグラスソースと一緒に、噛めば噛むほど唸ってしまいます。
「社会人になって、ひとりでこのビフテキを食べにきたとき、大人になったなぁって実感したんだよね」
そう言って先輩が嬉しそうにナイフを入れた、神戸牛のビーフステーキ。誕生日や受験の合格など、お祝い事があるときには家族全員でこのお店に来ていたのだそう。
スルッと切れたミディアムレアの神戸牛が、口のなかで本当にとろけて思わず開眼。ワインのきいたソースとナポリタンも、また贅沢な組み合わせ。確かに、大人っていいなぁと思える味わいです。
メニューも味も店内も
貫いてきたのは「変わらないこと」
店内には、昔使われていた様々なお店の看板が並んでいます。店主さんの趣味だそうで、長い年月をかけて収集したものだと教えてくれました。
阪神淡路大震災でお店が全壊してしまい、使えるものが減ってしまったそうですが、お店の雰囲気をそのままにつくり直したいという思いから、残ったものを一つひとつ丁寧に手入れして飾り直したそうです。
メニューやマッチのデザインも特徴的で、SNSやブログにアップされていることもしばしば。これは、神戸の版画家・川西英さんによるもの。川西さんは神戸の風景を描いた作品が有名で、昭和の神戸を知っている人なら必ず目にしたことがあるはず。
「欧風料理 もん」は、創業以来40種類の全ての料理の味をずっと変えずに守り続けることを大事にしてきました。たくさんの看板やメニューのデザインからも、古き良き神戸を守っていこうという想いが感じられます。
スパイシーなおもてなしこそ
愛情たっぷりな証拠
かいがいしく働き、ズバズバ切り込んでくれるヒサ子さんは、客席に笑いをつくり、美味しいご飯まで食べさせる名手。
「ヒサ子さんが勧めてくれた料理、全部とっても美味しかったです〜」と声をかけると、「ふふふ、それは良かった。ありがとうございます」。とチャーミングな笑顔でお見送りしてくれました。
最後にもう一度、グッと胸を掴まれてしまったのでした。
「欧風料理 もん」
住所:兵庫県神戸市中央区北長狭通 2-12-12
営業時間:11:00~21:00(L.O)
定休日:第3月曜日
TEL:078-331-0372