新興メキシカン隆盛の今、知るべきは「派手さのない」伝統の味@広尾

新興メキシカン隆盛の今、知るべきは「派手さのない」伝統の味@広尾

いま、知っておくべきメキシコの本流に出会える店。それが広尾「サルシータ」だ。

アメリカ経由のメキシカン“テクスメクス”に加え、トルティーヤに野菜の色素を混ぜるクラフト系タコスや、自由度の高いトッピングを売りにする新興メキシカンが、近ごろ急増の一途。これまで僕らがイメージしていたメキシコ料理における三原色(赤、緑、黄色)は、より鮮やかで複雑なものになりつつある。

が、サルシータはどうだろう。ご覧のとおりの中間色。

もちろん色味鮮やかな料理もある。けれどオススメしたいのは、東京で本場のメキシコ料理を黎明期から支えてきた専門店ならではの、この色と味。

よく知るメキシコ料理とは
到底思えない、色と味

©2019 HIROMU INOUE

「鶏のピピアンベルデ」1700円(税込)

じっくり煮込まれた骨つきチキンを覆い尽くす若草色のソース。メキシコを代表するソウルフード「ピピアンベルデ」は、このソースがとにかく美味。

ワカモレよりツートーンは暗い色味の正体は、かぼちゃの種をベースに唐辛子と緑色のトマトを加えて煮込んだもの。ただし、唐辛子といっても舌を刺激する強烈な辛さはない。凪いだ海のようにどこまでも穏やか。

それでも、土っぽくひなびた甘さをかぼちゃの種から感じ、マイルドなのに唐辛子の香りだけはきちんと主張する。そこにグリーントマトの鮮度が重なる。三位一体となったソースは、カレールーのように複雑さを味にもたらしている。

すっとナイフが通るほどホロホロに煮込まれた鶏肉をほぐしながら、バターライスとからめて食すのが正解。野暮ったさは色だけ。存在感あるチキンの味わいを受け止めるグリーンソースの包容力にただ唸るばかり。

素朴なコーンの甘さを知る
メキシコ風ちまき

©2019 HIROMU INOUE

「豚肉のタマレス」1個500円(税込)

ビールとともに楽しみたいモソモソの食感がこちら。

バナナの葉に包まれて登場する「タマレス」は、一見すればちまきのよう。粗めに挽いたトウモロコシにラードが練りこまれている。だからだろう。蒸したての素朴な甘さは、トルティーヤに感じるそれとはひと味違う。

唐辛子とスパイスで煮込んだ内側の豚肉が、塩味を担保する。サルサやスパイスのアクセントこそないものの、口の中で素材の旨みを見つけだし、噛みしめるごとそれを重ね合せるのがじつに楽しい一品だ。

©2019 HIROMU INOUE
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メキシコ特産蒸留酒メスカルをロックで、ライムを軽く搾ってもらう。メスカルもテキーラも何しろ種類が豊富だから、迷うようならテーマごとにセレクトされた3種のテイスティングセットをチョイスすると間違いない。

二杯、三杯と飲みすすむうち、快活なラテンのBGMにこちらのナイフとフォークの動く手も知らずとテンポが上がってくる。

基本に忠実につくれば
温もりある料理になる

今日のメキシコ料理の盛り上がりをオーナーシェフ森山 光司氏は、イタリア料理がブームに沸いた頃と状況がよく似ていると分析する。

「トルティーヤと同じように手打ちパスタにいろいろ混ぜて見栄えだけ良くしようという時期がありました。でも、パスタは小麦粉と卵の香りを味わってこそ。本来の味がわからなくなっては本末転倒ですから」。

本物の素材を使って、本物の調理法で、基本に忠実につくる。恵比寿と広尾で20年、メキシコ料理の第一人者は「そのうち熱も冷めるでしょう」と冷静に時勢を読む。

テクスメクスや新興メキシカンが悪いわけじゃない。そのルーツを遡っていくと、素朴なメキシコの天然色にたどり着く。本場の味を守り続けることが使命と語る森山氏。派手さのないメキシコ庶民の味は、その裏付けのひとつではないだろうか。

©2019 HIROMU INOUE
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「サルシータ」

TEL:03-3280-1145
営業時間:11:45〜14:15(LO.13:45)、17:30〜23:00(L.O.22:00) 
定休日:月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
HP:http://salsita-tokyo.com/

Top image: © 2019 HIROMU INOUE
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