長崎の「雲仙温泉」でそぞろ旅したら、チェコとか中国まで繋がった話
旅行に行ったとき、どんな基準で立ち寄り先やお土産を決めればいいか。
これって本当に難しいテーマですよね。「外したくない!」と思えば思うほど外してしまう、禅問答のようなものです。
今回は「ひとまずノープランで雲仙温泉の名物と言われる湯せんぺい屋さんに行ったら、どんどん盛り上がって、街の歴史や楽しみ方が見えてきた」というお話。
やっぱり点と点で楽しむんじゃなくて、線や面でその街にダイブすることが最初のテーマを解決するカギなんじゃないかなって思うんです。
手焼きの「湯せんぺい」を食べながら
ハイカラな雲仙を知る
「雲仙湯せんぺい 遠江屋本舗」
雲仙地獄の入り口向かいにある「雲仙湯せんぺい 遠江屋本舗」。今では、このエリアで唯一 “手焼き” を継承するお店だそうです。
遠江屋本舗にはプレスで焼く “機械焼き” もあるので食べくらべができるんですが、食感も風味もまったくの別モノ。
「湯せんぺい自体は、もともと島原城のお殿様に献上するお菓子として考案されたそうです。原料には地元の温泉が入っています。小麦粉と卵と砂糖と、温泉。食塩泉(塩化ナトリウム泉)なので塩気が隠し味にもなりますし、胃腸にもいいと言われてます」
そもそもあまり耳なじみのなかった「湯せんぺい」について教えてくれたのは、5代目の加藤さん。
ところで加藤さん、BEIではなく、PEIなんですね。YUSEMPEI。
「長崎の訛りと言われてますが、中国のお菓子で月餅(げっぺい)ってあるじゃないですか? そういう中華街からの訛りなのかな、と僕は思ってます」
食感はサクッとしていて、ほんのり甘いけど甘すぎない。実家のこたつにあったらエンドレスに食べちゃうやつです。
「歯ざわりを変えるのは、水加減と焼き加減。うちの手焼きは一枚ずつ型に挟んで焼くんですが、明治の頃から変わらないやり方です。周りには創業100年以上のところもありますが、じつは歴史でいうとうちは65年くらいなので後発なんですよ。ただ機械化にシフトしていくところが多いなかで手焼きをしているのが注目してもらえる理由なのかなと」
しつこいようですが、本当に手焼きのほうがおいしいんです。目隠しして食べても分かるレベルです、加藤さん!
「ありがとうございます(笑)。手焼きのほうが繊細な調整ができますからね。とても弱い火力でじっくり焼くんですよ。その日の気温や湿度はもちろん、型によってもクセが違うので、その辺りを見極めながら焼きます。手焼きのほうが食感も軽いし、おじいちゃんおばあちゃんとか、子どもにも喜ばれますね」
店内をウロウロしていて目についたのは、かつて上海から船でやってくる外国人向けに作られた、雲仙の観光パンフレット。デザインがとてもカワイイ。
小浜町や雲仙岳との位置関係が一瞬で理解できる鳥瞰図は、吉田初三郎が描いたものだそうです。ドローンもヘリコプターもない時代に、恐るべき分かりやすさ。
で、これが湯せんぺいのパッケージデザインにも活かされているんです。
「明治の初期〜中期頃は、年間3万人くらいの外国人が温泉保養地として来ていたそうです。外貨を獲得するための国策でもあったんですね。当時のホテルの仲居さんたちは4〜5ヶ国語を話せた、なんていう逸話もあります」
なるほど、元祖インバウンドだったわけですね。
「当時の雲仙の写真を見てると、本当におもしろいですよ。外国の方がバスケットを持って今風のピクニックやトレッキングをしていたり、ホテルのベッド数が足りないからとキャンプ場を作って、そこにシェフを呼んで豪華な食事をしていたり。『天幕ホテル』なんて言われていて、ダンスパーティもしていたり。今まさに日本で盛り上がってるグランピングやフェスみたいなことは、100年以上前からすでに雲仙でやってたんですよね」
伝統的な手焼きの文化を守りながらも、遠江屋本舗では湯せんぺいをアレンジしたゴーフレットやチョコバー、グラノーラも販売しています。このあたりは、ハイカラな街「雲仙」らしさ。
ちなみに5代目の加藤さんは、言ってしまえば超がつくほどの「湯せんぺいマニア」。
旅好きが高じて日本各地のせんべいを巡るだけにとどまらず、カルロビ・バリというチェコの有名な温泉地まで行って、世界の湯せんぺいを追求したり。
「ドイツのお客さんがうちの店に来たとき『これと似たようなお菓子、チェコでも見たよ』って言われて(笑)。これはチェックしないわけにはいかないだろうと。スパワッフルとかゴーフルとか呼び名は違えど、やっぱり世界各地にあるんですよね、温泉を使った炭酸せんべいのようなお菓子って」
写真は、カルロビ・バリでゲットした温泉を飲む専用のコップ。取っ手の上の部分から温泉が飲める仕組みで、なかなか愛らしい。
そういえば、かつては「温泉=うんぜん」と読んでいたことも街の呼び名の由来だそうです。つまり「雲仙温泉」はダブルでONSEN×ONSENっていう意味でもあるんですね。
伝統的な手焼き湯せんぺいの話を聞きにいったら、温泉とお菓子を巡るグローバルな話にまで広がった、というオチ。
楽しかったな〜。
「雲仙湯せんぺい 遠江屋本舗(とおとうみや・ほんぽ)」
住所:長崎県雲仙市小浜町雲仙317
TEL:0957-73-2155
営業時間:8:30~22:00
定休日:不定休
公式HP:https://tohtoumiya.theshop.jp/
仁田峠ロープウェイで
雲仙温泉街の全貌を見る
「雲仙 仁田峠」
湯せんぺいのパッケージにもなっていた鳥瞰図を見たら、もう少し雲仙温泉街の全容が知りたくなってきたので、絶景ついでに仁田峠の雲仙ロープウェイへ。
仁田道路では、環境保全協力金として100円を寄付。このあと待ち受けている絶景を思えば安いものです。
ちなみにこの道路、一方通行なのでご注意を。途中、ダンプカーとのすれ違いで半泣きになる心配はなし。帰りは峠の反対側に降りていくイメージです。
道中にある展望台で天草諸島や有明海を眺めつつ、山側には雲仙普賢岳の噴火の痕や、形成されつつある平成新山を見ることもできます。月並みですが「日本じゃない」みたいな圧巻のビュー。
そして見えてきました、雲仙ロープウェイ。
山頂まで登ると標高は約1300mにもなり、長崎県で一番高い展望所だそうです。条件が良ければ、阿蘇、霧島、桜島まで見れます。
でも今回の目当ては、雲仙の景色! 山あいに佇む「雲仙温泉街」と、エメラルドグリーンに光る「おしどりの池」が綺麗です。
海までの距離感。ギュッと詰まった温泉街。左下にはゴルフ場。
なるほど、雲仙温泉街ってこんな感じなのね! と全貌を理解したところで、先ほど湯せんぺい屋さんで聞いた話を思い出していました。
保養地であり、避暑地であり、ハイカラな遊びがたくさんあった雲仙。
それが昭和に入って第二次世界大戦が始まると、ゴルフコースですら畑にしないといけない時代があった、なんていうエピソードも忘れてはいけないなぁと。
雲仙を知るなら、高所恐怖症の人にだってオススメしたい「仁田峠のロープウェイ」。
ぜひドライブで。
「国立公園 雲仙ロープウェイ」
住所:長崎県雲仙市小浜町雲仙551
TEL:0957-73-3572
運行時間:4分〜8分ごとの運行
夏季(4/1〜10/31)8:31〜17:23(上り最終17:03)
冬季(11/1〜3/31)8:31〜17:11(上り最終16:51)
※荒天時は運休もあり
料金:往復大人 1,260円、往復小人630円
公式HP:http://unzen-ropeway.com/
熊本からフェリーで
「ゴリラ山」を目指すのもいい
「有明フェリー 熊本〜長崎」
雲仙温泉はとても素敵な街ですが、そもそも「そこまでどうやって行くのか問題」があります。仁田峠からの景色を見ても分かる通り、サクッと辿り着けるような場所ではありません。
長崎空港からレンタカーで行くか、公共のバスや電車に乗って行くか、という感じだと思いますが、今回取材で使ってみた熊本の長洲(ながす)から長崎の多比良(たいら)まで行ける「有明フェリー」がとても快適だったので紹介したいと思います。
ちなみに雲仙岳は通称「ゴリラ山」と呼ばれていて(横たわったゴリラに見えるからとのこと。写真の左側が顔。真ん中あたりがドラミングする大胸筋……見えました??)、個人的にはもうちょっとベンプレのフォームを修正してバストアップさせたいところですが、フェリーからはそんな景色も楽しめます。
待ってろ、ゴリラ!
乗っている時間は約45分なので、船酔いしない人の感覚なら “あっという間” 。
一番上のデッキでカモメに餌やりをして「キャー!ヤバーイ!」とはしゃいでるうちに着きます。移動とエンタメが同時にできるのはフェリー移動の魅力のひとつ。ぜひカモメパン片手にナショジオにも送れそうな写真を収めてみてください。
このあたり島原半島は、かつて国内でも一番早くから大陸の稲作や仏教が伝わってきた場所とも言われています。中国からやってきた人たちが「ゴリラが寝てるー!」と言ったかどうかは分かりませんが、そんな歴史にも思いを馳せながら、徐々に近づいてくる雲仙岳を楽しんでみてください。
地元の人にとっては「大牟田のイオン行くからフェリーで」っていうくらい生活の足なので、車両の積み込みもさほど待ち時間なし。乗船までサクサク進みます。
多比良港から雲仙温泉街までは、さらにクルマで30分ほどです。フェリーにかかる費用は、大人1名440円、車両は長さによって1540円から。
「有明フェリー 長崎〜熊本間」
多比良港ターミナル
住所:長崎県雲仙市国見町土黒甲2-28
TEL:0957-78-2100長洲港ターミナル
住所:熊本県玉名郡長洲町長洲2168-25
TEL:0968-78-0131