池袋に誕生した「新興のチャイナタウン」に「新華僑」が集った理由②

新宿、渋谷と並ぶ東京の三大副都心の一角「池袋」。JR、地下鉄、私鉄と、多くの路線が乗り入れる池袋駅の北口エリアに、横浜や神戸の中華街とは歴史も背景も異なる新興の中国人コミュニティが存在します。通称「池袋チャイナタウン」。その名付け親であり、「立正大学」で移民に関する研究をおこなっている山下清海教授に、池袋チャイナタウンの歴史と誕生の背景などをお聞きしました。

中国の歴史と政治的背景から
生まれた新興のチャイナタウン

©2019 TABI LABO

──池袋駅の北口エリアに中国関連のお店ができはじめたのはいつ頃でしょうか?

 

私が池袋の中国人コミュニティに「池袋チャイナタウン」と名付けたのは2003年で、その頃にはすでに中国関連のお店が増えはじめていました。

もともと池袋駅の北口周辺は歓楽街として有名で、東京出身の若い学生たちに北口エリアのイメージを聞くと「親から“危ない場所だからいくな”といわれた」という答えが返ってくるような場所でした。

90年代前半にバブルが弾けて以降、次第に空き店舗も目立つようになりました。

最初のうちは外国人経営者の店舗の入居を断っていたビルのオーナーも多かったのですが、空き物件のままにしておくこともできず、徐々に中国人をはじめとした外国人にテナントとして開放するようになったようです」

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──横浜や神戸、長崎など、日本にはすでに歴史のある有名な中国人コミュニティ(中華街/チャイナタウン)が存在していましたが、中国人が池袋に集まるようになった理由は?

 

中国が1978年「改革開放」(※1)路線に進む以前から日本にいた老華僑たちは、主に台湾出身者広東出身者などで構成されていました。

それに対し、80年代以降に日本にやってきた新華僑は、東北人福建人などが中心です。

じつは新華僑の人たちは池袋だけでなく横浜の中華街などにもやってきてはいるのですが、老華僑と新華僑の間で軋轢が生まれたりもしているんですよ。

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──しがらみのない新天地を探して池袋にたどり着いた……と?

 

中国本土で社会的に成功をおさめるためには、共産党や各界の有力者との強いコネクションが重要です。中国の方が華僑として日本をはじめとする海外にわたって事業を起こすのは、中国人本来のエネルギッシュさも原動力のひとつですが、一発逆転を狙ってのことなのです。

池袋は駅から近いところに老朽化した家賃の安いアパートが多かったこともあって、次第に若い中国人が集まるようになり、自然とコミュニティが形成されていったようです。

北米オーストラリアなどでは、裕福な新華僑は、日本でいうところの横浜中華街や神戸のチャイナタウンに代表されるような歴史ある“オールドチャイナタウン”を経ずに郊外に“ニューチャイナタウン”を形成する傾向があり、池袋の事例はそれに近いかもしれません。

詳しい成り立ちについては、私が書いた『池袋チャイナタウン ~都内最大の新華僑街の実像に迫る〜』や『新・中華街 ~世界各地で<華人社会>は変貌する〜』という本がありますので、興味のある人は読んでみてください。

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──長い歴史をもつ中華街と新興の池袋チャイナタウンの違いは?

 

池袋駅北口には、中国の様々な地方から移住者が集まるため、中華料理店ひとつとっても、広東系から東北系、福建や四川、中国国内のイスラム教徒である回族のレストランなど、バリエーションがとても豊かです。

日本人でも楽しめるレストランがたくさんあって、女性はネットで検索して友だちと一緒に本格的な中国人向けの料理を食べにくることも多いんですが、男性はかつての北口のイメージがあるのか、なかなか訪れてくれないようです(笑)

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──たしかに、レストランの取材中も日本人女性のグループはたくさん見かけましたが、男性のお客さんは少なかったように思います。

 

池袋チャイナタウンの経営者も女性のほうがエネルギッシュかもしれません。

離婚して子どもを抱えた中国人女性が再出発するために日本にやってきて、今ではレストランを何店舗も経営しているケースもありますし、在日中国人向けの自動車学校を開業した女性もいます。

法輪功のおばあさん(『池袋「北口エリア」の「中国人コミュニティ」を歩く①』)も弾圧を逃れて日本にやってきて活動をしていますし、中国人女性のたくましさを実感します。

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──池袋チャイナタウンには、在日中国人だけでなく、日本に観光にきた中国の方も足を運んでいる印象でした。

 

北口エリアに新しくできた『ドン・キホーテ』は、訪日中国人のインバウンド消費で人気ですし、旅行で東京を訪れた際に池袋に立ち寄る中国人も多いようです。

中国人が旅行やビジネスで日本を訪れて日本人と触れ合うようになってから、中国本土での対日感情も改善しているように思います。

いわば、この場所は巨大な隣人である中国の縮尺版でもあり、草の根外交の現場といえるのかもしれません。

※1/経済の活性化や技術の発展・発達に向けた国家を挙げた政策や戦略。

Top image: © 2019 TABI LABO

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