あなたは心の声に耳を傾けていますか?衝動の先にあった、ニュージーランドでの生活。―四角大輔

四角大輔/Daisuke Yosumi

アーティストインキュベーター|執筆家

オルタナティブな生き方を求め、ニュージーランドの湖で水と食料を自給する森の生活者。大自然(NZ)と都市空間(TOKYO)を往来し、独自のクリエイティブ&オーガニック論を発信。アウトドア、NPO、アンバサダー、IT等の分野でも活動。『朝日新聞』、エコ誌『ソトコト』、登山誌『PEAKS』、アウトドア誌『Field Life』、復興支援誌『カガリビ』で連載。上智大非常勤講師を務め、多数の大学で「ライフスタイルデザイン」の講義を行う。オンラインサロン「Life is Art」主催。著書に「自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと」他。レコード会社プロデューサー時代に7度のミリオンヒットを記録。 公式HP:4dsk.co

001.
フライフィッシング―僕のライフスタイルをデザインする上で欠かせないもの

四角大輔

ニュージーランドの湖でフライフィッシングをする四角さん(Photo / Shotaro Kato)

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四角さんは現在、ニュージーランドに住んでいますが、それまでは日本でどんな生活を送ってきたんですか?

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まず、僕には人生のプライオリティがあります。

トップが、ライフスタイルを自分の手で自由にデザインすること。その次が、世の中をいい方向に変えることです。

そして、僕のライフスタイルの中心には、常に「フライフィッシング」がありました。自分で創作した毛針(餌に見せかけたもの)を使う釣りで、非常にマニアックな上に、とても難しくて、最もクリエイティブなスポーツで、僕のライフワークです。

学生時代、肉体労働などのアルバイトを頑張って30万円貯めて、ぼろぼろのワンボックスカーを購入しました。それを1ヶ月かけてキャンピングカーに改造して、あまり学校に行かず、日本中を駆け巡ってフライフィッシングばかりしていました(笑)。「アイランド・ホッピング」ならぬ、「レイク・ホッピング」と称して、湖から湖へと旅するんです。

社会人としては、15年間のレコード会社勤務の最初の2年間は営業でした。最初の配属先は、僕の希望で札幌。もちろん目的は釣り(笑)。北海道にはフライフィッシングができる場所がたくさんあって、特に、札幌近郊にある支笏湖に通いたかったんです。釧路や帯広も担当していて、出張時にも必ず釣り竿を持参しました(笑)。

その後、東京本社勤務でアシスタントプロデューサーとなりますが、本栖湖という関東近郊で一番きれいな湖に通いたくて、通勤と両立できる調布ICの近くに住みました。家から車で1時間ほどなので、3年ほど本栖湖に通いつめた後、次は芦ノ湖を極めたくて、そこまで1時間で行ける用賀IC近くに引っ越して…(笑)。

僕は、プロデューサーとしての実績があるから、仕事でのキャリアのことばかり取り上げられるんですけど、元々プロデューサーを目指していたわけじゃないんです。この話は長くなるので、ここでは割愛しますが…(このストーリーは著書に詳しく書かれています)。

実は、ぼくは常に「ライフスタイル」を最優先して生きてきたんです。「どうすれば健全な身体と心をキープできるか」、「理想のライフスタイルを構築できるか」を追求しているうちに、自然と仕事で成果が出るようになりました。

002.
インターネットを駆使して世界を移動しながら仕事をする、ノマドライフ

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ニュージーランドの原生林に囲まれた湖畔の自宅で仕事をする四角さん(Photo / Daisuke Yosumi)

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フライフィッシング中心のライフスタイルを本当に追求されてきたんですね。では、そこからニュージーランドへ移住された経緯について伺わせて下さい。

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僕は、カフェで仕事をするワークスタイルの、いわゆる「ノマドワーカー」とは違う、という点を先に伝えておきます。ぼくが営む「ノマドライフ」は、ワークスタイルではなく、あくまで「ライフスタイル」なのです。

ニュージーランドでの湖畔暮らしは、学生時代からの夢で、「どうやったら釣り場で暮らしながら、仕事をできるのだろう」とニュージーランドに移住するまでの15年間、とにかく考えつづけました。

そんな中、2007年に、iPhoneが登場し、ノートパソコンの性能も格段に向上。さらに、その前後にデジタルテクノロジーと、インターネットが一気に進化したことに衝撃を受けました。

2008年頃に、「よし、これなら実現できる!」と思って、仕事を辞めてフリーランスになる決意を固めたところ、すごいタイミングでニュージーランドの移民弁護士から「永住権を取得できそうだ」という連絡が入りました。結果、2009年12月に永住権がおり、翌月の2010年1月にニュージーランドへの移住を果たしました。

ニュージーランドは、世界で最もフライフィッシングが楽しめる国。15年間かけてニュージーランド中の湖畔の町を訪れて、人が住める湖を全部チェックしました。全部で50以上はあったんですけれど、その中で今住んでいる湖がだんとつベスト。原生林に囲まれた湖畔にあるこの家は本当に最高です。

ニュージーランドにはもう一つ、拠点を持っています。湖畔の自宅から車で1時間ほどの距離にある、ビーチまで30歩というロケーションのキャンプ場に停めてある中古で買ったキャンプトレーラーです。このトレーラーが、セカンドハウスかつセカンドオフィス(笑)。

さらに、東京にも拠点があるので、ニュージーランドの湖や海などの大自然に加え、東京を拠点に日本国内各地を移動しながら、インターネットを駆使して仕事をしています。常に旅しながら生活しているので、毎日が「非日常」になりますよね。感性と脳が猛烈な刺激を受けるので、すごくクリエイティブになれるんです。

つまり僕は、ライフスタイルを追求しつづけた結果、こういうワークスタイルに行き着いたんです。

003.
ファストな日本、スローなニュージーランド

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手前右が四角さんのセカンドハウス兼オフィスのキャンピングトレーラー。海辺に置きぱっなしという。(Photo /Daisuke Yosumi)

 

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ニュージーランドではどのような生活を送っているんですか?

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昔から自給自足の暮らしを夢見ていたこともあり、庭には無農薬の畑と果樹園があります。しかも周囲が森なので、果物やキノコ、ハーブなどいろんなものが自生していて。

湖では、サーモンのような大きなニジマスも釣れるし、近くの海では、多種多様な野生魚がたくさん釣れる上に、ビーチではハマグリも採れます。僕はフィッシュベジタリアンなので、食事のほとんどを自給できているんですよね。

しかも、飲料水は目の前の湖からポンプで汲み上げて使っているので、あと電力を自給できたら完全な「インディペンデント・ライフ」が完成します。電力の自給も準備を進めていて、4年以内には実現したいと思っています。

スローな生活が送れるニュージーランドに対して、日本は、大量生産・大量消費のアメリカ型の経済社会。ファストカルチャーが生まれたのは、長い人類の歴史を考えれば、つい最近のことです。

そのスピードに人生を狂わされたくなかった。だから、本来の人間らしいライフスタイルに戻りたいと想い、スローでナチュラルなニュージーランドを選びました。

004.
答えあわせは、あとからでいいじゃない

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四角さん の無農薬オーガニック菜園の一部(Photo / Daisuke Yosumi)

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ニュージーランドに移住することに対して周りから反対されなかったんですか?

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ほとんどの人から反対されました。

というか「そのキャリアも年収も捨てて、ど田舎の国に移住するなんて意味がわからない」という反応でした。日本社会で何かを始める時、その理由を理論的に説明できないと納得しない風潮がありますよね。

当時の僕は、「フライフィッシングをしたいからニュージーランドに行きます」って言っていた。みんなには、「おまえはアホか!」って言われ続けましたね(笑)。

でも自分の魂というか、心の真ん中の内側から「ぐわっ」と湧いてくる、言葉にできない「猛烈な衝動」を無視することができなかった。15年間かかりましたが、その衝動にふたをせず、火を消さず、素直に従っていたら実現できました。

その過程で、この国について徹底的に調べたり、実際に何度も行ったりするうちに、多くの知らなかった素晴らしい面を知ることになり、「移住の理由」はあとから説明できるようになった。「フライフィッシングという衝動」の話ではなく、情報を添えて具体的に理由を説明したら、「なるほど」ってみんな納得してくれるんですよ(笑)。

自分が向かうべき道や方向なんて、誰もわからない。最初から理論的に説明できることなんて本当はほとんどないはず。理由もなく「衝動」でそっちに引っ張られるもの。人間って、頭よりも感情の生き物だから。

抑えきれない衝動が湧いてきたら、まずそれを信じてみることが大切。頭で考えて行動すると、必ず後で「イメージと違った」と後悔することになります。けれど、「本物の衝動」で決めると後悔しない。答え合わせや説明は、あとからでいいんですよ。

005.
ノイズから逃れて、ひとり孤独になる

四角大輔

丸2日かけ12時間歩いてたどり着いたニュージーランドの秘境にて。登山雑誌ロケでの1枚(Photo / Shotaro Kato)

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どうすれば衝動に気づくことができるんでしょうか?

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孤独な時間を持つことです。日本人は、孤独というとネガティブなイメージがあると思うんです。でも「独りの時間」というのは、人間がもっとも自分と向き合える時間であり、もっともクリエイティブになれる瞬間です。

僕の場合それは、自然の中に一人で入っていくことです。一人で森の奥へ釣りに行ったり、深い山を歩いたり。

昔から一人になる時間が多かったんですよ。小学校の時にいじめられたり、友達が少なかったりして、団体行動が嫌いで大学生くらいまでは人と交わるのが苦手でした。

だから「世間」から逃げるように、自然に入っていった。自然の中にいると、自分の心が発する「小さな声」がよく聞こえたんですよね。

モノを買わせようするだけの広告や、愛のない他人の助言、周りの目などはすべて、自分の心の声をかき消してしまうノイズ。今はインターネットや様々なメディアが発達して、ノイズだらけになっています。

それらから一旦離れて「オフライン」になることが必要なんです。だから、ノイズのない環境の中で穏やかな時間が持てる、一人旅って、とてもいいんですよね。

006.
オープンな心で世界にアクセスし、また、アクセスされる

四角大輔

四角さんが愛してやまない湖畔の自宅からの景色(Photo / Daisuke Yosumi)

 

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どうすれば、世界とつながる感覚が得られるんでしょうか?

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僕は、英語ができてインターネットも駆使しまくって、南半球から北半球へ、北半球から南半球へと地球規模の移動をしているので、ある意味、世界とつながっていると言えるかもしれません。

でも、大事なのは形じゃない。物理的につながることじゃない。英語ができて世界中のWEBサイトにアクセスできても、本当の意味で世界とつながっているとは言えないし、飛行機で国から国へと旅しているからといって、世界とつながっているとも思いません。

大切なことは、自分を解放すること。

「自分の好きなものはこれです」とはっきり言葉にして、自分をさらけ出すこと。本音を言わなかったり、自分のやりたいことを表に出さない人に対して、心を開く気にならないじゃないですか。自分をオープンにしないと、周りの人たちがアクセスしてくれない。

つまり、クローズドな人が世界にアクセスしようとしても、「世界はその人にアクセスしない」んです。あとは、今いる場所の常識が、世界の常識だと思い込んでしまわないように、普段の常識が通用しない場所へ旅することも大切。

ノイズが多い今だからこそ、旅をする。それも一人で孤独に、でもフルオープンな心で。そうすれば、本当の意味で自分を解放出来て、その時に初めて世界とつながることができるんです。

 

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。