気がついたら愛用している「上質なモノ」の正体

財布に時計、シューズやカバン、衣類、家具からクルマにも。世の中にあるモノには、パッと見だけじゃない “こだわり” が込められていて、僕たちは当たり前のように長く愛用していたりする。

その答えになりそうなキーワードが「CMFデザイン」。これ……ご存じ?

頭のアルファベットは「COLOR(色)、 MATERIAL(素材) 、FINISHING(加工)」のそれぞれの頭文字からCMFと略した言葉。僕らが “つい選んでしまう” ものや ”なんとなく長く愛用している” ものには、こういったポイントをおさえたデザインが施されているそうだ。

「なんか気持ちいい」の正体は
CMFデザインにある!?

実際に自分の職にしている人に聞いてみよう。そう思って頼ったのは、自動車メーカー「ホンダ」のCMFデザイナー・冨田沙希さん。

彼女が携わるのは、クルマの内装・外装、目に触れるところのすべての色や素材、仕上げを決めて、コーディネート・デザインする仕事。内装部品一つひとつの色や艶、手触りなども決めていくそうだ。

冨田さんがCMFデザイナーの職を志すのは時代の流れもあったそうだ。

「大学で学んでいたときがちょうど、プロダクトデザインは形に加え、色や素材すべての構成が重要とされてきた頃だったのもあります。もともと、ユーザーへ向けてどのようにアイテムを見せていくのか色とか素材から発想するのが好きで、クルマのデザインにもそういったアプローチができるCMFデザイナーってものがあると知り、この業界を目指したんです」

そんな彼女が実際にCMFデザイナーとして働くなかで、とくにその重要性に気づいたきっかけなどはあるのだろうか?

「アメリカ・ユタ州の砂漠の中にあるホテル『アマンギリ』を訪れたとき雄大な大地と建築空間が調和していることに感銘を受けたんです。建築やその空間に置かれる物の色や素材のコーディネートが一体になって、外の景色につながり溶け込んでいく、豊かで心地よい調和。そこで感じた調和をヒントに車のCMFのコーディネートへ置き換える。それをつくるには、ひとつひとつの構成する色と素材を磨きあげ、細部まで追求することが必要と感じました。クルマのユーザーがドアを開けて乗り込んだときに、CMFの調和から、高揚感や豊かな気持ちになれる、そんな体験をCMFデザインでつくりだすことが自分の仕事なのかな、と 」

豊かな調和が生み出す、言葉にできない感動……どうやらCMFデザインというものは、“○+□=△” という公式があるわけではなく、なかなか奥が深い世界のようだ。

触れてこそ分かる
「上質」な世界

正直まだピンときていない様子のこちらを見かねたのか、冨田さんは自分のお気に入りアイテムでもう少し詳しく説明してくれる。

手にしたのは、「バング&オルフセン」のワイヤレスイヤホン

「普段愛用しているイヤホンですが、プロダクトとしての機能はもちろん、細部まで手の込んだ見た目に惹かれたんですよね。マットのブラックの中に金属が施され細部の処理にもこだわりを感じ、シンプルでありながら洗練されたCMFデザインが、上質でいいものだという気持ちにさせてくれます。こういうプロダクトはCMFデザインの参考になります」

たしかに、イヤホンを渡してもらい眺めてみると、最先端のテクスチャーや奇抜……というほどの造形でもない。でも、色調や首にかけたときのバランスのよさは、有名ブランドだからってことにはない、モノの上質さを感じさせてくれる。

では、実際にCMFデザインはプロダクトにどのように活かされているんだろう。

ここで、冨田さんと同じ「ホンダ」のデザイナー・佐藤友哉さんにも一緒に話を伺うことに。

佐藤さんは、インテリアデザイナーとして自動車の内装デザインを担当。インテリアデザインでは、室内全体の目に見えるすべての造形や素材の構成を考えスタイリングを行っている。

デザインの仕事をする上で参考にしたり、大事にしているアイテムを教えてもらうと、デザイナーらしい感度も見えてくる。

「オーラリーのTシャツです。シンプルなアイテムなんですが、素材の光沢や質感、丈が絶妙に今っぽいサイズ感だったり、袖の折り返しが深くなるなど細部にこだわりがあって、大人っぽいなと感じます。一見なんでもないTシャツなのに、着てみるとめちゃくちゃ気持ちがよくて、触れてこそわかる上質さというのにも惹かれます。また、これを着たことで別のTシャツのこれまで当たり前に感じていたものにあった違和感を感じられるようになる点も、デザインとして秀逸だなと思います」

日常からそういった気づきもあってか、素材の魅力を引き出すため、形状の細部に至るまで考え抜いてデザインをしているという佐藤さん。

仕事を進める上で、求める素材がCMFデザイナーと食い違うこともあるそうだ。そういった場合、造形をどう見せたいのか意見交換しながら、自分たちが考えたキーワードに対して想定される色合いや素材の提案をしてもらうなど、互いの意見をミックスさせる作業を経ていくという。

このときに大事なのは、”ブレないゴール” だと佐藤さんは話す。

「デザインする前に、テーマというか、どんな乗車体験をユーザーにしてもらいたいかの世界観を設定するんです。それがしっかりできあがると、ブレないゴールが完成して互いに納得できるクルマになっていくんですよね」

このようなプロセスを経て、実際にどのようなモノが生まれたのか。ふたりが手掛けたクルマから具体的な話を聞いてみよう。

新型アコードは
なぜ「New Age」なのか

冨田さん、佐藤さんが同じ開発メンバーとして携わったのが、10代目となるホンダの新型「アコード」。2017年10月にアメリカで発売が開始され、北米や中国を中心に世界中で愛されるモデルだ。

そんな新型「アコード」が『New Age, New ACCORD』というメッセージとともに、2020年2月から日本でも発売を開始。

New Age……直訳すると、「新しい年齢」となるが、生まれ変わって最初の年とか、新世代ってことなのか?

メッセージがどのようにこのクルマに込められたのかをおふたりに聞いてみることに。

まず、CMFデザインの目線で冨田さんが説明してくれる。

「今回のアコードを私たちがデザインする上で大切にしたのは、『若返るのではなく、大人になれる』こと。このテーマを佐藤くんが提案してくれた時にチーム全員がハッとさせられました。そして、開発メンバーがこの考えに共感し、新しさを追うのではなく、本質を見極められる大人のアコードをつくろうとゴールが明確になったんです。ドアを開けて乗り込んだ時に感じる高揚感。そしてハンドルを握り走りに夢中になれる臨場感、クルマを降りまた乗りたくなる美しい質感がもたらす余韻。それら一連の流れをデザインすることを求めていきました。CMFデザインでもその考えを踏まえ、シンプルなんだけど細部まで作りこまれた緻密な柄であったり、隣り合わせた色のバランスなど、それらがひとつになったときに豊かで心地よい調和を生むコーディネートを目指しました」

華美で印象的なクルマも悪くはない。だけど、乗り続けることで満腹感……というか飽きてしまう。そうならないためにこそのシンプルで長く使いたくなるクルマ、というわけか。

デザイナーの佐藤さんがこう続ける。

「カタログで見たときの『うわ、すごい!』っていうのは見栄えであって、一過性の驚きだと思うんです。使ってみて、乗ってみて、ずっと一緒にいたくなる使い心地の質感ってものを大事にしています。内装の木目の本物感や金属のリアルな姿はもちろん目指していますが、キラっとしたダイヤルも、 使ってみたときの感触がプラスチックでは感動が長続きしませんから」

なるほど、今回の新型「アコード」の空調をコントロールするダイヤルでいえば、タッチ感やフィーリングだけでなく、回すときの「カチカチカチ……」と響く音にこだわったり。

また、ドアノブも厚みを計算して気持ちいい手ごたえや開けたときの挙動に合わせた音を生み出すように仕上げたのが、それだという。

先行する北米や中国でも好評を得た内装の木目パネルなども、細部の部分は、本質を知る大人に響くようにするために、“本物らしさ”を追求し表現することを大切にしたそうだ。
美しく希少性の高いケヤキの杢を探しだし、生の木からそのまま柄をトレースするのではなく、あえてデザイナーが精密に手を加えて、木の持つ温かい雰囲気や重厚な色合いを表現。

細部のパーツの色や柄、フィーリングにこだわることで、彼らがこのクルマに丁寧にコーディネートしたのは、使うたびにその良さを感じられる手触り感だったり、操作したときに感じる本物感

どうして、そこまで拘ったのか。CMFデザイナー冨田さんは、ユーザーへの期待を込めて、このように語っていた。


「"大人になる"というのは、本質を見極められることだと思います。シンプルに研ぎ澄まし、細部までこだわり抜いたものは、若者に限らず、どの世代にも共感してもらえると思っています。私たちが想いを込めた『アコード』が、ユーザーの日常に新鮮な体験をもたらすとともに、新たな可能性を生み出す自信や充実感につながればいいなと思います」

冨田さん、佐藤さんをはじめ、ホンダがこのクルマに施したのは、自然と「大人」の感覚になれるから、またこれに乗りたい、これじゃないとダメ、と長く付き合いたくなるデザインなのかも。

感じて、見極めて、
大人になる。

このクルマには、普段はフォーカスしないような部分にある色と素材の調和であったり、何気なく使っているスイッチやシートの感触など、見えない上質な “デザイン” がさまざまに存在している。

「大人になる」とはそこを見極め、気づけるかどうかなのかも。いや、きっと気づかせてくれるのが新型「アコード」なのだろう

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