「好き」を極める生き方。ヨーグルト専門家・向井智香のヨーグルト1日1kg生活
誰にだって、どっぷりハマる趣味やモノがひとつくらいはあるもの。ただし、そこに日常のすべてを注ぎ、生活リズムすら変え、情熱を傾け続けられる人は……きっとひと握り。ゆえの「偏愛」、ゆえの「マニア」。
ここに紹介する向井智香さんは、自他ともに認めるヨーグルトマニア。おそらく日本人の誰よりもヨーグルトを食してきた人物だ。
他人から見ればアリエナイ、1日1kgのヨーグルト生活も彼女にしてみれば、“自分らしく、豊かに生きる”ためのアクション。「好き」を追求した先で手にした、向井さんの自分らしい生き方、注目です。
カップヨーグルト研究会。「全国ヨーグルトサミット」公式アンバサダー。毎日1kgのヨーグルトを食す筋金入りのヨーグルトマニア。日本中のヨーグルトを食べてはInstagramに記録する。メディア出演のほか、講演会、ワークショップなど精力的に活動。@yogurt_freak
ヨーグルト歴11年、ときめきが止まらない
──単刀直入に伺いますが、ヨーグルトにどハマりしたキッカケはなんだったんですか?
もともと実家では、ヨーグルトが冷蔵庫でつねにストックされていたんです。スーパーでも買えるような一般的なもの。好きな時に食べてよくて。でも、子どもの頃はとくにヨーグルトへの執着はなかったかな。
──根っからのヨーグルト好き、というほどではなかったんだ。
乳製品は好きな方でしたけど。ヨーグルトがある日常も、今とは違ってごく平凡なものでした。母がわりと洋風の食生活を好んでいたので、朝はパンとヨーグルトが日常ではあったんですけどね。じつは、すっごく便秘体質で。それを母が気にしてヨーグルトをストックしてくれていたんだと思います。
──すると、どのタイミングで今のような“偏愛”が目覚めた?
2011年だったと記憶しています。森永乳業から「パルテノ」という製品が発売されたんですね。日本で初めてのギリシャヨーグルトなんですが、広告をみて気になって食べてみたら、今まで食べたヨーグルトとのあまりの違いに衝撃を受けました。この時ですね。ヨーグルトにもジャンルがあることに気づいたのは。そこから、もっと深くヨーグルトを知りたいと思うようになり、貪るように食べまくりました。
──「パルテノ」はそれまでのヨーグルトとどんな違いが?
はっ酵後に水切りされたタイプのヨーグルトなんです。仕上がったヨーグルトから水分が抜けた状態。だから、スプーンですくった段階からもう違う。「これ、クリームチーズ?」みたいな。見たことない質感、舌にねっとりまとわりつくような濃厚さ、完全にノックアウトされました。
──もともと「何かにどっぷりハマる」性格だったり?
どうかなー。趣味という趣味もないし、部活も長続きしなかったし。アルバイトは真面目だったから続いたのかな。こんなに熱中したのは、ヨーグルトだけですね。「パルテノ」の衝撃以降、ハマり倒しでここまできた感じ。だから、ヨーグルト歴は11年ですね。
──「ヨーグルト歴」って、表現がすでに偏愛してますね(笑)。 もし、ヨーグルトじゃなかったら、ここまで何かにハマってたことはないと。
多分。ときめきが持続しないかも。言葉で説明するの難しいんですが、もう恋愛みたいな領域に入っちゃってるんだと思う(笑)
──そこまで惹きつけるヨーグルトの魅力、オモシロさって?
ひとつはビジュアルです。同じようでいて、まったく違う色、ツヤ、てり。それを眺めるのがたまらなく幸せ。バリエーションがめちゃくちゃ広いというのもいい。味の広がりもありますしね。とにかく飽きません。
たとえばプレーンヨーグルトひとつとっても、バリエーションは多彩です。乳酸菌の種類、温度、はっ酵時間、すごいミクロな部分での分岐がめちゃくちゃ多いんです。そこを掘り下げていく楽しさが大きいかも。
──生乳の違いくらいだと思ってました。
それも関係しますが、菌は質感や香りに影響するので、ゴロゴロしたヨーグルトから滑らかなもの、糸引くようなもの、ミルクのコクを引き出すもの、酸っぱさが強調されるもの......菌をどう活かすかで、無限の組み合わせが生まれるんです。
──とくに好みのジャンルってあるんですか?
生乳の質も乳酸菌もいい「ご当地もの」のヨーグルトは、やっぱり外せない。でも、意外とジャンキーなものも好きだったりします。
──つまりは、ヨーグルトならオールOKと?
そうですね。アリです。ハマり始めたころは、やっぱりどこかに原理主義的な思考があって、香料やゼラチンが入っているものをあえて避けていた時期もありました。「プレーンヨーグルトこそすべて!」みたいな。それが次第に博愛主義に変わっていったというか、どれもヨーグルトの「個性」と思えるようになりました。
──そうして、徐々に食べる量も増え、気づけば1900種を超えるまでに。SNSを拝見していて、めちゃくちゃ詳細にご紹介されていますよね。
1日2種ずつ紹介しています。おもしろいのは、ご当地のヨーグルトを紹介すると、その県の方から「懐かしい」「思い出の味です」とかレスが来たり、自分では知り得ないような商品の背景をコメントしてくれたり。そういった情報が集まることが快感になり。もう完全に沼ですね(笑)
世の中になかったポジション
「ヨーグルト専門家」としての日々
──おそらく、日本人の誰よりもヨーグルトを食べ、ヨーグルト漬けの生活をされ、こうして大好きなヨーグルトで仕事もされている。9月の「ヨーグルトサミット」では、アンバサダーも務められている。
今年で3回目を迎えますが、初回から講演会やワークショップでかかわらせていただいています。工場見学に行く機会が増え、さらに深くヨーグルトとかかわるようになって、生産者さんたちの情熱に触れることができました。今年は岩手の酪農家さんとのつながりにフォーカスしたイベントを予定しています。
──まさに適任。というより、ほかに務まる人がいるとすれば、琴欧洲くらいじゃないですか。
今、「ヨーグルト専門家」と名乗らせていただいていますが、ここって世の中になかったポジションなんです。幸いこうしてお仕事もさせてもらっていますが、もちろん最初からうまく軌道に乗れたわけではなく、ウェブデザイナーの仕事とのデュアルワークなんです。
──寝るひま惜しんでのヨーグルト愛、ですね。
ヨーグルトの周知活動を、ちゃんと仕事として確立していきたい。だから、今はどうにか両立を、といったところですね。
──ゆえの、一日の始まりが朝4時のヨーグルト。さすがに早すぎません?
前の夜から食べたくて食べたくてガマンしてますからね、楽しみで仕方ないです。
──冷蔵庫のなかは、もちろんヨーグルトだらけなんでしょうね。
そうですね。野菜の居場所がほとんどなくて。だからなるべく常温でも大丈夫な根菜類とか、あとは乾物、缶詰とか。完全なヨーグルトシフトが出来上がっています。
──食生活のなかで、ヨーグルトはどんなポジションにあるんでしょう? 朝食にシリアルとヨーグルトとか、間食にとか。
毎食全部です。もう、ヨーグルトを食べることが完全にライフスタイルの主軸にあって。足りない栄養素を補うのが食事かな。
──いやいや、完全に逆ですから。
「カップヨーグルト研究会」だったり、ヨーグルト専門家として活動をするとき、どうしたってメディアのみなさんからはヘルシーなイメージを持たれます。「肌年齢は?」とか「腸年齢は?」とか。だから、なんとなく私が肌荒れしてたり、太ってしまうと、ヨーグルト自体のイメージをダウンさせてしまうんじゃないかっていう、強迫観念にとらわれることもあります。
──イメージが先行するあまり、そこは背負わざるを得ない十字架ということか。となると、サロンやネイルに行ったり美容にかけることも。
ほぼないですねー。そこに興味が向かないというか。ヨーグルト関連のグッズに費やす余裕はあるのに(笑)。とにかくヨーグルトが食べたいがため、外食も一切しないんですよ。
──全部自炊?それってコロナ禍もあってですよね?
いいえ、以前から。ヨーグルトのための摂生ですね。でも、全然平気。興味の大半はそこですし。
「ヨーグルト=健康」にばかり
捉われてはいけない
──どうしても聞いておきたいのが、カラダの変化。1日に1kgのヨーグルトを数年にわたって食べ続けるようになって、どんな影響が表れました?ぶっちゃけ、お腹の調子ってどうなんですか?
それが、意外と変わりないんですよね。便秘体質のままだし。じつは私も気になって、以前、お医者さんに診てもらったんです。案の定、菌のバランスがあまり良くないらしく、穀物とか野菜とか、もっとバランスよく食べなさいって、注意されました(笑)
──偏ってもよくない。って、そりゃそうだわ。
当初、自制が効かずに好き放題食べていたら、やっぱり太ってしまった。そこからですね、ちゃんと食生活に計算して取り入れるようになったのは。大好きなヨーグルトをたくさん食べるために、ほかの食事を見直すようになってからは、いい付き合ができていますね。
──1kgをキープするには管理がいるってことですね。ちなみに1kgという量はどこから導き出したもの?
決めないといくらでも食べてしまうから。「1kgまでならよし」っていう自分に制限を課したんです。
──何かほかのことで心身のメンテナンスをしていたり?
今食べられる量を拡張させるため、肉体改造の真っ最中なんです。ジムに通って筋トレして。多分、数年後にインタビューしていただいたら、「1日2kg」に増えているかも(笑)
──人間はどこまでヨーグルトを食べられるのか、限界に挑戦みたいな?
さすがにそこまでエクストリームを求めているわけじゃありません。でも、マサイ族は牛乳やヨーグルトだけで一日に3〜10kg近く食すといいますし。
いかにして自分のカラダとヨーグルトのいい関係を保つことができるか、そこにフォーカスして日々を過ごしています。だから、あんまりほかのものが食べられないことへの我慢とか、それこそ食事制限も今はありません。
──そもそも、ヨーグルトなしの生活は考えられない?
もう絶対ムリ。完全にないとダメなカラダになってますから。ヨーグルトをいかにおいしくたくさん食べられるか。そのために一日のスケジュールを組み、肉体改造をする。ライフスタイルがもう、ヨーグルトありきですね。
──ところで一般論として、これまでヨーグルトは「健康軸」で語られてきたと思うんです。ヘルシー、整腸作用、美容、乳酸菌×〇〇……。デザートとしてのレイヤーとも、またちょっと違うというか。
私もヨーグルトに対して、最初は「罪悪感のないスイーツ」というイメージがありました。食事とセットで食べても害がない。ただ、あまり効能に関してはそそられなかったかな。メンテナンスフードのような感覚が自分にはありますね。
効果効能をうたった製品でなくても、乳酸菌とお乳が入っているというだけで、自分としては心もカラダも豊かになれる。そこにプラスアルファの効能が付いてくるなら「ラッキー!」くらいかな。人ぞれぞれで選んでもらっていいんだと思います。
──では、もしシーンごとに選ぶとした、どういったタイプのヨーグルトをおすすめしますか?
朝はやっぱりエネルギーが欲しいので、なるべく糖質も入ったタイプを選ぶようにしています。たとえば、カネカ食品の「ピュアナチュール」。ベルギーの乳業メーカーと技術提携で生まれたヨーグルトなんですが、シルキーでもっちりした食感と、濃厚で香りのいいコンフィチュールの2層になっているんです。これをスプーンでいかずによく振ってストローで飲むのが最高!
逆に夜は糖質を取りすぎると良くないといいますから、プレーンタイプを食事と合わせるようにしています。そこさえ抑えておけば、あとはランチ後でも間食でも、好きなもの、気になっていた味を試してみるといいかもしれませんね。
──うまく食べ分ける、か。向井さんのように1kgとはいわずとも、ヨーグルトをもっと日常に取り入れていくことができそうです。
“ヨーグルトの伝道師”の次なる野望
──向井さんのこれからの展開についてお聞かせください。やっぱり、ここまできたらヨーグルトのプロデュースとか?
ありがたいことにお声はいただいています。このコロナ禍でヨーグルト消費が伸びているなか、ブランディングをするにあたり、アイデアのご相談をいただくこともあります。
──今のヨーグルト市場をどうみていますか?
ご当地の乳業メーカーさんたちは本当にいいプロダクトを作っていらっしゃるんですが、残念ながら発信するノウハウを持っていなかったり、生産技術はあるのに生乳が不足しているなど、それぞれに問題を抱えていらっしゃいます。
それらをどう解決できるか。そこに私がどうお手伝いできるか。常日頃からそこを考えています。
今回の「ヨーグルトサミット」にある“酪農家とつながる”というテーマも、ヨーグルト専門家を語るうえで、私自身の課題とも合致する関心の高いテーマ。ヨーグルトを通して、酪農・乳業を永続的に盛り上げていけるような仕組み作りを進められたらと考えています。
──もし、この先さらにヨーグルトの可能性を広げるとしたら?
デザートとしてだけでない、ヨーグルトの楽しみ方を伝えていきたいですね。日本だと加糖のものや甘い味付けのものがまだ多くて、やっぱりデザート感覚なんですけど、コロナ禍でおうちごはんを楽しむ人が増え「ヨーグルトが単なるデザートのポジションに甘んじているのはもったいない!と思うようになりました。
──もっと、料理に活用するという意味?
ドリンクタイプのヨーグルトにもプレーンがありますが、これって「飲む」というよりも、素材として料理に使って欲しいという狙いがあるんですよね。
──消費者にうまく伝わってないわけだ。
そう。食卓に入ろうとしてくれているヨーグルトもあるんです。たとえばジャンルは植物性ヨーグルトですが、フジッコ「大豆で作ったヨーグルト」はおもしろくて、「わさび醤油で食べてみて」というような提案がされているんですね。
だから、ヨーグルトの塩味が展開されたら、普段の料理にもっと合わせやすくなるかもしれない。もっと積極的に料理に使ってみると、ヨーグルトとのかかわりがぐんと広がるはずです。
──斬新ですね〜、しょっぱいヨーグルト。あ、有塩バターみたいなものか。いいタンパク源にもなりそう。
でしょ〜。そこを開拓していきたいですね。
ヨーグルトマニアだけが知る
意外なヨーグルトの食し方。
これを知らずに、ヨーグルトは語れませんよ!