父から子へ。僕らも知っておくべき、老舗「佃煮屋さん」が大切にしていること

炊きたてのあたたかいごはんと、海苔の佃煮。

究極にシンプルな組み合わせだけど「これさえあれば幸せ」という人も多いだろう。

東京・日本橋にある「遠忠食品」は、大正2年(1913年)創業の老舗佃煮屋だ。第一次世界大戦が始まったのが1914年であることを思うと、その歴史を感じざるを得ない。

一般的な乾海苔よりも風味がある “生海苔” にこだわり、 昔ながらの直火釜を使って熟練の職人さんたちが炊き上げている。

今日はそんな、江戸前の佃煮屋さんの3代目と4代目に密着したお話。

おいしさの秘密は、産地にある。
「僕らの仕事は、すばらしい原料があってこそ」

海苔は日本各地で生産されているが、「遠忠食品」が使うのは江戸時代からの名産地である、千葉・木更津のもの。

父である3代目の宮島一晃さんはこう言います。

「海苔は養殖している漁師さんから仲介を介さずに直接仕入れてます。私たち佃煮屋の仕事は原料がすべてのスタートですから。原料が良くないといい佃煮も作れません。商社に任せっきりにするんじゃなくてね。直接取り引きすることで一次産業に触れることができますし、長い目でお付き合いしていけますから」

当然他にもさまざまな佃煮を扱っているので、畑や里山に通うこともあるし、農家さんたちと直接交渉することもある。

最近も一緒に国産ザーサイの視察へ行くなど、生産者を大切にするという哲学は息子の大地さん(4代目)にも受け継がれている。

「父も『あと5年で引退かな』とか言ってるので、それまでに北海道から沖縄まで日本中の生産者さんを一緒に巡りたいなって思ってます。けっこう大変だと思うんですが、それはやりたいですね」

「背伸びはするな、地に足つけろ」
代々守られてきた言葉

その上質な味わいが人気の『江戸前一番摘み生のり佃煮』は、千葉県富津で4代にわたって海苔養殖を営む「鈴藤丸」の鈴木和正さんから仕入れている。使われるのは、やわらかみがあり、旨味が深い「一番摘みの生海苔」だけだ。

なにげない会話からも、お互いへの信頼とリスペクトが感じられる。

 

佃煮の世界では、ときに驚くようなブームで大ヒット商品が生まれたり、注文が倍々ゲームで増えていくような “流れ” があるという。

「だからこそ、先代(2代目)からよく言われたのが、あんまり背伸びをするなってこと。大きい会社と取り引きしたり、無理して背伸びばかりしていくと、必ずどこかで歪みが出てくるということ。でもこうやって地に足つけて生産者さんと話していくとね、次の世代に何をつないでいくべきか気づけると思うんですよ」 

アプローチは違うかもしれない。
でも「もっといい会社に」という想いは同じ。

遠忠食品の本社があるのは日本橋だが、数々のヒット商品を支えてきた自社工場は、埼玉県・越谷にある。

息子の大地さんは、ここの指揮を任されているという。じつは父の一晃さん、一度も「うちの会社を継いでほしい」といった話はしてこなかったそうだ。

「だから嬉しかったですよ。自分から言ってきてくれて、今も一生懸命改革しようと頑張ってくれていますから。僕はもう長くやってるせいで固定観念が強いし、パソコンもダメ。僕がやってこれなかったことを短期間でやってくれてると思います。これから新しい佃煮屋さんが誕生することはほぼない。やるべきことをやっていけば、まだまだいい会社になると思いますよ」

一度は一般企業に就職したという、大地さん。

「社会に出たからこそ、僕が継がないことで1つの会社を畳むことになるもったいなさを感じました。今は長期的に見てもこの会社でやりたいことがたくさんあります。従業員さんの給与や待遇も改善したいし、工場も新しくしたい。父がすごいなと思うのは、本当にタフなところ。その元気さが取り引き先との話し方や接し方にも出るし、相手にも熱意が伝わっている。僕も見習いたいです」

親子2人で話すときは、昔話より、未来の話。

「もっといい会社にしたい」という想いは同じだ。

今年もやってくる、父の日。
お互いを想う、ちょっと贅沢な時間

「やっぱり僕らはずっと日本橋でやってきて、東京の街にお世話になってますから、東京に恩返ししたい想いが強いんですよ。今も『メイドイン東京の会』というのを立ち上げて、東京の食の未来を見つめ直していく活動をしています」

そんな遠忠食品の “おつかれビール”はもちろん、素材と製法にこだわり続ける東京生まれのプレミアムビール「ヱビスビール」だ。

江戸前の佃煮を肴に、130年以上前から江戸にルーツを持つヱビスビールで、久々の親子の時間。

「あぁ、うまい」

「ね」

「海苔の出来もいいな」

「そういえばこの間の件だけど……」

 

飲みの席でも、つい仕事の話が続いてしまう。

これからは、佃煮の新しい楽しみ方も提案していきたいというおふたり。

食卓で白いごはんが減っているから、そのまま佃煮の消費も減るのではなく、ひとつの調味料のように使うこともできるし、アレンジレシピを考えたら無限にアイデアが広がってくる。

もちろん、お酒の肴としても優秀だ。

「体にいい原料と調味料しか使っていませんから」

そのこだわりこそが、遠忠食品がこれからも日本人に大切にされていくべき理由だ。

「いつも、おつかれさま」

 

 

 

取材協力:遠忠食品
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