写真家・花盛友里が「ヌード」を通して創る場所。
今回インタビューに応じてくれたのは、フォトグラファーとして活躍する花盛友里さん。
彼女の代表作でもある女性のリアルな美しさを捉えた『脱いでみた。』は、一般人からヌードモデルを募集して先着順で撮影したものをまとめた作品集。
実際にモデルとなった女の子からは、自分の身体に自信が持てるようになったと評判だという。
また二児の母でもある多忙な彼女は、仕事と家庭を両立しながら表現活動を続けてきた現代のロールモデルのようにも思える。
そんな彼女が話す明るくて軽快な関西弁を聞いていると、彼女が女の子たちにエネルギーを与え続けるワケが見えてきました。
1983年、大阪府生まれ。2009年にフォトグラファーとしての活動を開始。 女性誌や音楽誌、広告などで主にポートレートの撮影を手がける。 女の子が持つ美しさを無修正で映した『寝起き女子』『脱いでみた。』が代表作。二児の母でもあり、下着ブランド「STOCK」を2022年にローンチ。
服飾を学ぶか、写真を学ぶか。
——学生時代の大きかった経験などあったりしますか?
中学を卒業して、アメリカのペンシルベニア州に1年間ホームステイしてました。その時の影響はすごく大きいです。
——どんな影響を受けましたか?
まず親元を離れるということがとても大きかったと思います。
そして、ホームステイ先のおじさんの家が、アーティストの方がたくさん集まる場所で。いつも、若いフォトグラファーやファッションデザイナーがたくさん出入りしているところで、おじさん自身もアーティストでした。
そこで、初めて一眼レフのカメラも触らせてもらったりしましたね。
——帰国してからは、どのようなことをされましたか?
帰ってきてからは、また高校へ行って、その間に友達と写真を撮っていました。友達を着替えさせて、ファッション誌の真似事みたいなこともしてました。
——フォトグラファーを目指し始めたのもそのタイミングでしょうか?
いえ、フォトグラファーを目指し始めたのは、高校を卒業して、写真の専門学校に入学を決めたタイミングです。
実は当時、服飾に行くか写真に行くか悩んでいて。どちらも体験入学に行ったんですけど、その時に写真専門の方が楽しくて学べることがとても多かったので、写真学校を選びました。
写真を撮ることはずっと好きだったんですが、最初は仕事のことは考えていませんでしたね。
カメラ屋でのアルバイト。
——写真を撮るようになった原体験ってあったりしますか?
中2の時に親戚のおばさんから、キティちゃんのプラスチックのカメラをもらって。それがきっかけで、友人たちや風景の写真を撮り始めるようになりました。
——その後、学生時代にはカメラ屋でアルバイトまでされていますね。
カメラがとても好きだったので(笑)
——“カメラそのものへの愛”というものも大きいですか?
そうですね。撮ることはもちろん好きなんですが、フィルムカメラを見たりするのもとても好きです。最近は行けてませんが、中古カメラ屋巡りなんかもよくしていました。
——フィルムカメラへのこだわりもあったりするんでしょうか?
仕事は基本的にデジタルカメラを使用しているのですが、フィルムカメラは1つ1つ個性が違って、撮っていてとても楽しいです。機種が同じでも、個性が違っていたりします。
——現在は、フォトグラファーとしてご活躍されているわけですが、当時から広告表現にも興味がありましたか?
中学生の頃は、広告としての人の写真は全くみてなかったです。人物や広告の写真について意識するようになったのは、専門学校に行ってからですね。
撮影は、お互いにとってのセラピー。
——花盛さんの代表作でもある『脱いでみた。』の写真集について、質問させてください。この作品は、一般の方からモデルを募集をして撮影されていますよね。作品の制作経緯について教えてもらえますか?
世の中の女の子たちが、もっと自由に自分のことを愛せたらいいなと思って作りました。
広告の仕事をしていく中で、綺麗なモデルさんたちもコンプレックスを抱えていたっていうのを知って。もっとそういうのを表現したら、一般の人たちも楽になるかもって思っていました。
そうしたら広告やブランドの人たちも、こういうブランディングをしたいって、仕事を依頼してくれる人が増えましたね。
——モデルの方は、写真を撮られるのが慣れていないことも多いと思います。その中で写真を撮る秘訣ってあったりしますか?
緊張させないこと。それが一番大事ですね。
自分も殻は被らないようにします。相手にすごくオープンになってもらうので。裸にもなってもらうし。私もオープンの状態で撮影することは心がけてます。
あとは最初の挨拶。扉を開ける瞬間が1番で大事なんで、 「こんにちは、初めまして」っていう瞬間をすごい大事にしてます。
——修正が施された広告が当たり前になっていることについては、どう感じてますか?
広告はレタッチが凄いですよね。私は普段それを毎日やっていまして、でも、それも否定するつもりは無いんです。
広告とか雑誌って憧れの対象であるべきだと思うし、新しいファッションの美しいビジュアルは、私も素敵だなと思います。
一方で若い子が自分の肌をSNSに載せる時に、綺麗にしないといけないって思っちゃったりしていて。なんか、一般の人たちがそういう風潮になってるのが悲しいです。
自分のことを直視できない子だったりとか、子供たちが育っていく世界がそうであってほしく無いと思うからこそ、そういう表現とは違う場所を作りたいなとは思ってます。
——なるほど。子供たちが育っていく世界のためと。
そうですね。それにレタッチした美しい姿だけが全てじゃないっていうのも、普通の人に知ってほしいなと思って、『脱いでみた。』は無修正で出してます。
例えば、線があったりとか、ニキビがあったりするのも、全然当たり前のことじゃないですか。私も消そうとか、あの人たちは綺麗だからっていう気持ちにばっかりなるのは、やめようよって言いたいです。
——ちなみに、ご自身も身体にコンプレックスを感じていたりしますか?
コンプレックスだらけですよ(笑)みんなそうだと思いますけど、自分のことめっちゃ好きみたいな感じではないです。
ただ写真を撮っているとき、「あ、この子すごくここが綺麗だな」って思った瞬間って、自分のこともすごい肯定している気がして。
みんな撮影終わった後、すごいハッピーになって帰ってくれるんですが、実は私も同じぐらいハッピーになってます(笑)
お互いセラピーを受けているみたいな。
フォトグラファーとして、できること。
——最近欧米では、「ボディ・ポジティヴ(自分の身体に自信をもとう)」ではなく、「ボディ・ニュートラル(ありのままの自分を受け入れる)」というワードが浸透してきています。お話を聞いていると、その言葉が浮かんできました。
そうですね。自分の全部を好きになろうとか、ボディ・ポジティヴになろうとかって少ししんどいなって思ったりします。
そういう感じよりは、「ここ嫌いなんですよー」って言われたら「わかる、わかる、私もそういうところある」みたいな感じで応えます。
その上で、「でも写真では、こんなに綺麗に見えるよ」と言えるのが私にできることかなって思ってます。
「自分で思っていることって大体他人に見えてない」って伝えたりもします。そういうことを考えるのはやめようっていうのは、あまり言わないですね。
——花盛さんが考える“美の基準”とは?
たくさん女の子を撮ってきて、すごく思うのは、“美しい”って見た目じゃないんだなと思います。凄い使い古された言葉ですけど(笑)
自信を持っている人は、やっぱり美しいなと思います。
写真を撮っていて、モデルの方がポジティヴになっていく過程で、美しさが変わっていくというのは何度も目の当たりにしてきました。
——そういった感覚は、学生時代からの積み重なりだったりするんでしょうか?
それは、完全に『脱いでみた。』を制作してからですね。
それまでは、見た目が美しい人が美しいと思ってました。でも、『脱いでみた。』を通して初めて、“美しい人”はこういう風に考えてるんだってなって。
そこから、一般の方とたくさんお話ししながら撮影するようになり、40分の撮影の中で、どんどん可愛くなっていく過程を感じるようになりました。
私たちみんな、美しい。
——花盛さんの作品は、女性を被写体にしたものが多いですよね。そこに理由はありますか?
女の子って私の分身だと思ってて。自分を撮っているのと同じなんですよね。共通点も多いし、理解できる範囲も広いし。
あと、子供を産んでから、女の人の強さをすごく知ったんですよ。だから、全力で応援したいんです。
私たちは強いし、美しいし、誰かに評価される必要なんてないって。
私たちみんな美しいっていうのをすごく伝えたくて、女の子たちにパワーをあげれるように、女の子の裸を撮るんだと思います。
——子供を出産された経験は、大きなきっかけでしたか?
本当に大きいですね。長男産んでから、育児ってこんなに大変なんだっていうことを知りました。誰にも褒められなくて、孤独で、授乳中は可愛い服も着られない。 「牛やん」みたいな(笑)
で、体型も変わって。なのに、ハッピーでいないといけない。愚痴もあまり言えないじゃないですか。
そういうこともあって妊婦さんをすごく応援したいし、「ママはすごいよ、頑張ってるよ」って言いたいです。
——去年は「STOCK」というアンダーウェアブランドをローンチされましたね。モデルには一般の方を起用されていたり、妊婦の方でも着れるタイプがあったりと、花盛さんの集大成のようにも感じます。
ありがとうございます。
『脱いでみた。』を制作しているときから、いろんな下着ブランドを買ったり借りたりして、モデルさんに着せていたんですよ。その中で、日本人に合う可愛い下着ってめっちゃ少ないなと感じて、ブランドを立ち上げました。
お母さんになっても下着選びを楽しんだって良いんじゃないかとか、いつもは着れないような派手なのを着てもいいんじゃない、みたいな感じでちょっと遊び心のある下着を作ったり。授乳もできるものも作っています。
——サステナビリティにも考慮されて作られていますよね。
やっぱり年齢を重ねたっていうのが大きいと思うんですが、 不必要なものは不必要だし、何かを買う時にはちゃんと考えて買うようになりました。
新しいブランドが生まれる時に、 地球のことを考えないブランドって、果たして必要あるんだろうかと考えたり。
100%サステナブルはまだまだ難しいですが、地球環境に配慮したものを作っているよと発信していくことで、1人でも多くの人が、環境のことを考えて買い物した方がいいんだなって気づくきっかけになれば良いなと思ってます。
——最後に、既に多くのことを実行されている花盛さんですが、今後チャレンジしてみたいことはありますか?
そうですね。服を作るというのも夢の1つだったのですが、それは実現しました。今は、カメラのストラップも作ったりしています。
あとは、写真学校なんかで写真を教えるっていうのをやりたいなと思っています。
花盛友里写真展「脱いでみた。」開催
<概要>
期間:2023年3月28日(火)~4月3日(月)
場所:UltraSuperNew gallery(東京都渋谷区神宮前1-1-3)
時間:11:00~19:00 (初日28日 15:00~ 最終日4/3 17:00閉館)
WEB:http://www.yurihanamori.com/news/
<個展テーマ>一番自然、だから一番綺麗。をコンセプトに、モデルの選考はせず、
一般の女の子たちのヌードを先着で撮影している「脱いでみた。」プロジェクト。前回は1000人近い人が来場し、最終日には外まで並ぶほど盛況だった写真展をフォトグラファー花盛友里が7年ぶりに開催致します。また個展期間中、自費出版写真集 ”And just like that,It’s been 26 years” を発売予定。
これからの世界を創りあげていくであろう
新時代の『イノベーターズの頭の中』を覗いてみよう。