アジア文化を融合させた気鋭ブランド「DOKKA vivid」デザイナーの2人が捉える業界の未来
NYファッションコレクションでもショーを披露したことで話題となった新進気鋭のファッションブランド「DOKKA vivid」を手掛けるのは、Z世代を代表するデザイナー菅内のど佳と夏明豊の2人。
小学生からの同級生で、中国舞踊を通して絆を深めたという関係性だ。夏さんは中国にルーツを持っており、同地の伝統文化をデザインにも活かしているというが、これは飽くまでもデザインについての話。
インタビューを通じて2人の言葉のリズムに身を委ねてみると、彼女たちが捉える「ブランド」という概念が、既存のファッションブランドの枠組みを超えていることが強く伝わってきた。
まったく新しく、そして力強い波を起こそうとしている彼女たちの「頭の中」をインタビューを通して覗いてみてほしい。
大阪文化服装学院スーパーデザイナー学科卒業。
日本人でありながら、インターナショナルスクールや中華学校に通うなどの異文化的なバックグラウンドを持つ。ジャズピアニストの父の影響で、幼少期からジャズに触れる機会が多く、音楽からファッション的インスピレーションを得て、クリエイションに落とし込むことを得意とする。現在ブランドと並行して、母校である大阪文化服装学院でSNSマーケティングゼミのアシスタントを担当し、学生のマネジメント業務にも従事。
大阪文化服装学院スーパーデザイナー学科卒業。
日本生まれの中国籍というルーツを持ち、その背景から文化的要素を捉える感性や、当たり前にとらわれず多角的視点で物事を捉えることが得意。服飾学校在学当時から、アップサイクルに興味を持ち、ロンドンで開催された「Coats sustainability competition」に参加、グローバル部門2位を受賞。その他トータルブランディング事業を展開する株式会社フラクタにて、新規事業開発やブランディング業務をインターン兼Z世代のリバースメンター的立場から携わる。
中国文化へのルーツ。
——まずは、お二人の出会いについてお聞かせください?
菅内 もともと小学校からの幼馴染で、中学校も一緒の学校に行って、高校は別の学校に行ってました。そこから服飾の専門学校で、また一緒になった感じです。
——かなり長い付き合いになりますね。
菅内 そうですね。私たち中華学校に通っていて。私は日本人なんですが、親の教育方針で国際的な教育を受けさせたいということで。
夏 私はルーツに中国があって、中国の文化に触れさせたいという経緯で中華学校に通ってました。
菅内 小学校4年生の時に部活が選べるんですけど、中国民族舞踊部という部活があって、そこで仲良くなりましたね。中学までずっと続けていて、中学卒業後もOGとして、部活に参加していました。
——なるほど。中国舞踊クラブで交流を深められたと。
夏 私のルーツは、北京より北にある瀋陽という場所でして。日本で言うと東北地方のようなとても寒いところです。じつはブランドに使用しているテキスタイルは、この地方の伝統的な花柄を使用していたりするんです。
——中華学校の思い出などあったりしますか?
夏 基本的に先生とは、日本語を喋っちゃダメで、中国語で会話しなくてはいけなかったです。もちろん、授業内容も全部中国語なんですよ。数学の授業とか、理科の授業とかも説明からなにから中国語で受けてました。
あとは運動会では、「舞龍(ウーロン)」っていって竜を持ちながらパフォーマンスをしたり。準備運動の代わりに、太極拳があったりしましたね(笑)
——お二人とも日本で育ちながらも中国文化が常に身近にあったんですね。
夏 そうですね。小・中学時代を本当にそういうカルチャーに囲まれて育ったので、高校へ行ってからの、ギャップが凄かったです。普通の教育がこれか……みたいな(笑)
——ちなみに、中国舞踊は今もやられているんでしょうか?
菅内 もう卒業しました。でも、中国舞踊は2人のルーツでもあるので、その時の衣装のテイストを活かして、今はブランドを作っています。
手探りで創ったファースト・ピース。
——ファッションへの興味はいつ頃から?
夏 もともと、おばあちゃんが派手な人で、おもしろい服をたくさん着させてくれたんですよ。
なので、幼少期からファッションは大好きだったんですが、小4のときに矢沢あいさん原作の映画『Paradise Kiss』を観たときに、この世界に入りたい!って強く思いました。
菅内 私もおばあちゃんがファッション好きな人で、小さいころからお下がりをもらって、着たりしていたんですよね。そんな経緯で古着が好きになって、服飾の学校へ行くことにしました。
昔から絵を描いたりすることが好きで、デザイン画なども描いたりしていました。
——お二人はかなりアクションが早いですよね。高校時代にはもう服を製作していたと。
菅内 そうですね。高校3年生のときに初めて神戸でグループ展を開いたんですけど、それはとても印象的な出来事で。そのとき初めて作った服が、ファーストサマーウイカさんがレギュラー番組で着用してくださっているんです。
当時は、パターンとかの作り方も分からず、本当に自己流で服を作っていました。
——「DOKKA vivid」の衣装を見ていると、まさに「Vivid(色鮮やかな、鮮明な)」という印象です。色彩感覚は、やはり中華文化からの影響が大きいですか?
夏 そうですね。学校内に獅子舞部があったり、私たちも中国の民族衣装を着ながら踊っていたので、衣装の配色はすごく影響を受けていると思います。
——ちなみに、中国のファッションシーンなんかも注目されていたりしますか?
夏 めちゃめちゃしてます!特にここ数年は凄く熱いですね。正直、新型コロナウイルス流行前の中国って、トレンドっていう概念すらほぼ存在してなかったんですよ。街中に出ても、オシャレな人は少なかったです。
——そうなんですか。
夏 私は長期休みに、親の里帰りも含めて、中国に年に1回は行っていたんですけど、本当にコロナ以降で、特に上海のファッションシーンが盛り上がったのをきっかけに中国全土が盛り上がっている印象です。
「チャイボーグメイク」なんかも流行ったり、中国人のデザイナーさんも凄く活発になってきています。
心がモヤモヤしないクリエーション。
——2022年には、NYファッションウィークでコレクションを発表されましたね。そこまでの経緯を伺っても良いですか?
菅内 アジアの中の新人デザイナーを発掘する「アジアファッションコレクション」というコンテストがあって、そこでグランプリを頂いたプライズで、NYコレクションまでいけたという流れです。
ただ実際は、当時コロナ禍でニューヨークまで行けなかったんですよ……。
服だけ送って、ショーは動画で見届けた感じで。やっぱりリアルでこの場所行きたかったなっていう思いが、素直な感想ですね。
——確かに悔しい気持ちも残りますね。
夏 そうですね。ニューヨーク自体の体験は、オンラインだったので薄かったんですけど、個人的にはそこまでの制作の道のりが大きかったです。
じつは当時、学校内で個人のブランドも併走でやってて、2つのコレクションの制作のためにかなりの時間をかけました。2週間ぐらい2人で徹夜しながらずっと死に物狂いで制作したり。それを成し遂げた自信は、今の糧になっているなって思います。
菅内 それに、あのときニューヨークに行けなかったっていう悔しさがあるおかげで、もう1回目指したいという今の目標にもなってます(笑)
——国を超えて評価されたことは、揺るぎない事実だと思います。サステナビリティへの配慮といった部分もブランドの大きなコンセプトですよね。
菅内 そうですね。サステナビリティに関しては、服飾学校時代からずっと、このまま服を作っていてよいのかどうかっていうモヤモヤがすごく強かったんですよ。
それで、古着から服を作ったりするという発想に繋がりました。
新しい生地を買ってというよりも、捨てられてしまうものを使って、より良いものを作るっていうやり方が自分たちのクリエーションを発揮しやすかったんです。心のモヤモヤがなかったんですよね。
——「心のモヤモヤ」ですか。
菅内 心のモヤモヤがあると、クリエイションにすごく影響されるなっていうのを感じていて。
「環境のため」と言うのはもちろん大前提なんですけど、その前に「自分たちの心がモヤモヤしないクリエーション」というのを凄く重視しています。
——いっぽうで、1点ものから製品を仕上げるのは、大変でもありますよね。
夏 正直、ゼロから作り上げる方が逆に楽しいです。デザイン画を描いて、それに近づけるためにパターンを起こして、それ通りに縫うっていうのはあまり好きじゃなくて。もうデザインの時点で作るものが決まってる状態って、私はワクワクしないんですよね。
古着であれば、1回分解した状態でどうなるんだろうってワクワクを感じながら、クリエーションができて。こことここ引っつけたら、なんか新しい形が生まれるかもしれない!とか、2人であーだこうだ言いながら楽しく作れるのがアップサイクルだなって思ってます。
「DOKKA vivid」という世界観。
——お話を聞いていると、「DOKKA vivid」がとても強い信念を持ったブランドだと伝わってきました。
菅内 私たちファッションブランドなんですけど、パーパスがあるんです。「“LOVE”の気持ちを持って、“HAPPY”な循環をし、世の中に新しい選択肢を提案する」っていうもので。
それを包括して、「Spice for your life」というのがブランドのコンセプトなんですが、自分たちの色やパワー(=スパイス)をいろんな人の日常に提案していきたいという意味を込めてます。
夏 今はどんな角度から「DOKKA vivid」のスパイスを提供できるか、ずっと考えていますね。ファッションはその表現手段の一部と捉えています。
例えば、今はカラーコーンを使って、3Dプリンターでランプを作っていまして。服っていうカタチにはこだわらず、優しさとカラフルを両立したいろんなものを提案できれば良いなと思っています。
——なるほど。ファッションはブランドにおける表現手段の一部なんですね。
菅内 私たちは、「世界観」っていうところに軸を置いています。このカラフルでビビッドな世界観を通していれば、いろんな形でプロダクトが変化していっても、全然いいなと思っているんです。
むしろ、こういうブランドの形ってあってもよいんだということを提案していけるブランドになればいいなって思ってます。
——鋭い洞察力……。そういったブランディングを考えるようになった経緯って?
菅内 リアルな話を言うと、学生の頃からいろんなポップアップストアを百貨店で開いていた経験が大きいかもしれないです。その中でも、1点1点の価値が高いものが売れているなと感じていて。
夏 ポップアップで売れたものの統計を取ってみても、やっぱり世界観が出ているものが売れているんですよ。一般の方向けにTシャツだったりとか、着やすい物を用意していても、結局売れるのはカチューシャとかマスクとか「DOKKA vivid」らしいものが売れるんです。
——やはり、鍵となるのは「世界観」?
菅内 そうですね。やっぱり通常のマネタイズのことを考えたら、量産して在庫を抱えたりすることもあると思うんですけど、そうしてしまうと、ブランドの軸がズレることで、またモヤモヤしてしまって……。
夏 あと、これからはポップアップストアよりも私たちでイベントを開いていきたいとも話し合ってて。やっぱり空間の作り込みに関して、ポップアップだと制限があるんですよね。
世界観を重視しているぶん、空間を含めて服を見てもらうっていう状態がいちばん楽しんでもらえるし、私たちもそういうアウトプットがしたいっていう思いがあります。
新しいカタチのプレスルーム。
——「DOKKA vivid」の今後の活動についても聞かせてもらえますか?
菅内 去年は、リース(衣装の貸し出し)が、ブランドを支えていました。私たちの服は1点ものが多いので、価値が高くてリースに向いているんです。それを通じて、たくさんのスタイリストさんと繋がれました。
で、そんな経緯もあって今年の4月からは、新しいプレスルーム「SPICE ROOM powered by OIF」をプロデュースする計画があります。
母校である「大阪文化服装学院」の学生・卒業生は、尖っていながらもクオリティの高い作品を作っている方が多いんです。けれど、大阪という土地柄、なかなかスタイリストと繋がれる機会も少なくて。この場所を通して、自分たちの人脈のほか、もっといろんなブランドさんやスタイリストさんが繋がって欲しいと思ってます。
——なるほど「プレスルーム」ですか。
菅内 この場所は、半分プレスルーム、半分アトリエみたいな形で動かしていこうと考えています。「業界の人たちの声」って、 衣装を制作するうえでもすごい大事になってくるんですよね。それをリアルで聞きながら、衣装を作れるっていうのも、デザイナーにはモチベーションになったりすると思います。
夏 私は今って若い世代が集まるリアルなコミュニティが少ないっていうことをとても感じていて。
昔であれば、若くておもしろいアーティストとかクリエイターの子たちが集まるコミュニティが原宿とかにあって、そこに行ったら、いろんな人と繋がれるみたいなことがあったと思うんです。今はInstagramで散らばっているような。
自分たちは、ここを拠点にして、尖ったデザイナーだったりクリエイター、アーティストたちの交流の場を作れれば良いなと思っています。
——確かに、プレスルームとアトリエであれば、多種多様な人がリアルに集まりそうですね。
菅内 コミュニティを作っていた方が、東京のいろんなジャンルの尖った人が集まりやすいんじゃないかなと思います。
やっぱり人が集まることで、仕事が生まれることっていうのが結構多くて。そういう形で新しい仕事とか、可能性を作れるんじゃないかなと思ってます。
——最後の質問になります。お二人は世界にも出て行きたいと考えてますか?
菅内 そうですね!日本っていうよりは世界を相手にしたいと思ってます。今年の12月にはタイでコレクションを発表しようかと思ってます。そこから、アジア圏をベースに海外進出できたら良いなと思ってます。
「SPICE ROOM powered by OIF」概要
ブランド「DOKKA VIVID(ドゥッカビビット)」を運営する大阪文化服装学院(以下OIF)卒業生デュオ、菅内のど佳&夏明豊とOIFが協同で運営するプレスルーム事業。OIFの現役学生や卒業生によるブランドに対しタレントやアーティストなどからのリース依頼が急増している状況に対応すべく、ローンチされることになった。
運営主体は、菅内のど佳&夏明豊。自身のブランドに加え、数ブランドをセレクトしたプレスルームを運営し、PRからリース対応までを行う。OIFは、経済的支援に加え、学生への情報提供、メディアや業界へのPRなど当事業の広報面でのサポートを担う。2023年4月ローンチ予定。
これからの世界を創りあげていくであろう
新時代の『イノベーターズの頭の中』を覗いてみよう。