一席12万円という価格以上に「ノーマ京都」が残したインパクト
「noma(ノーマ)閉店へ」
世界一のレストランが、2024年末をもって通常営業を終えることを発表したのが今年1月。世界中のグルマンディに衝撃が走ったこのニュース、いまだ記憶に新しい。
2003年の開業以来「ミシュランガイド」における三つ星に評価され、「世界のベストレストラン50」においては、じつに5度の世界1位を獲得したファイン・ダイニングの一等星。
北欧食材を用いて斬新な調理法と演出にこだわり続けたオーナーシェフ、レネ・レゼピの料理は、デンマークから起こした“美食”という意識改革そのものだった。
およそ20年に渡る“noma劇場”、そのカウントダウンがはじまってもなお精力的に革新と挑戦をレネは世界に示してみせた。
ニュー・ノルディック・キュイジーヌが
京の都にやってきた!
nomaが京都にやってくる──。
2022年10月、第一報が世界を駆け巡った。翌月、ポップアップレストランの会場を提供した「エースホテル京都」の特設サイトにて世界同時予約スタートとなるや、またたくまに席が埋まった。
こうして、今年3月15日から先週20日までの10週間。期間限定レストラン「Noma Kyoto」は多くの美食家たちの舌を唸らし、大盛況のうちに幕を下ろした。
地元京都をはじめ、日本全国から選りすぐりの食材をかき集めた独創的なコース料理が、飲み物とのパッケージで775ユーロ。現時点での為替レートでも日本円でおよそ11万5000円、ここにサービスチャージが付けば12万円を超える。
比類なきファイン・ダイニング体験にこれを適正と捉えるか、高嶺の花と諦めたかは人それぞれ。もちろん筆者は後者だが、キャンセル待ちで一縷の望みをかけた部類。
では、幸運にものれんをくぐれた方々の投稿を拝借して、どんな世界観が表現されていたかをご紹介したい。
ビジュアルだけだといったいどんな料理だったのかも想像がつかない。これが超絶技巧を駆使するnomaの料理。コメントから、トマトの花や山菜、筍、海藻のしゃぶしゃぶ、しじみ、メカジキ、伊勢エビなどが使われていたことが推測できる。
「はじめから終わりまで驚きの連続」
「北欧料理と日本の懐石が完全に調和していた」
「自然への敬意を感じた」
「世界を牽引してきたレストランの実力を見せつけられた」
「もはや料理を通じた哲学でありアート」
……SNSを埋める感嘆からも、食の概念をも覆してしまうレネの、nomaの真髄をそこに感じ取ったであろうことは想像に難くない。(うーん、ただただ羨ましい)
ところで、nomaが日本で期間限定レストランを開くのはこれが初めてではない。
2015年、本店を臨時休業させ77人のスタッフを引き連れやってきた東京で、32日間の「ノーマ・アット・マンダリン・オリエンタル・東京」を成功させている。
当然ながら、こちらも熾烈なリザベーション争奪戦が繰り広げられ、期間中に用意できる約2000席を巡って世界中からおよそ6万2000人がウェイティングリストに名を連ねた。
“常に進化し、挑戦し続ける”ことを貫くレネとスタッフたちの奮闘ぶりを描いたドキュメンタリーは翌年映画化されているので、興味のある人はこちらに詳しく。
ガストロノミーの現代語訳そのものだった「noma」のネクストステージについて、レネは1月、米紙「ニューヨークタイムズ」に専門のフードラボとして生まれ変わらせると発言している。
土着の文化や季節感を大胆に、繊細に、そして自在に取り入れながら、北欧から料理の再構築を図ったレネの次なる野望に、ウェイティングリスト最底辺の筆者も期待せずにはいられない。
2年後、いったいどんな幕が開くのだろうか。